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たとえ雨が止まなくても

 雨、雨、雨……
 雨、雨、雨……
 明日という字を
 書いてすぐに消した
 雨、雨、雨……
 希望という字を
 書いてすぐに消した
 雨、雨、雨……

 雨、雨、雨……
 雨は降り続く(ふりつづく)
 降り続く雨が、水が、
 やがて地球全体を覆い尽くす(おおいつくす)……
 雨、雨、雨……

 雨が強くなった
 風が唸る(うなる)
 雨は拳(こぶし)となって大地を強く打つ
 その拳が、まさか私に向かって来るとは思わなかった。
 私はただただゆううつで
 床にうつぶせになっていた
 一瞬で家の窓ガラスが全部割れた
 私は私の姿を見失った(みうしなった)
 右手の感覚は、かすかにある
 でも、右手が見えない
 もう終わりだ……
 もう終わりだ……

 雨は語る
 「おまえらは、たくさん殺した
   おまえらは、あらゆるものを壊した
   おまえらは、いっぱい嘘(うそ)をついた
   それが歴史のすべてだった
   ゼロからやり直せ
   終わりは始まり(はじまり)へとつながり、
   始まりは終わりへとつながる」

 ああ、私の両手は血で染(そ)まっている
 虐殺(ぎゃくさつ)の血
 そして、たくさんの動物の血
 雨で洗っても、洗っても、
 血は消えない 

 雨、雨、雨……
 雨、雨、雨……
 「ことん」という音
 え?朝刊?
 私は水たまりの中から飛び起きた
 新聞配達のバイクが走る
 間違いない……
 社会は、まだ存在している。
 人間は、したたかに生きている。
 そして私は、今、生きている!

 雨は止まない。
 それでも、夜が明ければ
 「生きなければならない」という
 うっとうしい義務が、また、はじまる。

 私は雨に向かって、そっとつぶやく。
 「ゼロからやり直します
   あなたを恨んでは(うらんでは)いません」

 雨は止(や)まなくていい。
 雨は私たちへのメッセージ
 雨は世界の叫び声
 全身で受け止(と)める。

 やがて雨が居場所(いばしょ)を奪ったら(うばったら)
 私は仲間と共に舟を漕ぎ出す(こぎだす)
 犬も猫も一緒だ(いっしょ)だ
 陸地を教えてくれる
 鳩(はと)の「つがい」も舟に乗せよう

 リュックの底に忍ばせた(しのばせた)
 花の種が唯一(ゆいいつ)の希望だ。