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名作ラジオCM_746

■大日本除虫菊/水性キンチョール
金鳥ラジオ小説「父子水(おやこみず)」第4回

♪:テーマ音楽

N:金鳥ラジオ小説「父子水(おやこみず)」第4回
出演 大滝秀治 岸部一徳
これは、ひとつ屋根の下に住む
二人の男やもめの物語である。

恵:(電話ごしの声)今度の日曜日、訪ねていきたいんです

息子:日曜日

恵:くわしいことは、そのとき・・・・ごめんなさい

SE:ガチャ プープー

息子モノローグ:電話は、別れた妻、恵からであった。
7年ぶりの連絡だった

(♪:〜)
男と女が夫婦になることに、特別な理由は必要ではない。
だとすれば、逆もまた真実だ。一組の夫婦が他人同士に戻ることにも・・・
男と女の間など、不確かなものだ。

SE:油蝉

息子モノローグ:日曜日、西日が客間に射し込みはじめる時間、恵は訪ねてきた。

SE:コト(茶碗を置く音)

息子:麦茶で、よかったかな・・・・

恵:ごめんなさい、突然・・・・。

息子:いえ。

恵:(間)お願いがあってきました・・・・・

息子:・・・・・なんだい。いや、なんですか。

恵:実は・・・・

息子モノローグ:そこへ、父が入ってきた。
嫌なタイミングだった。

SE:ガラッ(ふすまが開く、父が入ってくる)

父:おい、おい。水性キンチョールがなくなったぞ。
買いに・・・・・
なんだ、客人か。あれっ?(恵を発見する)
こ、この人・・・・・お前の別れた女房によう似とるねえ

息子:本人です

父:あ!これはこれは・・・・で、今日はどういう?
ご用件で?よしこさん

息子:恵・・・・さん、です。父さん。

恵:実は・・・・

息子モノローグ:恵の用件は借金の申し込みであった。
今の夫が経営する会社が、左前だという。
その瞬間まで、甘い期待を抱いていた自分に、私は気づいた。
帰ってきたい、と恵が言うのではないかと・・・・
愚かなことだ。

息子:事情はわかった。だが・・・そんな大事な頼み事に、なぜ本人がこない?

恵:あの人は・・・・プライドが高い人だから

息子:プライド?プライドの高い人間が、妻を、元の夫に・・・・金を借りにいかせるのか?

7年ぶりに連絡してきて・・・・それが・・・・・

息子モノローグ:私は、嫌な熱さの感情をおさえきれなくなりそうだった。
と、その空気を破るかのように父が席をたち、古びた封筒を持って、戻ってきた。

父:達子さん

恵:恵です

父:恵さん。・・・・これ・・・・お持ちなさい。

恵:この封筒は・・・・・?

父:私には必要のないものだ

♪:〜

恵:お義父さん

息子:父さん

父:達者でやってください。と旦那さんにお伝え下さい。

恵:ありがとう・・・・ございます・・・・。

息子モノローグ:日がどっぷりと暮れた頃。
恵は何度も頭をさげ、帰ってきった。
以前よりも、恵の背中が少しだけ小さく見えた

SE:鈴虫

息子モノローグ:夕食の折、父に礼を述べた。

息子:・・・・きょうは、ありがとうございました。

父:・・・・・なんの話だ。

息子:父さんがわたした、あの封筒。

父:ああ、あの、和子さんに

息子:恵です

父:恵さんに渡したものか。ありゃ、湿布だ。

息子:湿布・・・・?

父:そう。旦那さんが首が回らんとかなんとか言っとったから。
しかし、湿布ごときであれほど喜ぶとは・・・
よっぽどつましい生活をしとると見えるな。
光子さんは

♪:テーマ音楽

息子モノローグ:男と女の間は、不確かなものだ。
しかし、恵は2度と連絡をとってこないだろう。
それだけは確かなことのように思えた。

N:金鳥ラジオ小説「父子水(おやこみず)」次回へ続く。
出演 大滝秀治 岸部一徳。
この番組は、金鳥ホームページ Kincho.co.jpでも
お聴きいただけます

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 ACC CM 年鑑 2006年 ラジオCM グランプリ


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