お世話になっている劇場の話(脚本・演出家 藤井颯太郎)
僕が所属する幻灯劇場は知る人ぞ知る、知らない人は全く知らない零細劇団だが、今年で旗揚げから十年目を迎える。高校三年の時に立ち上げ二、三年はユニットのように活動していた上、コロナ禍の数年もあって、体感では五年位しかやっていない気がするが、なんとか続いている。十年劇団を続けていると、本当に色んな劇場にお世話になってきた。
二十歳の頃、『虎と娘』という作品を上演した時のこと。劇場の方が「作品見させてもらっても良いですか?」と声をかけて下さったので、どうぞどうぞと席を用意した。全ての公演が終わり劇場費を支払に行くと「チケット代を払いたい」と、お渡しした劇場費の封筒から殆どの万札を取り出し「あなた達の公演にはこれだけの価値がありました」と言って僕達に手渡してくれた。その言葉が、新しい土地でなんのツテもなく活動を始めた二十歳の僕に、どれだけ勇気をくれたか。このまま演劇を作り続けてもいいのかもしれないと思わされ、まんまと現在まで演劇を続けている。あの劇場は今も若い作家を励まし、育て続けている。
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