アレンジの話②
イラストでいうところの“線画”のような感じで、
私はアレンジをする際に最初、
ピアノ音源で下書きをつくる場合が多いです。
なぜピアノ音源なのかといいますと
・楽器の中で最も音域が広く、これ単体で低~高音域まで書ける
・ゆえに曲の雰囲気・方向性を決定しやすい
・書いてる最中は他のことを考えなくていい(一点集中できる)
上記三点が大きな理由です。
それぞれの理由をより詳しく説明しますと、
楽器やトラックを分けて、それぞれを行ったり来たりしながら
ああでもない、こうでもないと声部を意識して書くよりも、
同じピアノロール内ですべての音が鳴ってくれていたほうが
より音楽的アプローチ(有機的・俯瞰的な吟味)ができるので、
良いアレンジへ昇華できる確率が高まるメリットがある。
……こんな感じでしょうか。
※ただし、そのいっぽうで大きな短所も存在します。
それは次回の記事にてご紹介しましょう。
さて、ここからは実際にピアノ音源で下書きしながら
アレンジを進めてゆく場合の、具体的な手順を書いてまいります。
まず、お好みのピアノ音源を立ち上げまして
DAW上の打ち込み画面まで行きます。そうしましたら、
最初に「原曲のメロディライン」を最後まで打ち込みます。
いわゆる耳コピというやつですね。
このとき、必要に応じて調(キー)は変えてもよいですが
例によって音程には手を加えません。リスペクトの精神です。
オクターブに関しては、基本的にC4以上の高さでやりましょう。
――と、ここまでがスタートアップ。
次にベースラインを、C2以下を目安に打ち込んでいきます。
なお、ベース自体は後で別途トラックを用意しますので、
ここでは原曲の和音から根音(ルート音)のみを抽出し、
ご自身が想定する新たなコード進行の継ぎ目に合わせて、
全音符や二分音符のみで書いていくかたちになります。
ところで、この作業段階って
メロディとベースの2つしか音が鳴っていませんよね。
つまり、まだ和音と呼べるハーモニーが生まれていないわけです。
(一般的に和音=3つ以上の音程が合わさったものと定義されています)
すると、その余白部分が想像力を掻き立て
「こっちの方がエモい展開になるかも……?」と
作業中に“気配”を感じる機会が多くなるかと存じます。
はい、それは今後あなたがオンリーワンの編曲を成し遂げる上で
非常に重要な手掛かりとなる嗅覚です。
もし元のルート音と比べて、自分の思いついたルート音が
「原曲の別の側面を見せてくれそうだ」と直感しましたら、
二つとも書き残しておき、あとで取捨選択できるようにしましょう。
――さて、ベースを打ち終えましたら、
ここまでで簡易的な外声(一番上と下の音)ができました。
お次はそれらの音にサンドされる“内声”を
構築するフェーズに入ってまいります。
これ以降の手順につきましては、
下記のパターンA,B,C、さらに1,2,3に派生します。
■パターンA:コードを確定させる
1 とりあえずベースと同じ音価(音の長さ)で内声を打ち込んでゆく
2 長めの音符を用いてアルペジオをつくる
3 短めの音符で刻むことで、同時にリズム要素も構築する
■パターンB:メロディを補強する
1 ハモリ(副旋律/コーラス)をつくる
2 対旋律(カウンターメロディ)をつくる
■パターンC:上記を全て含めた“伴奏”をつくる
下書きという意味ではパターンA-1、つまり
「ベースと同じ長さの音符で内声を打ち込みコードを確定させる」
に留めておくのが楽といいえます。実際、楽曲の尺や雰囲気、
方向性を掴むだけならば、これだけでも十分効果的です。
またこのパターンA-1は、後ほど別の楽器を打ち込んでいく際に
「後ろにこのパターンAのMIDIをグレーアウトで表示させて、
コード情報をトレース(視認)できるようにしよう!」
と考えている方にとっての終着点といえるでしょう。
ただしこの場合のMIDIはベタ打ちの状態ですから、
「あくまでも下書きである」という位置づけでとらえて、
ピアノの音はアレンジに組み込まない方がベターです。
逆に、もし下書きを超える“ピアノパート”をつくって
「アレンジの中に融け込ませよう!」と思うのであれば、
最低限A-2、またはA-3も書く必要があります。
すなわち、アルペジオや刻み和音で表情をつくりながら
コードを確定させてゆく方法を採つ必要があります。
(できれば楽節ごとに両方とも取り入れたほうがベター)
そしてパターンBに関しては、今の段階で先んじて
着手してもいいんですけれども、対旋律や副旋律って
音の役割的に「メロディを引き立てる」部類に入るんですよね。
ゆえに、結局あとあとパターンAのほうもつくってあげないと
“内省”としては不完全な仕上がりになってしまいますので、
そこはあらかじめ注意しておかなければなりません。
※要するに、「パターンB→パターンA」と進むのか
「パターンA→パターンB」と進むのか。この違いがあるだけで、
内声をちゃんと構築しようとするならば最終的には
双方ともやらなければならない、という意味です。
――さて、以上パターンAとパターンBの方法を紹介しましたが、
これらは「今日はこの作業をやる」「明日はこの作業をやる」と
計画的に制作を進めたい場合に、とても有用な戦法です。
しかし……やはり難易度の高いパターンCを採用したほうが、
楽曲のクオリティはアップするんですよね。
パターンCにおける“伴奏”ですが、これはAとBの要素に加えて
ピアノ特有の「音の隙間を埋める技術」が要求されます。
この技術は音楽理論だけで説明しきれるものではなく、
即興的な「その人のセンス」も問われるような範疇です。
よって、あまり感覚的な作業に自信がない人は
パターンA・Bにとどめて、ピアノ以外のトラックで
伴奏的な役割をカバー(コードトーンの補強)しましょう。
ちなみに内声の決め方(コードをどうするのか)ですが、
これは、A~Cパターン共通で、なるべく原曲を無視して
感覚だけを頼りに模索していきます。なぜなら、
この段階でリハーモナイズ(コードの変更)を吟味しておかないと
それはアレンジでなく、ただの原曲になってしまうからです。
コツとしては模索中、果敢に半音をぶつけにいくこと。
“ズレた音”はエモさに直結する要素なので、利用しない手はありません。
まずメロディに対して、やや不自然な音を見つけて採用します。
理論に明るい人は、頭でロジックを浮かべながら
“不正解の音”に当たりをつけると作業効率がアップするかも。
その後、不自然ではない音も追加で足します。
これによってバランスを取り、生まれてきたコードが
“味わい深い響きになっているか”をチェックします。
味わい深いというのは、楽曲を聴いた時に湧き起こる情緒が
少なくとも2種類以上あるもの、を指します。
ここは納得いくまで、入念に根気強くやりましょう!
また内声を吟味するなかで、ベースに関しては変更してもOKです。
さきほど“気配”を感じ、残しておいた選択肢も視野に入れましょう。
ただし、メロディはよほど「琴線に触れるハーモニーを見つけた!」
となった時以外は、絶対に動かさないようにします。
繰り返しになりますが、これもリスペクトの精神です。
というわけで以上、ピアノから始めるアレンジ技法をご紹介しました。
※次回の記事はこちらから。