【良い提案、悪い提案】第三話
お世話になっております。仙と申します。金融の個人営業一筋16年。昨年末に15年勤めた都銀を退職し、今は個人会社を設立して財産コンサルティング業を行うと共に、業務委託IFAとして活動しています。
今回は仕組債について取り上げます。
【良い提案、悪い提案】第三話
「購入する意義ほとんどない」仕組債。
仕組債と聞くと、「仕組債やってる奴は情弱」などと言う人もいますが、誰でも知っているような企業経営者の方々が、運用手段として仕組債を取り入れていたり、いわゆるジャンキー(仕組債を好んで投資する人)だったりすることをご存じないのだと思います。ちゃんとした金融商品なのですが、良い提案として成立させる為には、クーポン(金利)の確保、企業・マーケットの分析、時期などの諸条件を揃えなければならず、扱える担い手も買えるお客様も限られると思います。
以下、まさにこの頃世の中でも問題になっている、主に銀行が取り扱う指数連動債・主に証券の取り扱うEB債について、悪い提案を採り上げていくことになります。
仕組債の問題点が日経新聞で指摘され始めたのは、2021年の暮れ頃からです。この頃は、仕組債の手数料が高いにも係わらず、販売時に手数料を開示されていないことが問題視されていました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB066BY0W1A201C2000000/
下図は金融庁の【投資信託等の販売会社に関する 定量データ集】資料です。見ていると、今になってなぜ問題視されたのか?ちょっと前の方が販売も残高もあったじゃないか…という気になりませんか。
しかしながら、7月頃からガンガン日経で仕組債に関する記事が出てきます。「購入する意義ほとんどない」という言葉もあり。割と辛辣です。
この辺りの事情は、金融庁の【第1回 金融審議会 顧客本位タスクフォース】の事務局説明資料の中で説明されています。
要約すると
①売れた。
②リスク・リターンが誤認されているっぽい。
③手数料が高く、仕組債ありきのセールスが横行されてるっぽい。
④プロにしか売れない商品だけどアマチュアに売っている。そして仕組債が償還したら仕組債を売っている。
要約しなくても良かったですね。
この事務局説明資料の中では、下図のように顧客からの苦情に関する動向も説明されています。代表例として3件挙げられている中での2件が仕組債に関する件です。要約すると「思ってたのと違った」ですね。「思ってたのと違った」時に、「契約者がしっかり確認して理解した上でサインしなきゃダメじゃないか」という意見が出てくると思います。まあ、理解はできますが、所感としては、販売サイドですら内容の理解をしていない中で、顧客に理解しろというのは酷でしょう。勿論、担い手の中でも内容を理解して説明も出来ている人はいるでしょうが、そういう人は仕組債をもっと注意深く扱っていると思います。見た感じですが。
筆者自身はどう思っているかというと、プロの投資家に対して、プロのアドバイザーが勧める分には問題無いと思っています。
株を選ぶのと同様に企業業績の動向と業界の動向、中期経営計画や決算発表などを通じて今後何年かの業績を推し量りつつ、足元の金融市場環境と照らして、「株価がそこまで上がらずともそこまで下落もしない蓋然性が高い」というプロの提案に対して、プロが判断を下すことには何の問題も無いでしょう。
しかしながら現実には、そこまでの精度で企業分析をして提案している例はほとんど無いのではないでしょうか?
金利を出す為にはボラティリティ(変動幅)の大きな株を使わざるを得ず、コロナ禍のカネ余りで爆発的に伸びた、上場したてで分析もままならない米国のハイパーグロース株に頼らざるを得ず、米国がインフレの高まりと共に金融引き締めに動いた結果、それらの株価はだだ下がり。最近償還を迎えている人の中では1億円で購入したものが時価評価5百万円程度の株で戻って来ている人もいるようです。ハイパーグロース株の下落率を見ていれば、さもありなん、です。
この損失って誰の責任なのでしょうか?
自己責任などと言う前に、顧客にここまでの損失を被らせることは、プロとしての責務を果たしていると言えますかね?会社は儲かり、担い手の人事評価も良かったでしょう。しかも1か月~3か月で償還の都度販売額と手数料が稼げるわけですから、それはそれは儲かったのだと思います。
ちなみに、大手総合証券の一社がハイクーポン10%の金利で組成したEB債を、ネット系の証券会社でその他の条件を同じにしたところ、手数料を5%取ったとしても30%のハイクーポンで組成することができたという実話があります。その大手総合証券、一体いくら儲けたんでしょうか?組成段階で本部が取る手数料と、販売手数料と。
儲けた上で顧客に損させているものですから、行政からの厳しい指導があったとしても、それはしょうがないのでは?と思わざるを得ません。
その他、地銀が提携証券会社に紹介をする際に、「銀行の紹介する安定した金利商品」という認識のもとに成約をされるケースもあり、こちらはどうやらより大きな問題であるようです。当然ながら現在は販売停止などの措置に至っています。
上述のような規制はありますが、仕組債を運用の一手段として取り入れるに相応しい人は、引き続き仕組債を購入できる状況は続いていますから、実はそんなに影響はありません。
一方で「自分は買えなくなったぞ?」という人は、ロットの問題と知識・経験の問題でできないだけですから、他の手段を探せば良いと思います。
仕組債に限らずですが、すぐに償還する商品は、すぐに償還することを期待して買っているのであれば、それは選ぶ商品を間違えています。また、投資家が始めに大きなコストを払えば、リターンを得るのは基本的に難しいのです。
顧客を儲からせてこその、取引金融機関であり担当者でもあります。「他で良い目見てもらってるからいい」などと、寝ぼけたことは言うべきではないですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。
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