性癖迷子~ペット~
ペット《名》(pet)
楽しみの対象として飼育される動物をいう。一般には容姿が美しくかわいらしいこと、鳴声がきれいなこと、性質が明るく陽気で行動に愛嬌(あいきょう)のあることなどがペットとしての条件にあげられる・・・
※平凡社「世界大百科辞典」より引用
僕の容姿は人に不快感を与える程、醜くはない。気を付けて小綺麗にはしているが、さりとて特別抜きん出るほど美しくもない。あえて他人と異なる特徴をあげるとするならば2点。
思春期から知識を貪り続けていること。そして、他人との距離感が全く掴めない孤独な思春期を過ごしたことで得た「成熟」という名の行儀の良さそうな仮面を若い頃から身に付けていたこと。
10代では女性から全く評価されないこの特徴も、20代ではある特定の層に深く刺さることもある。年齢の割に落ち着きと教養がある、若い男の子を愛でる年上の女性は意外と多い。だから20代の僕は、身体の関係の有る無しに関わらず、年上の女性に囲まれて過ごすことが多かった。
経験は浅いが小綺麗で愛嬌があり、且つ大人の会話に参加できるだけの知性を持ち合わせた年若の男の子。連れて歩いて友人に自慢げに紹介し、羨ましがられる、トロフィーワイフならぬトロフィーペットといったところか。
僕は飼ったことが無いが、ペットを飼う楽しみというものは色々あるのだろう。Chat GPTに聞いてみるとこんな答えが返ってきた。
(質問)
ペットを飼う楽しみについて、主なものを5つ、教えてください。
(回答)
・触れ合いやコミュニケーション
(ペットは人間との絆を築くことができ、一緒に遊んだり、寝たりすることができる)
・癒しやストレス解消
(ペットと触れ合うことで、心身のリラックス効果を得ることが出来ます。)
・責任感や自己成長を促される
(ペットの世話やトレーニングに取り組むことで、自己管理能力や忍耐力を養うことができます。)
・愛情の交換
(ペットは愛情を注ぐことで、ペットは無条件の愛情を返してくれます。)
これらを眺めると、確かに僕は一時期ペットとして飼われていたのだなと改めて思った。
20歳を幾つか過ぎた頃。社会に出るのが一年早くても遅くても、数十年の間、仕事をする期間は大して変わらない。ならば社会に取り込まれる前に、もう少しだけモラトリアムを楽しみたいというデカダンな気分と、未知の世界に飛び込んでみたいという無謀さと、どこかに自分の居場所があるのではないかという飢餓感とが重なりあって、パスポートを初めて作った直後に海外へ飛んだ。
自分が日本人という異邦人であることを強烈に意識せざるを得ない未知の世界に飛び込んだ直後こそ、興奮が上回り躁状態だった。だが次第にコミュニケーションが上手く取れないことへのフラストレーションや、自分の居場所は誰かに提供されるものではないという当然の事実を突きつけられることによる失望感、何よりも生きていくために身体が摂取する食べ物に対する強烈な違和感からホームシックになってしまった。そうして捨てられた犬のように心がボロボロになった僕を拾って家に連れて帰ってくれたのだが、歳上の日本人Yだった。
日本の田舎で生まれ育ったYは、天真爛漫さを装っているものの、所々に触れただけで壊れてしまうほどの繊細さが見え隠れしている人だった。個性をユニークなものと評価し、認められる社会ではない日本では何処にも居場所が見つけられない程、感性が過ぎる人であったYは、海外へ飛び出して大学で絵を学ぶ。大学卒業後は、絵を描きながらジャズシンガーとして小さなバーで歌っていた。だが生活費を歌や絵だけで稼げるほど甘くない。だから彼女は夜は日系ビジネスマン向けのピアノバーで糊口をしのいでいた。
僕とYは日本人コミュニティの繋がりで知り合った。初めは互いに内省的な人間らしく、距離を置いて互いを観察し合っていたものの、感性的な人間として日本に居場所を見つけられなかった者同士、親しくなるのにさして時間はかからなかった。
アメリカでの生活が長かったYは僕の知らない様々な場所に連れていってくれた。彼女の愛車は漆黒のコルベット。ドアを開けると深紅のハイヒールを履いた細い足首が現れる。そしてお尻だけを隠したタイトミニの際まで伸びあがる美しい脚が地面を捉える。低いシートから立ち上がると色白の肌に長く美しい黒髪が絡んだ下に大きく隆起した胸。アジアンの中では凹凸がはっきりしたシルエットは人種を越えて男達の目を惹き付けずにはいられなかった。
彼女を連れだって街を歩く。直ぐにギラついた目でYを犯してくる白人や黒人の野獣達が、視線だけで僕を食い殺そうとする。草食動物の恐怖は肉食動物の食欲を刺激する最高のアペリティフ。彼らの目線を意識しない、必死な演技で彼女を落ち着いてエスコートする。気分はトイマンチェスターテリア。連れて歩く犬に身に付けるものを買い与えるのも飼い主の役割。Yは僕に似合うものを買って着せる度に大きな笑顔を見せてくれた。
Yは機嫌が良くても悪くても、いつも何かを歌っていた。ハミング程度のこともあるが、ドライブ中に気が乗ると、普段の高めの声とうって変わって、少し嗄れた声でスタンダードナンバーを歌い始める。
当時の僕は、Jazz はヴォーカルの無いものを幾つか知っている程度でYが歌う曲は殆ど知らなかった。Yの美しい歌声はとても切なくて、聴いていて胸が苦しくなるのに、心は自然と傾いてしまい、運転しているY の横顔を見つめずにはいられなかった。
ある時、歌っていた曲が深く刺さる。歌い終わった後、恐る恐る聞いてみた。
「何て言う曲なの?」
「Moon river」
無表情で彼女は答える。
「誰が歌っているの?」
「ティファニーで朝食をって映画の中でオードリー・ヘップバーンが歌ってる」
今日は機嫌が良くなさそうだと判断し、それ以上聞くことはしなかった。
飼い主は忙しい。仕事や彼氏とのデートでYはしばしば外に出掛けた。彼女のいなくなった部屋で与えられたゲームや本を読みながら飼い主が帰ってくるのをひたすらに待つ。腹は減るが、自分で作るのが億劫で空腹にひたすら耐えるだけの空虚な時間。ペットにはエサが必要。だからどんなに遅くなってもYは家に戻ってくる。彼女に与えられた食事を美味しそうに食べている僕をYは嬉しそうに静かに眺めるのが常だった。
当時のYの彼氏は、筋骨粒々のドレッドヘアが似合う黒人とアジア人のハーフだった。勿論、セックスもしていたが時々、彼女は僕に愚痴をこぼしていた。
「図体ばかりデカいくて、頭が足りないし、会っても会話なんてなくてセックスばかり求めてくる。チンコはデカいだけのふにゃチンで、ひたすらピストンするだけの単調さ。時々、はやく終わんないかなってうんざりしちゃう」
僕はペットだから彼女の話に意見はしない。ただひたすら耳を傾けるだけ。
「見た目はいいけど、話すとがっかりするし、何よりおっぱいをしゃぶりたいだけの甘えた具合に、でっかい子供を抱えているみたい」
時々、彼女はペットに意見を求めることがある。そういうときだけ僕は彼女に自分の思っていることを言う。
「アメリカに来て感じたのはでっかい田舎だってこと。マンハッタンのように世界の最先端と言える場所はほんの僅かで、電車で30分も乗れば、未だにジュークボックスで音楽をかけて踊っている人がいたりする。そうやって田舎の空気に浸り続ける人が大多数の中、居場所を見つけられない異物扱いされた僅かな人は、夜中でも明るい光に誘われてマンハッタンを目指すんだろうなって」
「黒人、白人、アジア人、人種が違えば文化や考え方、食べ物まで全て違う。ネイティブアメリカンはいるけど、彼らの文化を一掃して、過去のしがらみが全くない土地を作った。そんな真っ白な土地の上にルーツが違う人間を混在させて生まれたアメリカンカルチャーだからこそ、世界のどこの国の人に受け入れて貰えるのだと思う。だれもが共感できる物語や音楽が生まれた理由を体感することが出来たことは僕にとって本当に貴重」
「人種という見た目の違いは大きい。自分と違う種類の顔と向き合ったときに、どうしても分断を感じる。勿論、白人にも黒人にも好きと思えるヤツはいるし、慣れない言葉でも分かりあえたと感じる瞬間はある。それでもどうしても仕草や表情といったルーツの違う、見慣れない表現に戸惑うことの方が多い。
その違和感は根元的で、言葉や理論では決して解決しない。けど、それでも一つになろうとする理想を掲げているこの国を僕は好きだと強く言える」
そんな青臭い話を飼い主は目を輝かせて嬉しそうに聴いてくれた。
夜の帳が落ち、目蓋が少し重たくなった頃、キングサイズのベッドにペットは呼ばれる。普段はぬいぐるみのように抱き合いながら眠るのだが、この日は違った。
彼女のおさがりである深紅のシルク生地のパジャマを着る。ベッドルームから飼い主が僕を呼ぶ声がする。ドアを開けると間接照明をバックに、ヴィクトリア・シークレットの透けた紫色のベビードールを纏った飼い主が待っていた。
「来て」
促されるままベッドに上がるとYは馬乗り僕に股がった。
欧米人クラスに大きなブラジャーから豊満な胸を掴み出し、僕の目の前に突き出す。
「舐めて」
言われるがままに飼い主の乳首に口に含む。
「ゆっくり」
自分出来る一番遅い早さで彼女の乳輪に舌を這わす。
「こっちも」
時折、口から吐息が漏れる。何も指示が無いということは満足している証拠。飽きもせず、ひたすら交互に乳輪に舌を這わしていると
「吸って」
と、くぐもった声で指示がとぶ。
強くならないよう優しく吸いながら乳頭に舌をチロチロとあてていると耐えられなくなったのか、僕の頭を両腕で抱えた。豊満な胸で窒息しそうになりながらそれでも僕は淡々と優しく口に含み愛撫を続けていると、彼女は細かく震えだし仰け反ってしまった。
しばらく震える彼女を抱き締めて胸に顔を埋めていると
「背中」
と言ってYは四つん這いになった。
上から覆い被さり、片手で自分の体重を支える。逆の手で重力で重みの増した乳房を持ち上げ、指の股で乳首を挟む。そして首筋から舌に力が入らないようにゆっくりと背骨に沿って舐め下ろす。淡い快楽を感じ取ろうとしているのか腰を時折よじらせては声にならない吐息を積み重ねていく。
「お尻」
胸に負けないほどボリュームのあるお尻を彼女は突き出す。お尻に舌を這わせながら指先で彼女の背中をなぞる。
「微かに。触れる程度で」
飼い主のオーダーに合わせて指先に神経を注いでいると舌が疎かになってしまった。
「舌の力を抜いて」
少しづつ彼女の核心に近づくとTバックの下に隠されたお尻の穴がひくひくし始めるのが分かる。
「脱がせて」
ゆっくりとTバックを脱がせていくと、ツーっと糸を引いた愛液に間接照明の光が当たる。キラキラと美しく輝く光のライン、やがてプツンと切れた。
少し間を置き、急にアソコに顔を突っ込み、クリトリスを口に含んで少し強く吸った。
「あぁ。それ」
更に突き出してきたお尻に顔を挟まれたまま、唇と舌でクチャクチャと音を立てると、愛液は止めどなく湧き出てくる。
寄せては反す波のように彼女の声は揺れていたが、やがて歌うような声が透き通りはじめ、どこまでも高音が登り続け、そして途切れた時には僕の顔はべちゃべちゃになっていた。
息も絶え絶えに彼女は叫ぶ。
「後ろから入れて」
パジャマを脱ぎ捨て、蕩けるような温もりの中にイキりきったモノを突っ込む。
「硬い!これよ!」
彼女のお尻に僕の腰を打ち付けて弾けた音がリズミカルに響く。
「もっと強く、激しく!」
要求に応えていると腰の先がじんじんとむず痒くなってきた。
「壊して!」
彼女のアソコがぎゅうっと締め付けて痙攣し、思わず声が出た。
「あぁ!」
顔を歪めながら必死に彼女を背後から襲い続けていると彼女が叫ぶ。
「全部よ!」
「全部出して!」
彼女が叫ぶ度に、一つ、また一つと限界の壁を自分で壊してしまい、ついに崩壊させてしまった。
力尽き彼女に覆い被さるが、重すぎないように自分の身体を辛うじて腕で支え、息を整える。そのまま横になって後ろから彼女を優しく抱き締める。互いの心音を滑った肌を通して感じ合う。
呼吸と心臓のリズムが落ち着きを取り戻した時には、子供のようなあどけない寝顔でYは寝入ってしまっていた。
寒く重い冬を終え、風は冷たいが空が明るくなった春のある日、今日は電車で行こうと、Yは僕をマンハッタンへ連れ出した。ハドソン川沿いに走る列車。数十分で世界一と言っても過言ではない街に繋がっているとは思えないほど、のどかな景色が車窓から流れてくる。四人ボックス席に横並びになって手を繋ぐ。僕も彼女も景色を眺めるだけ。ほぼ無言でセントラルステーションに着いた。
「今日はMOMAに行くよ」
MOMAでYはお気に入りの絵を時が経つのを忘れて眺め始めた。ゴッホの星月夜、アンリ・ルソーの眠るジプシー女、クリムトやシャガール等、幻想的なものを時折、ため息をつき眺めている。僕もじっと横に立って一緒に眺めていると
「好きな場所を見ておいで」
と、彼女は僕を繋いでいた心のリールを放した。
当時、安物一眼レフを持って写真を撮っていたこともあり写真集が沢山置かれた場所に移動し、様々な写真集を手に取る。時に荒木経惟の写真集を眺めていると、Yが後ろから
「何を見ているの?」
と、声をかけてきた。
「アラーキーの写真集」
「面白い?」
「うん!人間の顔が一番エロいんだって。確かに身体は服を着せて隠しているけど、顔だって心を隠そうとして色んな表情をまとうという意味では同じだし、それに顔は一番、心の中が表面に出てくるから。」
「君はホントに面白い子だなあ。好きよ」
急に言われたものだから、僕は恥ずかしくて顔を赤くしてしまった。
「その顔、心の素肌が出てて、とてもエロチックね」
彼女は鮮やかに微笑んだ。
MOMAを出て5番街を歩くとティファニーがあった。
「私もいつかティファニーで指輪を買って貰うの。でもそれは私を繋ぎ止める首輪にはならない。私の心はいつだって自由。従うのは他人ではなく自分の心の声だけ。私らしいと思わない?」
僕は心の素肌をさらけ出した顔で、彼女の言葉に大きく頷くと飼い主は満足したのか
「さ、おうちに帰ろう」
と言って一人セントラルステーションに向かおうとするのを僕は嬉しそうに追いかける。帰り道、彼女はMoon River を何度も何度も口ずさんだ。
摩天楼の合間から差し込む夕日がとても優しくて綺麗な、そんな一日だった。
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