エルビス・コステロとジャズマスター
僕が初めて外タレのライブに行ったのは、1984年のエルビス・コステロ渋谷公会堂来日公演だったと思う。当時僕はまだ高校生で、インペリアルベッドルームが発売された直後で夢中だった。すごくアグレッシブなライブだった記憶がある。「パンプ・イット・アップ」が一番盛り上がった。ロックンロールショーだった。その年に発売されたグッバイクルエルワールドも最高だった。ベストヒットUSAで流れた「アイ・ワナ・ビー・ラブド」のPVが好きだった。
□Elvis Costello & The Attractions - I Wanna Be Loved
しかしその後、コステロはポーグスが「フィエスタ」の中で「コステロ、グレート・アメリカン」と揶揄したあの「キング・オブ・アメリカ」をリリースして、その後はなんだか急に大人びて、知的で、偉くなってしまったような感じがした。
○King of America
ポールマッカートニーと「ヴェロニカ」を共作したり、「ジュリエット・レターズ」では弦楽四重奏をバックに歌ったり。スタジオの壁一面に拡大コピーしたジュリア・ロバーツを見つめながら歌ったという「She」が大ヒットして、日本のテレビでも流れたりした。ちょっと上級芸能人のような感じになってしまって興味が薄れていった。それで90年代に入ってからはほとんど聞かなくなった。でもちょっと待てよ、90年代に入ったのはもう30年も前じゃないか。この30年間何があったのか知る必要はあるだろう。
○エルヴィス・コステロ自伝
2020年の1月発行。初版から3年が経っている。ずっと本棚に並んでいた。何しろぶ厚い。773ページ、しかも二段組。読む気がしなかった。この本はコステロ自身が語った彼の人生である。時系列がはちゃめちゃである。子供の時の話だと思えば、最近のエピソードに話がとび、行ったり来たりする。正直いうと後半は飛ばし読みだった。しかし、これをほんとに自分で書いたのならすごい。すごい情報量。すごい記憶力。
同じくミュージシャンだった父親の話が多い。初めて写真を見たが、そっくりなのはもちろんだが、その髪型、衣装がなんだか本人より奇抜で芸人っぽい。本人曰く、父さんの方が今風の格好をしていて、自分はみすぼらしくて古臭く、なんだか普通とは逆のジェネレーションギャップがあった、と。二人でCMソングを歌った面白エピソードが載っている。元々父親はいくつかCMの挿入歌の仕事をしていたそうだが、まだデビュー前のコステロもたまたまスタジオに居合わせて参加したのだそうだ。下の動画が当時のCM。歌っているのはコステロの父親だ。二番目は調子に乗って本人たちも出演した動画だそう。
□実際のCM(秘密のレモネード)
□そのCMの第二弾。キーボードが父親、ドラムがエルビス・コステロとのこと。
父親は2代くらい前に移住してきたアイルランド系で苗字は”マクマナス”。そんな名前のアイリッシュパブがありそうだ。当然カトリックで、家の本棚にはイエイツやワイルド、ブレンダン・ビーハンの戯曲なんかの本があり、コステロもそういう本を読んで育ったという。だからアイルランド系としてのアイデンティティは強かったのだと思う。母親はロンドンのレコード屋で働いていて、ミュージシャンで音楽を仕入れるためにそこに足繁く通う父親と出会ったようだ。この母親の写真が載っているが、女優のように綺麗な人だ。
父親が仕事で歌を覚えるために仕入れてくるビートルズのレコードを片端からもらって聞き込んだ少年時代。リバプールに引っ越してからは友達とバンドを組んで、演奏をさせてくれる店を探して回ったのだという。やりたい曲を友達と出し合った時、コステロが提案したのがヴァン・モリスンの「アストラル・ウィーク」「ムーンダンス」だったそうだ。僕もファンなのでなんだか嬉しい。またジョニ・ミッチェルのブルーが発売された時、あまりの音楽性の高さへの感動と自分達の才能の無さに絶望感を両方感じながら友達と一緒に何度も聴き続けたそうだ。言われてみれば、コステロの曲は、ジョニ・ミッチェルの少し浮遊感のある、取り留めの無い感じのメロディが似ているところがあるかもしれない。「New Lace Sleeves」「Beyond Belief」とか。
□Elvis Costello & The Attractions - New Lace Sleeves
とにかく様々なミュージシャンとの逸話は非常に興味深い。ボブ・ディランに秘密のパーティに連れて行かれた話、ロバート・プラントに向かって「お、天国への階段だな」などと揶揄って怒らせた話(デイブ・エドモンズが取り成したそうだ)、まだ15歳で覚えたてのギターで初めて人前で歌うことになった、父親に連れられて行った店で、イワン・マッコールが歌っていたという話まで。ロックの歴史としてもなかなかの研究素材、証言集ではないか。
もう一つ興味深かったのは恋愛遍歴。1985年のポーグスのアルバム「Rum Sodomy & the Lash」をプロデュースした際にベーシストだったケイト・オリオーダンと1986年に結婚している。それもあってポーグスのシェーンから嫌われているみたいで、本の中にも「彼は僕のことを完全に軽蔑していたが、それにもかかわらず僕は彼を尊敬していた」との記述がある。その後離婚して2003年にジャズピアニスト・シンガーのダイアナ・クラールと再婚した、というニュースを聞いた時は、ああ色男は違うなあ、などと軽く思っていたのだが、ケイト・オリオーダンとの結婚生活は実に17年に及んでいるのだ。そんなに次々と奥さんが変わっているわけではない。ちなみに最初の奥さんは売れる前に知り合ったアイルランドのゴールウェイ出身のメアリーさん。この本の中でも美しい思い出と共に語られている。ということでダイアナさんは3人目の奥さんということになる。ちょうど彼女と出会った頃のライブ映像がこちらだ。これをみたらコステロくんが惚れるのもわからないではない。
○ダイアナ・クラール「ライブインパリ」
□Diana Krall Live in Paris
とにかく多作の人なので、僕にとっては、この20年間くらいの大量の未だ聞いていない楽曲があるということだ。今回この自伝を読んでコステロのことをちょっと見直しちゃったので、老後の楽しみとしてこれから聞いていこうかなと思う。本で知ったのだが、2008年から2009年にかけて「スペクタルズ」というテレビ番組のプレゼンターとして、エルトン・ジョン、ルー・リード、ポリス、U2、ブルース・スプリングスティーンなんかをゲストに呼んで、一緒に演奏したりインタビューをしたりしたようだ。動画を探して見てみようと思う。(下の動画、なんとコステロがルーリードと一緒に演奏している。)
□Elvis Costello - Lou Reed - Set the Twilight Reeling on Spectacle
ギターは小さな頃に家族で行ったスペイン旅行でお土産に買ったショートスケールのスパニッシュギターが最初だという。その後初めてバンドを組んだ時はギブソン風のドレッドノートを抱えている写真がある。
しかしコステロといえばジャズマスターだろう。下のインタビュー、英語がよくわからないが、店先にかかっていたのを気に入って手に入れたとのこと。トレモロアームでスパイ映画のサントラっぽい音が出るのがいい、と「Watching the Detectives」の一節を弾いている。
□コステロ「ジャズマスター」を語る
彼の愛用ギターを調べると・・・
Fender Jazzmaster Electric Guitar
Fender Telecaster
Epiphone Casino
Danelectro Convertible
Gibson Super 400
Danelectro 56-U2 Baritone Reissue
Fender Jaguar
Martin 0M 28
Gibson Les Paul ...
Gretsch G6196T Country Club
Gretsch White Falcon Electric Guitar
Silvertone Harmony 1446
Vox Apache-1-SF
Magnatone Typhoon X-20
Rickenbacker 360/12 12-String Electric Guitar
Gibson J-160E
Gibson 1937 L-00 Legend
Epiphone Zephyr Emperor Regent Tenor
Epiphone Sheraton II Pro
Silvertone 1446
Gibson J-50 Jumbo
Gibson ES-350 Tenor
Danny Ferrington "Elvis Costello" Acoustic
Martin MC-28 Acoustic Guitar
Kay K162
Ovation Collectors Series
Ampeg AEB-1 Bass
Gretsch Chet Atkins 6120 Tenor
1957 Gretsch 6022 Rancher (Double Guard)
Zenon Audition 1960's
Washburn D10CE
Gibson ES-125
どんだけギター持ってんだ。
とにかくどの写真見ても違うギター持っている、という感じ。