逆噴射小説大賞2019を振り返って 【上】
勢いだけの小説なんて私にはかける気がしない
ただでさえこんな理屈をこね回したような人間なのに
なんていう卑屈極まりないツイートを垂れ流していたのは10月1日、 #逆噴射小説大賞2019 の応募要項がTwitterのTLに流れてきたすぐ後のことだった。
いじけて、必要以上に自分をいやしめること。また、そのさま。
中二病最盛期だったあの頃から、本を読むことも文章を書くことも大好きだったはずの自分。忙しさにかまけてそのどちらも疎かにしだしたのはいつ頃からだったか。
気付けば、「書きたいと思った時に言葉が出てこなくなっていた」。
自分がどうやって文章を書いていたのか全く思い出すことが出来なかった。情景、心情、台詞の言い回し、下手すれば情事の表現まですらすらとタイピング出来ていたあの頃の自分はもうどこにもいなかった。
背中を押されるということ
筆がノリに乗っていた遠い昔の頃から、自分と付き合いのある友人がいる。
御存知の方も多いかもしれない。
自分がのんびり牛歩をかましていた間(というか微塵も進んでいなかった頃)に、この人はメジャーデビューをはたし、このnoteというメキシコの荒野(…とはまだ自分は感じられないのだが)の世界で少しずつ活動を進めていた。
作品を発表するたびに「おお、続いてるんだな。凄いな」という簡単な感情を持つだけに留めておき、自分がその背中を追おうという気持ちを持つことをためらっていた。
自分がだらだらと卑屈極まりないツイートを垂れ流していたあの時も、TLにはタイミングよくこの人がいた。
最高に気分が落ちていた自分に向けてかどうかは分らないが、この言葉はこの瞬間の自分に酷く響いたものだ。
「物書き」という分野以外にも、自分はこの人に今まで色々と助けられて生きてきたし、今となっては人生の中でかけがえのない友人のひとりだ。
だからかどうかわからないが、この人は自分が欲しいと思った時に欲しい言葉をくれることが結構ある。
単純なことに、自分は褒められて伸びるタイプだと知っていた。
自分はこの人に褒められたいと思った。
毛玉がくれたきっかけ
変な逆ギレをTLに吐き出したところで、いったん冷静になったらしい自分がまずはじめたことはネタ探しだった。
・800字って意外と長い…
・続きを読ませたくなる終わり方って難しい…
部屋でゴロゴロしながら #逆噴射プラクティス のタグを漁り、どんな形なのか雰囲気をたどっていく自分の横で、飼い猫が丸くなっている。
お前はなにも考えてなさそうでいいな。この可愛らしい毛玉め。
…毛玉。
飼い猫のもふもふがマリモのように見えた。もふもふしたものが、途端に脳内をふわふわと漂い始めた。もふもふがふわふわと漂う空間にだんだんと背景が見えてきた。自宅だった。
スマホで文章を書き始めたらあっという間だった。終わり方の難しさに悩み始めた頃、猫が隣で大あくびをしたところで、完成形の(つづく)に至る。
大賞期間前だったが何も考えずに公開した。とりあえずなにか形になったものを吐き出してしまいたかった。これで満足してしまって、本選に出すものが書けなくなってもいい、とにかくこの「やってみたい」気持ちをどうにかしてみたかった。
ぽこんとスマホの通知欄が光る。
≪あなたのノートに対して○○さんがスキしました≫
誰かに褒められた気がした。気を良くした。自分は単純だった。
メンタルを逆噴射しろ【キッテ・ドリームツアー】
きたる10月8日までにせめて1本でも下書きを仕上げておきたいと思うのはいいのだが、そう簡単に筆が進むわけもなく。この日も自分は仕事場でパソコン画面を見つめながら呆けていた。
手紙の処理を頼まれて切手の箱を開けた時にネタは降ってきたのだ。
梅の絵が描かれたこの切手がばらばらと入った箱を見た時に、「まるで花見のようだな」と感じた。すぐさま日本郵政の公式ホームページで切手の絵柄を探し、切手の種類の豊富さに度肝を抜かれてしまった。
絵というのは想像力を掻き立てられやすい。あの絵柄なら、この絵柄ならと物語がどんどん浮かび上がる。今では日本郵政の公式ホームページで切手の絵柄をよく見るようになった。この作品が、おそらく一番「連載」の構想に近いものになっている。
収めることの難しさ【文房具擬人化大戦】
【】の中身は正式なタイトルではない。一番煮え切らない形で世に出してしまったことを今でも悔しく思うし、そもそもいろいろ危ない所に抵触してしまいやしないかかなり不安である。
プラクティスで留めておけばよかったと後悔する。そもそも名前としての文房具の種類を文面に書きだす予定は一切なかったし、もっと詰められた内容であった。
だがいざ書きだして字数チェックをしたところで、まさかの1000字越えだったのだ。削って形を整えようにももはやあきらめざるを得ないレベルだった。抗ってしまった故のこの惨状である。
反省点が多すぎて挙げればきりがないので、逆に一番個人的に気に入っている一文をここに書き留めておくことにする。
「古株から若造まで、司令の意思を前線で忠実に行動に移してきた奴等が、今では削りカスのようではないか!」
筆記用具(鉛筆)のことを表現したこの一文を思いついた時、自分で自分をめちゃくちゃに褒めていた。粗削りしすぎてお前が削りカスだ。出直せ。
大きな世界の一端を【おいしいお肉の創りかた】
#逆噴射小説大賞2019 に参加しようと思った際に、すぐさま思いついたネタがこれだった。
このツイートを元に800字を書いてみよう。
だが、書きだしたい台詞や設定事項を箇条書きに並べ、なんとなく組み立て始めたところで、自分が手を出そうとした世界観の大きさの壁にぶち当たることになってしまった。
『魔法』『農業』『畜産』、もしこの物語を長編小説として描くことになったら、大量の文献を読んで勉強するところから入らねばならないだろう。文章に散りばめられた常識や学識は、知る人から見られてしまえば簡単にその浅さが分かる。
残された時間と余裕がない中で、自分はこのメキシコの荒野で密かに語り継がれてきた言葉を思い出した。『一人称でやれ』。
気付けば肉好きの青年とキッチンがそこにあった。青年はただ自分の願望の為に肉をこねくり回し、未知なる扉を開いてしまった。ただ、それだけの話。
序盤の世界観の説明からあっさりとキッチンへの描写に移ることが出来たのは個人的に嬉しかった。説明大好き人間であった自分が世界観の説明の大部分を削ってなお、このストーリーの展開に差し支えないレベルでおさえられたのは花丸だ。
あとは、ユーモアを加えることが出来たのも嬉しかった。堅苦しい説明ばかりだと今後の展開に期待を寄せてもらえない。もえもえきゅんはちょっとどうかとは思うが、ぶっとんだ台詞もありだろう。だが魔法の呪文はまだ考察の余地ありだ。「意味を成さない」という一文がやけくそに見えてしまっていると思う。
最初から最後まで「主人公が肉を愛するがゆえに行動した結果…」というスタンスで書けたのはよかった。詰めた、という点では一番煮詰めた作品だったが、煮詰まりすぎなくてほっとしている。
>【下】へ(つづく)
後半は、逆噴射小説大賞2019に関わった一か月、自分がどんな視点で多作品を読んでいたのか、どんなタイミングでネタ探しをしていけたのかを自己考察していければいいなと思っている。
理屈っぽい内容になりそうですが、よければ付き合ってやってください。