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キッテ・ドリームツアー
安物の日本酒の瓶と、さっきコンビニへ走って買ってきたイカの燻製。
明日は会社も休みだから、ちょっとばかし羽目をはずして一人酒を楽しんだって誰にも怒られない。
私はそれらを風呂敷に包み、深夜零時を待ってからーーー
幸せの詰まったそれをぎゅうっと抱き締めて、床についた。
気がつくと私が立っていたのは小高い丘。
雲ひとつない快晴、風も心地良い。
そして、この満開の桜の樹!
私の腕の中には無敵のコンビが出番を待っている。
風呂敷を大きく広げ、酒瓶のフタを回したら、もうここは誰にも邪魔されない私だけの花見会場なのだ。
この不思議な夢旅のトリガーは、現実で貰った手紙に貼り付けられた切手。絵柄によって、その日みる夢が変わるのだ。
反面、貰った手紙にどんな切手が貼り付けられているかは基本分からないため、夢旅の種類を選べない。
シンプルな花や動物ならその日はのほほんとしたピクニックを楽しめるけど、いきなり言葉の通じない外国に飛ばされることもあるし、気がついたら海の中、なんてこともあった。
切手の絵柄から大体のシチュエーションが予想できるが、その予想も半々といったところか。
ポストを開けて、私は思わず目を潜めた。
封筒に貼り付けられていたのは雪国を描いた切手だった。今日は防寒具をしこたま着込んで布団を被らねばなるまい。
お湯を注いだ水筒やカイロなどを風呂敷にくるんで目を閉じる。大丈夫、寒さを凌いだ夢旅も何度か経験がある。だから今夜もきっとすぐ…
さすがにクマと出会うシーンからはじまるなんて、私も予想できやしない。今夜は別の意味で眠ってしまわないようにしなければ。
私はクマの目をじっと見つめつつ、膝下まで積もっている雪をじわじわと足で掻き分けながら、後ずさりをした。
そして担いでいる風呂敷の中身を漁り、目ぼしい物をクマに向かって投げつける!
雪見酒用のワンカップだ。こりゃあ詰んだ。
【つづく】