下まぶたのたるみとかいわゆるクマの治療まとめ

クマって何だろう?

クマってそもそも何でしょう?下まぶたとその少し下の色が暗く『見える』状態をひっくるめてクマと言っています。これは歌舞伎の隈取(くまどり)に由来しています。ポイントは『見える』とした所です。実際にお肌の色が変わっている場合もそうでない場合もあります。

クマの種類ってどんなものがあるの?


医学的に厳密・正確なものではありませんが、色で分類すると分かりやすいです。

1. 黒クマ

本当の意味でのお肌の色の変化ではなく、影により暗く見える状態では、クマの色は黒〜灰色に見えます。手術で良く改善するのはこの黒クマなので、原因や治療に関して後ほど詳しく書きますね。

2. 赤クマ

皮膚に炎症が起こっていると赤くなります。

3. 茶クマ

メラニン色素が増えると茶色く見えます。

4. 青クマ

静脈が鬱血したり、皮膚が薄くなると青く見えます。

黒クマの原因 その1

下まぶたの膨らみ=眼窩脂肪の前方へのはみ出しが黒クマの原因として重要です。
このはみ出しの原因について書きます。

1. 下まぶたの眼窩隔膜のたるみ

ここの説明を短くまとめると「まぶたの脂肪を包んでいる膜がたるんで中の脂肪が前にはみ出てくるよ」です。
詳しい説明は少し長くなりますが、頑張って読んでください!僕も頑張って書きますからw。
眼だまは骨の窪みに納まっています。この窪みを『眼窩(がんか)』と言います。眼窩の骨と眼だまの間には目が動く時の潤滑油の役割、外から力が加わった時のクッションの役割をする脂肪で満たされています。これを『眼窩脂肪』と言います。この脂肪は先に書いた役割のため、非常に柔らかくどろっとした脂肪です。これがはみ出さないよう、眼窩とその外側を隔てている膜が有り、これを『眼窩隔膜』(そのまんまの名前ですね)と言います。

この『眼窩隔膜』がたるんで脂肪を支えきれなくなると脂肪は前方向へはみ出てきます。この弛みは膜の全体で同じようにたるむのではなく、『眼窩』の骨の縁と『眼窩隔膜のつなぎ目の部分がたるみやすいです。このたるみはもちろん年齢によるところも大きいのですが、遺伝の影響も強いです。

2. 眼球の位置が下がる

眼球はロックウッド靱帯(Lockwood ligament)などの器官により位置が決まっていますが、これらが加齢により緩むと、眼球が下に落ち込み、『眼窩脂肪』が前方に押し出されます。

3. 皮膚と眼輪筋の弛み

短くまとめると「膜がたるんでも皮膚と筋肉がたるまなければクマは目立たないよ」です。
上で書いたように『眼窩隔膜』がたるんでも、それだけではすぐに目袋が極端に膨らんでクマが目立つ事はありません。

『眼窩隔膜』の前には、薄い筋肉があり、これを『眼輪筋』と言います。そのさらに前には皮膚もあります。『眼窩隔膜』がたるんでも、その前にある『眼輪筋』と皮膚がたるまなければ『眼窩脂肪』の前方へのはみ出しは目立ちません。

黒クマの原因 その2

頬の脂肪の萎縮と下方への移動

ほほ骨の前には『眼輪筋』(下まぶただけでなくもっと下の頬の方まで続いています)を挟んで二層の脂肪が有ります。浅くて厚い方を『malar fat pad』、深く(ほほ骨のすぐ前)薄い方を『SOOF』と呼びます。この二つの脂肪が年齢によりしぼんで下がってしまいほほ骨前面の張りとボリュームが失われることで、眼窩脂肪のはみ出しと相まって黒クマを作ります。
余談ですがこの脂肪の萎縮と垂れ下がりはどんな方でも必ず起こります。近頃はこの malar fat の吸引を行っているクリニックもあるようですが、将来後悔することになる可能性が高くお勧めできません。ほほ骨前面の張りとボリュームは若さの象徴ですよ!

黒クマの原因 その3

眼窩の縁の骨の萎縮

年齢により眼窩の縁の骨が萎縮すると所謂ゴルゴ線の内側半分が目立つようになり、これもクマと言われます。

黒クマの原因 その4

下瞼の皮膚の小皺

年齢による小皺も黒クマをつくります。また、若い方でも慢性の炎症などにより角質が厚くなることで小皺を作る事が有ります。

黒クマの外科的治療その1. いわゆる『脱脂』手術(経結膜的下眼瞼眼窩脂肪切除術)

問題点1. たるみは取れるのか?

いわゆる『脱脂』の手術ではたるみは取れません。まぶたをクッションに喩えるとわかりやすいと思います。皮膚がクッションカバー、眼窩脂肪を中綿と思ってください。

この手術はクッションの中綿を抜くようなものなので、当然カバーにあたる皮膚や眼輪筋は術後に余りが生じます。つまりは脱脂手術で膨らみが改善することは有っても、弛みは却って悪くなります。

そこで注入治療(多くは脂肪注入)を併用することになりますが、手術により弛みの増した皮膚に術前以上のハリを出すためには多量の注入を要する場合もあり、過剰な注入による不自然な仕上がりとなっている例も見られます。

問題点その2. 出てるものを取れば良いの?

そもそも目の下の膨らみは眼窩脂肪の量が増加しているわけではなく、眼窩隔膜の弛緩や眼球の下方への移動が原因ですから、そこに手をつけないと年単位で見れば再発は必ず起こります。

より長期的な合併症としては、上眼瞼の窪み目が挙げられます。加齢により多かれ少なかれ萎縮する眼窩脂肪を切除すれば、長期的に窪み目を生じるリスクが高いのです。

問題点その3. 低侵襲(ダメージが少ない)のは本当?

脱脂手術に関して「皮膚を切らないからダメージが少ない」と説明しているクリニックも有るそうですが、それは本当でしょうか?
いわゆる脱脂手術では結膜と同時に capsulopalpebral fascia や inferior tarsal muscle などの lower eyelid retractors (LERs)を切開します。LERsは上眼瞼の眼瞼挙筋-挙筋腱膜に相当する器官で、下方を見る際に下まぶたを引き下げる際に働きます。いわゆる脱脂術後にLERsの断端が眼窩脂肪や酷い例では眼輪筋と癒着していて、下眼瞼の運動制限が生じて、物が二重に見える例を修正したことがあります。せめてLERsの断端どうしは縫っといてくれよと思います。

いわゆる脱脂手術の適応

これらの問題点を考慮すると、皮膚のたるみの少ない若い患者さんで、下まぶたの眼窩脂肪の前方へのふくらみが著しく、かつ将来の再発を理解し許容している患者となるので本来適応になる患者さんはとても少ないと思われます。

現状では多くが過剰適応(本来適応ではない方に行われる治療)と言えるでしょう。

おまけ いわゆる『脱脂手術』の名称を巡る混乱と変な所に細かいジジ医の愚痴

『脱脂』とは既に工学・医学生理学の分野で全く別の意味に定義された用語であり、『脱脂手術』は全くの誤用です。

私がネットなどで見ていた限りでは、脂肪取り→脱脂と短絡的に誤解した患者さん側から広まって医師にも広まった誤用と考えています。

患者さんに広まったからといって誤用を医師まで用いるのは如何なものかと思っています。啓蒙も我々の職務だとおもうんですよねぇ。

手術の命名規則に従えば経結膜的下眼瞼眼窩脂肪切除術が正しいですし、分かりやすさを求めるなら、目の下の膨らみ取りとか、目袋修正とかで良いのではないでしょうか?

黒クマの外科的治療その2. Hamra法と中顔面リフト

アメリカの著名な形成外科医/美容外科医のHamra先生が開発した手術です。Hamra先生のオリジナルでは1〜3全てを行いますが、日本では1と2だけでHamra法と呼ぶことが多いです。

  1. 浅い層(皮膚と眼輪筋)の切除による皺・たるみ取り

  2. はみ出した眼窩脂肪の下への移動と固定

  3. 中顔面リフト

手術は下まぶたの生え際近くと目尻のシワを切開して行います。まずは眼輪筋の下を、眼窩を超えたら骨膜上を頬骨の下縁までしっかりと剥がしてから眼窩脂肪のを再配置し、SOOFを引き上げて骨膜や靱帯に固定し、余った皮膚を切除して縫合します。

ハムラ法と中顔面リフトのカウンセリングや手術の詳細に関しては長くなるので、別の記事にします。

黒クマの外科的治療その3. いわゆる裏ハムラ法

瞼の裏側を切開し、はみ出した眼窩脂肪を下方へ移動して骨膜に固定する事でゴルゴ線を浅くしてクマを減らす方法です。皮膚や眼輪筋の弛みの強い方には向かない方法ですが、表側に傷を作らないというメリットが有ります。
この手術も勿論皮膚を切除しませんので、皮膚や眼輪筋のたるみを直接的に取ることは出来ませんが、眼窩脂肪の適切な再配置により、弛みを少し改善させることが出来ます。

黒クマの外科的治療  その4. 皮膚切除と皮下剥離による除皺術

私が美容外科医になった頃にはまだ行われていましたが、現在は行われていません。下まぶたがあかんべえをしたように変形したり、外反したりするからです。創部頭側の皮膚(つまりは睫毛の生え際から傷の間の狭い幅の皮膚)で尾側下眼瞼の皮膚を釣り上げる手術ですが、頭側皮膚から見れば尾側の皮膚に引き下げられているわけですから当然です。ですから今はあまりやる人が居なくなりました。でも、縮緬皺には皮下剥離が良いんですよねぇ。

黒クマの美容皮膚科機器による治療

ターゲットは皮膚や眼輪筋の弛緩に限定され、効果も手術に比べると弱いのですが、ダウンタイムが全く無い〜有っても軽微だという大きなメリットもあります。

  1. HIFU

  2. RG

  3. ダーマペン

  4. フラクショナルレーザー

黒クマの注入治療

  上手くやるといわゆるゴルゴ線の改善にはとても良いです。但し勿論のことですがたるみや膨らみそのものを改善させる治療ではありません。

  1. ヒアルロン酸
    やり過ぎると所謂『ヒアル顔』に

  2. 脂肪

  3. コラーゲン

  4. スキンブースター
    現状では劇的な効果のある製品は有りませんが、今後ブレイクスルー的な製品が出てくれば大きな発展をする可能性があると個人的には期待しています。


次回は二重の話です。


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