試作_0923_2
シルヴァンの横顔をこっそり写真に収める為に、僕はスマホを構える。彼は集中していて、僕のことは気にしていないようだ。
インテリアのデザインを練りながら、どこか遠くを見つめるその表情は、まるで彫刻のように美しい。だからだろうか。少し、悪戯したくなった。
静寂であった部屋に、シャッターの音が小さく鳴る。
「んっ、いいじゃん。」
僕は保存した写真を見る。我ながら上手に撮れたものだ。
「僕の恋人って、言いふらしてもいい?」
深くソファに体を沈め、僕は冗談を言う。彼は誠実だ。こんな根も葉もないことを言われたら困るに決まっている。
「いいぞ。」
「ひぇっ!?」
シルヴァンは俺を見て、微笑む。
「冗談だと思ったか?俺は真剣だ。」
「し、シルヴァン…………?」
シルヴァンの瞳が僕をじっと見つめる。その真剣さに、僕は何と言えばいいのかわからない。
「こ、心の準備が欲しいかなー…………。」
結局、僕の口が出た言葉は、その場を誤魔化すものでしかなかった。
『俺は本気だ。』
それでも、僕は彼の言葉を消してしまうことができなかった。
◇
シルヴァンの言葉が胸の奥に重く残るまま、僕は少し冷静さを取り戻した。
頭の中で繰り返すのは、彼の真剣な瞳と言葉。それがどれほど僕にとって大きな存在であるか、少しずつ自覚していく。
でも、僕は彼にふさわしい存在ではないと、そう思ってしまう。
「シルヴァンには、もっと似合う人がいるよ。」
僕は自然にその言葉を口にした。自分を卑下しているわけじゃない。客観的に見て、彼の隣に立つのは僕じゃないと感じたんだ。
彼の美しさ、才能、そして、どこまでも誠実な心――――。それらに比べ、あまりに僕は貧相でしかない。
シルヴァンは手を止め、僕の言葉に反応するように立ち上がった。そして、ゆっくりと僕の方へ歩いてくる。その足音が耳に響くたび、心臓が高鳴る。
彼の存在感に圧倒されて、僕は思わず後ずさり――――。背中に壁の感触。残念ながら、逃げ道は用意されていなかった。
「シルヴァン――――。」
次の瞬間、僕は彼の腕の中に強く引き寄せられた。驚くほどの力強さだ。でも、痛みはない。その代わり、僕の体は彼にしっかりと抱かれ、逃げる術がないことを理解した。
そして、彼の顔が近づいてきたと思った瞬間、シルヴァンの舌がゆっくりと僕の頬をなぞった。
「――――!?」
驚きと戸惑いで声が出なかった。彼が何を考えているのか、全く読めない。
恐る恐る彼の顔を見上げると、そこにあったのは冷静さを装いながらも、どこか獰猛さを感じさせる瞳。まるで、獲物を狙うような鋭い眼差しが僕に向けられていた。その目を見た瞬間、体が固まった。
「俺に似合うかどうかを決めるのは、君じゃない。」
シルヴァンの低く、冷静な声が耳元に響いた。
◇
◇
◇
嗚呼、苛々させられる。
俺はこんなにも君に焦がれているというのに、君はいつもすり抜けていく。捕まえようとするたび、まるで砂のように俺の手の中から逃れていく。まるで意図的に、俺の欲望を試すかのように、巧みに距離を保とうとする。許しがたい。
俺の腕の中で、朦依は困惑しているのがわかる。目を見開き、何も言えずに顔を赤らめている。その様子を見るたびに、俺の中で抑えきれない衝動が膨れ上がっていく。
「誰が何を言おうが、関係ない。」
君を俺のものにする、それだけだ。
衝動に突き動かされるまま、俺は朦依の耳に顔を寄せ、そっと噛んだ。彼の体がビクリと震えるのが伝わる。だが、それでもまだ足りない。朦依が本当の意味で俺から逃げられないように、もっと深く、もっと俺のものだと感じさせなければならない。
だから俺は、彼の首筋に唇を押し当て、ゆっくりと吸いついた。肌の温かさ、鼓動の速さが俺に伝わってくる。どれだけ言葉で拒絶しようとも、体は正直だ。
「逃げられると思うなよ、朦依。」
俺の声が低く響く。もう、君が俺から逃げ出すことは許さない。