二重手術、埋没法のお話④
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この記事のまとめ
長い記事の割にまとめは短くなりますが、埋没で成功するには、まともな医者を選んで、その医者がベストと思う方法でやるのが良いよ。アスフレックスたん、愛してるよ。自称埋没法の専門家は埋没法しかできない人だから選ばない方が良いよ。
術式による違い
獄門疆から復活を遂げた五条悟が死んだと知ってから「ナナミンから始まって何でワイの推しは死ぬん?もう読者やめるわ」となって以来毎週月曜の夜に『五条悟 復活』で検索を続け「そうか、身体も意識も復活はしなかったが能力は復活したか。しかもそんな方法で。芥見ほんと下衆だな。だがその下衆っ!ぷりも良し、読者復帰するぞ」となったワイですが、その術式の話ではありません。
ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング法みたいな商売っ気に塗れたオリジナリティ溢れる名前の埋没法がたくさん有りますが、まー、大別して一本の糸を使って皮膚と結膜側を何回か行き来して留めるループ法と、小さな輪で糸1本につき1箇所の結び目を作るのを二重のラインの何ヶ所かに行う点留めに分けて、またそれとは別の分類として、糸の結び目を表(皮膚側)にするかで考えましょう。
ループ法か点留めか?
ループ法のメリット
二重のラインのほぼ全長に渡って皮下の浅いところを糸が通るので、全体的に均一に引き込まれるのに対して、点留めでは結び目の箇所のみが引き込まれます。点留めのメリット
手術時間が短い(慣れればループもそれほど長時間ではないのですが)こと、多くのクリニックでは価格が安いこと、運針がループに比べて容易なので、術者による差が小さい事が挙げられます。
表か裏か
裏留めのほぼ唯一のメリットは、皮膚に穴が開かないので当日にアイメイクをしてもタトゥーにならないということ。結び目の玉が目立たないというメリットも喧伝されていますが、表留めでも糸を選んだり結び方を工夫することで多くは防げます。裏留めのデメリットは不都合があった際に糸の除去が困難な事です。これは患者さんサイドでは術前にあまり重視されていない事で、どちらかと言うと我々医師の側の方が重く考えています。裏留めを推奨する医師が、こうすれば簡単に除去できるので問題ないと主張するのをネットで見ることも多いのですが、そういう先生が裏留めの埋没法手術をして、さらに糸の除去をしたはずのまぶたに私が切開の手術をした際に、糸が出てきた経験もあります。もちろん除去できることも有るのでしょうが、表留めに比べて除去しにくいのは厳とした事実ですし、その差は大きいだろうというのが私の考えです。当日どうせ腫れてますから「メイク可能」はそれほど大きなメリットに思えないのですが、その辺は患者さんご自身の価値観により大きく左右されるので絶対的な話ではないと考えています。
糸による違い
ここはかなりマニアックな話なので、斜め読み推奨で、読み飛ばしていただいても問題有りません。
現在使われることが多いナイロン、プロリーン、アスフレックス(これはそんなに使われていないかもしれませんが、私は愛用しているので)について書きましょう。
ポリアミド(ナイロン®)
縫合糸としての歴史はこの中で最も古いです。『非吸収糸』(溶けない糸)に分類されますが、実際には生体内で加水分解されて、抗張力(縫合糸の性能を表す指標の一つで、簡単に言うと引っ張りに耐える力)は一年ごとに最大で20%低下します。
ポリプロピレン(プロリーン® )
歴史的にはナイロンとアスフレックスの間に作られた糸で、性質もちょうどその中間という物です。
PVDF(ポリビニリデンフロライド)(アスフレックス®)
さあ!私の愛してやまないアスフレックスたんの話をわざわざ別項目とさせていただきますよ!
興味のある方はぜひ↑こちら↑をお読みください。
私が初めてアスフレックスを知ったのは、眼瞼下垂症に対する挙筋前転術で、まさにそのキモになる手技、挙筋腱膜を前転させ瞼板に留めるのにプロリーンに変わる縫合糸を探していた際です。
上のリンク先にあるように
が特徴です。Aは引っ張りに対する強さ、Bは生体内での分解のされにくさ、Cは書いてある通りそのままです。
A. 抗張力の高さ
このうちAは埋没法においてはそれほど重要ではありません。
B. 不活性
Bに関して、ナイロンとの比較で書きましょう。
前回記事で私は
と書きました。
この遺物に対する反応として繊維状の組織が出来ることと、糸が分解吸収される事は表裏一体とも言えるほど密接な関係が有ります。ここで言う『不活性』とは、この反応が起こりにくいという事です。
埋没法の観点から言い換えると不活性が高いとは
引っ張りに対する強さが長期に維持される。
吸収過程での周囲の組織の反応が少ない。
ということです。
1.に関してこちらも上で引用したアスフレックスの公式ページには、張力維持率が何と驚きの3年で93%、9年で92.5%!と有ります(患者さんに説明する時に何度も言ったので覚えてしまいました)。これがどのくらい凄いことかというと、ナイロンでは
という事ですし、プロリーンでは、先ほどのアスフレックス公式ページに3年で77%、9年で53.4%と書かれています。アスフレックスたん!凄いよ!
2.に関してはすぐ上で引用したのと同じページに関してこう有ります。
アスフレックスとプロリンの比較は、アスフレックスの公式ページで、ウサギ生体内に4週間留置した反応としてこう説明されています
糸周囲の繊維組織が増えない事は、特に結び目部分で皮膚を通して糸がわかってしまうことを防げます。また、将来糸を除去する必要が生じた際に容易に可能です。
前回記事で書いた『癒着で二重の線を維持する』事とは真っ向から矛盾しますが、張力維持性の高さが有るので問題になりません。これは次回詳しく書きますね。
C. 優れた操作性
これは糸の平滑性(滑りやすさ)が優れている、適度な弾力が有るという事です。もう一つ、特徴の有る針の話もしたいのですが、埋没法に用いる太さの糸にはその針は付いていないので、眼瞼下垂の話の時にでも書きましょう。
平滑性
滑りやすいと気持ちよく手術ができます。術者の気持ちよさというのは、おそらく皆さんが想像するより手術の結果に大きな影響を与えます。また、特にループ法で用いる場合は、テンションが偏らず、糸の全長で適切なテンションを与えやすいという特徴にもなります。結び目を作る際にも、滑りやすさは大事です。適度な弾力
これは結び目の解けにくさにつながります。結び目が解けにくければ、小さな結び目に出来ますから、皮膚を通して結び目の玉が見えてしまうことが少なくなります。
まとめると、アスフレックスたんは手術もしやすく、糸玉が目立たず、糸の力が長持ちして、万が一除去する際も簡単と、現状では埋没法に最適な糸と言えると考えています。愛してるよアスフレックスたん。
結局患者さんはどうやって選べば良いのか
医師の技術で選ぼう!
技術と言っても難しいですよね。症例写真は、いわゆる「チャンピオンデータ」ですし、クリニックのホームページ上の医師紹介は全員名医ですもん。美容外科医としての経験の長さは一つの指標になると思います。間違ってもきらきら感や美女、イケメンで選ばないでください!
埋没法のスペシャリストを選ぶべきか?
埋没法のスペシャリスト?そんな人は居ません。自称埋没法のスペシャリストの殆ど全員が『埋没しか出来ないマン、やらせてもらえないマン』です。中には切開系も一通り色々やれるようになりましたが、私は埋没に賭けるぜ!みたいな先生もいらっしゃいますが、圧倒的に沢山いる埋没しか出来ないマンに埋もれてしまって、砂漠の中から一本の針を探すようなものです。見つけるのは困難だと思います。全切開や眼瞼下垂の手術を沢山こなさないと見えてこない埋没法のやり方が有るんですよ。全切開法や眼瞼下垂の手術を含めて、まぶたの手術が得意な医師を選びましょう。
術式は何が良いのか
上に書いたように、ループか点留めかではループの方が良い結果は出せると考えていますが、結果以外の部分での点留めのメリットもあります。また、ループ法にも様々なバリエーションがあります。私の結論としては、ちゃんとした医師を選んだら、その医者が推す方法がベストだと思っています。どの術式が優れているかということは絶対ではなく、医者が自分をその術式に最適化させていますし、手術の細かい手技を自分に最適化させています。
埋没法に関しては特に、全医師に最適な術式ってのは無いんですよ。
終わる終わる詐欺になってますが、次回こそは埋没法最終回です!私中川がどう手術しているのかのお話を書きます。結局糸の性能の話しか出来ませんでした。
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