アレンジの話③

前回、編曲を始める際にピアノから着手する場合の
手順やメリットついて言及しました。
その途中で“大きな短所”があると書きましたので、
今回はそこから切り込んでまいります。

まず、同じピアノロール内で全ての音が俯瞰できると
より音楽的なアプローチが可能になると説明しましたが、
これは裏を返せば、声部を意識した
クラシカルな編曲には不向きということです。

とりわけオーケストラみたく、横の流れ、
全体の響きを重んじる和声的なアレンジにおいては
かなり不利に働くので、避けた方が無難でしょう。
そういうのはピアノじゃなくて、実際に使うべき楽器
(各音域に対して適切な楽器)で構成を考えいかないと
最終的にインチキでチープな音になりやすいです。
※あくまでイメージを掴むための下書きとして
 最初にピアノで土台を組むこと自体はよいのですが、
 その際はボイシングを考慮して打つ必要が出てきますし、
 ならば端から“実際に使うべき楽器”を想定して
 書いていくほうが合理的な選択といえます。

お次は、前回の記事でいうところのパターンC――
“ピアノパート”が完成した段階における短所を述べます。

当該トラックには、メロディやメロディ補助、ベース、
コードトーンといったたくさんの情報が含まれており
このパートを主軸に他の楽器を入れていこうと思った場合、
「楽曲としての雰囲気がほぼ確定している状態」で
他の音を足していくかたちになります。

実はここに落とし穴があるんですね。
それは、その“他の音を足していく”際に
自由な発想・動きが封じられてしまうこと。

いかんせんピアノの顔色を窺いながらの編曲になる関係で、
(ピアノが作った世界観に耳が慣れ、引っ張られる関係で)
無難で大人しい音程を選ばざるを得ない“制約”が発生するのです。

むしろそれを主目的に据え、作業効率アップや
楽曲の量産を前提とした方針を打ち出すつもりなら
無問題なのですが、躍動感のある魅力的な他パートをつくって
個性を出したいと考えている場合は、難儀な枷になり得ます。

一応“ピアノパート”の音量を下げたり
コンプで強く潰して引っ込めたりすれば緩和はできるのですが、
それではせっかく作ったニュアンスが死んでしまい
本末転倒感が否めない……。
つまり、このアレンジ技法はとっかかりとして優秀だけども
それ以降のフェーズで楽曲のブラッシュアップを図る際は
邪魔立てしかねない諸刃の剣だということです。

別の言い方をすれば、伴奏をカッチリつくりすぎると
それ単体で“ピアノアレンジ”として成立するがために
後から他の楽器が付け入る隙間が相対的に少なくなり、かえって
編曲の幅が狭まってしまうデメリット、といったところでしょうか。

ここまで読んでくださったかたなら
「そんなの当たり前じゃない?」と思うかもしれませんが
私は長年このスタイルを過信して強行してきたクチなので
毎回上記のデメリットと格闘しては
全体のバランスを取るのに四苦八苦しておりました。

まあ結果的に、良くも悪くも
“他の人がやらない音”になるという
得がたいリターンはあったわけなんですけど……
直近はもっと良い方向に進んでいけるような技法を
開拓しつつありますので、次回の記事で紹介いたしますね。

いいなと思ったら応援しよう!