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ヤツはただひとこと、【フォン】と啼いた。
「もう我慢ならん!俺はやるぞ!」
先日導入されたばかりの最新のAI搭載の戦闘兵器が、今では我が物顔で戦場の指揮を執っている。
新たな戦力に司令官はご満悦のようで、最近は戦いのたびにその兵器のみを連れていくのだ。
「見ろ!あの歩兵達の顔を」
罫線ノートが円卓の隅を見やった。様々な背格好の筆記用具たちには、最早戦場に赴く力強い士気は感じられない。
「古株から若造まで、司令の意思を前線で忠実に行動に移してきた奴等が、今では削りカスのようではないか!」
「君が言いたいことはもっともだ。だがアイツはハイスペックでローコスト」
細長い椅子に腰かけた定規は、見た目こそ若くあるものの、男や筆記用具たちと共に数多くの地形戦略的勝負を切り抜けてきた参謀だ。
「導入費用をあれだけ支払ってでも、僕らに代わる十分な価値があると見込んでいたからね…」
クソッ。ノートが吐き捨てる。
定規の言う通り、兵器はこの卓に集った兵力全てと同等かつ上回る程の力を備えていた。
誰が考えても最早敵う相手ではない。
「ヤツは淡々と命令をこなす、それだけの兵器。僕たちみたいな旧型は御払い箱なのさ」
定規がぼやく。
そんな彼の態度に、ノートが再び吠えた。
「だが俺等にもまだ勝機はあるんだ!テメェも見ただろ?!アイツの弱点を!」
円卓がざわめく。今まで無敵だと思われていた兵器に弱点が?皆が怪訝そうな顔でノートを見つめる。
「雨の日に戦場に連れていかれるのを嫌がってたんだ。アイツが苦手なのは、」
「黙って!」
定規の声と同じくして、司令官が部屋へと戻ってきた。一同は声を潜める。
『コイツがないと、オレもうなんにもできねーわ。充電、充電』
ゴトンと音を立てて円卓の上に置かれた『新型兵器』へ、燃料補給のため身体中心部に太いチューブが接続される。
途端、煌々と眩いた顔面に『林檎の印』が浮かびあがった。
(つづく)