見出し画像

C104備忘録「徒花に水を」

消え去る者達に希望が有らんことを

「徒花に水を」

コミックマーケット104お疲れ様でした

自分は1日目の参加でした。
猛暑予報も悲しい哉、外れることなく、熱中症患者も多数出たと伺っております。
自分の周りのサークルさんたちも暑い暑いと咽び泣きながらなんとか生き延びておられたように思います。
本当にお疲れ様でした。

「徒花に水を」

記憶も新鮮なうちに、今回新刊として頒布した本の話をしておきたいと思い、久しぶりにnoteを開きました。
以下、新刊の内容のお話がメインになります。
内容に触れる部分もございますので、ネタバレを憂う方は薄目で流していただけますと幸いです。

①コンセプト・タイトルについて

原作:CHUNITHM
レーベル:シビュラ精霊記
メインキャラ:「原初の巫女アヴェニアス」

構想の原点は、C101にて参加させて頂いたリバオンリー合同誌の寄稿作品です。
参加の動機についてはさらっと後書きにて触れていますのでここでは割愛。

「アヴェニアス」という名を受け継いだ巫女《シビュラ》はレーベル関連ストーリーに数人登場しますが、彼(彼女とも言えますが、原作の表記に倣って『彼』とします)はその原点となる存在です。
特殊な生い立ち、数奇な出会いを経て形成された彼のどす黒くも純粋で美しい心の内。
寄稿作品を執筆し終わってから、自分でも驚くほどに酷くこの人物に惹かれていることに気付きました。

合同誌が頒布されてから1年、ネット上に作品を再掲するのも有りだったのかもしれませんが、アヴェニアスに連なる新しいストーリーが公式から提示されたこともあり、この頃の自分の中では寄稿作品を更に深掘りしその先を書きたいという想いが強くなっていました。

イベントの後の荒ぶるテンションで私はてんいちさん(本同人誌のイラスト担当の方です)に送る依頼文をしたためておりました。
当時の自分を褒め称えたい。最高の本が出来たよ。

前置きが長すぎた。
全体のコンセプトを簡単にまとめますと、

「アヴェニアスが抱く愛」
「テルスウラスが抱く愛」
「ネフェシェが抱く愛」
それぞれが異なりすれ違う、彼・彼女たちの
歪んだ「愛」を描きたい、


というものです。
シビュラ精霊記レーベルはどうしてもその凄惨なストーリー性から「グロ注意」「検索してはいけないなんたら」と注意喚起されることも多いのですが、
その全てに多種多様な人間ドラマ、形はどうであれ「愛」が関わるストーリーばかりなのではないかと自分は思います。
だがしかしそれらは全て、本人たちが望む形では決して成就されなかった。
万人に受け入れられるような「幸せな結末」を迎えることは出来なかった。

そこから、「徒花(あだばな)」という言葉に出会いました。

あだばな【徒花】
①咲いても実を結ばずに散る花。転じて、実を伴わない物事。むだ花。
②季節はずれに咲く花。
③はかなく散る桜花。あだざくら。

コトバンク

花って美しいイメージですけれど、それら全てが未来に繋がる実を結ぶわけではありません。そんな花をシビュラたちに重ねました。
「徒花に水を」(以下、本作)では、アヴェニアスをはじめシビュラたちの内面を草木に例えるシーンが多く出てきます。
決して報われるとは言えない結末を迎えた彼・彼女たちが咲かせた「花」には、その短い人生の間に、箱庭の世界が齎した悲惨な運命・出来事・経験という多くの「水」が注がれました。

ここから生まれたのが本作のタイトル、「徒花に水を」です。

②第一章 Nutrient 〜栄養素

少女は小さく微笑むと、吐息を感じられそうな距離にまで詰め寄る。そして、アヴェニアスの両頬を細く小さな掌でそっと包み込んだ。

CHUNITHM SUN ep.Ⅵ 「炎の精霊」EPISODE7

寄稿作品を執筆していた当時にはまだこの「炎の精霊」のストーリーと該当楽曲は発表されておらず、まさに寝耳に水といった驚きでした。

本作の内容に移ります。

あらすじとして簡易的な内容をまとめたものを以下にまるっと記載します。

>本編より過去、まだアヴェニアスが護衛官筆頭になる前の話。
敬愛するネフェシェに対する感情が知らぬうちに性欲を孕んだものへと歪んでしまったアヴェニアス。ある日身体の不調を訴えていたところをテルスウラスに助けられる。
アヴェニアスの醜い情欲に気付いてしまったテルスウラスは彼を窘めるが、アヴェニアスはテルスウラスに対してその欲求をぶつけることで己の感情を認知する。

箱庭の世界に希望を齎した希望の巫女ネフェシェ。
彼女を護る護衛官に着任したアヴェニアスは、その見目麗しい容姿に一目で心を奪われてしまいます。
そんなアヴェニアスの頬に手を伸ばしたネフェシェ。ネフェシェにとってはその行為に深い意味などなく、常日頃から自分を護ってくれる護衛官に感謝の意を伝えただけに過ぎません。
ですがその一瞬で、アヴェニアスの心にはネフェシェに対する「敬愛」以外に、別の感情が芽吹いてしまいました。
それは「情欲」。
本来、護衛官としてアヴェニアスが抱くには余りにも私情を孕んだ、不適切な感情です。
緊張と興奮で昂る感情に身体が反応し、彼に思った以上の影響を齎します。

そんな彼を偶然見つけた、ネフェシェの侍女・テルスウラス。
幼い頃から宮殿の中でネフェシェに仕える者同士、交友があった二人。テルスウラスは不調を呈するアヴェニアスを心配しますが、聡明な彼女はその「不調」の違和感に気付いてしまうのです。

サブタイトルである「Nutrient(栄養素)」ですが、これはテルスウラスのことを指した単語となっています。

ネフェシェに差し伸べられた手を取ったその時に芽生えた小さな感情は、やがて大きく育ち、酷く歪んだ枝を伸ばした。

「徒花に水を」

芽生えてしまった感情に「名」を与え、認知させてしまった。

心にその感情を宿してしまったアヴェニアスが間違っていたのでしょうか。
それとも、その感情が育つ手助けをしてしまったテルスウラスの罪なのでしょうか。

寄稿時から変更された要素として、最後の一文に「如雨露」という単語が加えられています。
テルスウラスが成してしまった役割をより分かりやすく、そして本自体のタイトルに深く繋げる意図として選んだものです。

③第二章 Improvement 〜改良

ネフェシェにもたらされた奇跡の力。
それは、人間の胎に宿る性質があり、性別を持たないアヴェニアスにとっては、制御できない代物だった。

CHUNITHM NEW ep.Ⅱ 「原初の巫女アヴェニアス」EPISODE8

本来ならばこのエピソード8を以て、「アヴェニアス」という生命の物語は幕を下ろすはずでした。

あとがきでも触れたのですが、後述の第三章の枠組みを書き終えてから第二章の執筆に入ったため、第三章の内容と齟齬が出ないように意識しつつ外堀から内側を埋めていくようなイメージで描いていきました。
「原初の巫女アヴェニアス」のストーリーをなぞりつつも、「その先」へと繋げていくIf(もしも)の物語となっています。

>未開の地アギディスにて原初の種族達に迎えられたアヴェニアスら一行。旅の疲れを癒す為の一夜、アヴェニアスは隣で寝息をたてるネフェシェの姿に目を奪われる。アヴェニアスは己が護るべきネフェシェの身体に触れてしまい、その体液を身体の中に取り込んでしまう。
「原初のうつろ」を目指す一行を襲うルスラ軍。道行を共にしていた原初の種族をあえて犠牲にしたことで不信をかったアヴェニアスは大怪我を負い、ネフェシェの強い想いによって「炎の精霊」を受け継ぐに至る。
【if分岐】本来ならば性別を持たないアヴェニアスには制御できない筈の精霊の力だが、『ネフェシェの体液を口にしていた』ことでそのデメリットを克服。火の力を行使できずとも、身体の中に留めておくことが奇跡的に可能であった。ネフェシェと引き離されたアヴェニアスはその事実に戸惑い、「旧知の宿敵」を尋ねるべくルスラへと歩みを進める。

アヴェニアスとネフェシェが原初の種族たちの拠点で休息を取るシーンから物語が始まります。
いつもは「護衛官」と「護衛対象」ですが、今だけは他の邪魔が入らないたったふたりきりの時間。アヴェニアスはもちろん毅然とした態度で護衛官としての勤めを果たそうとしますが、それに手を差し伸べたのが他でもないネフェシェでした。
休んで欲しいと懇願してもそれを頑なに拒むアヴェニアスに対し、ネフェシェが取ったのは少々強引な手段。
ですがそれはアヴェニアスが記憶の奥深くに仕舞い込んでおいたとある「感情」を、呼び起こしてしまいます。

眠りについたネフェシェを見下ろし、アヴェニアスは苦悩します。
そして、決して越えてはならないと誓ったはずの一線へと手を伸ばしてしまうのです。

「ネフェシェ、さま。愛しています。僕は、あなたを……あなたの全てを……愛します」

「徒花に水を」

アヴェニアスがネフェシェに対して吐露する言葉に「愛」という単語を用いたのは、ここが初めてです。

この後は原作のストーリーに一度軸が戻ります。
原作の文章を引用しつつ、雰囲気を損なわぬよう、かつ盛り上がりを意識して筆を進めていきました。

命の灯火が消えようとしているアヴェニアスを憂いたネフェシェの願いにより託されて「しまった」精霊の力。
彼の身体を燃やし尽くしてしまうはずだったそれは、誰も予想をしていなかった「奇跡」を起こします。

「Improvement」品種改良を意味する単語です。
第二章を最後までお読み頂いた方なら、これが何を指しているのか、お分かりでしょう。

ネフェシェからアヴェニアスに向けられた「愛」の形、
アヴェニアスからネフェシェに向けられた「愛」の形。
二つは決定的に異なっており、交わることはありません。
ネフェシェの「愛」によって捻じ曲げられてしまったアヴェニアスの魂がこの先どのような結末を迎えるのか、物語は第三章へと繋がっていきます。

祈りは届けられた。
だが、それは呪いにも等しい力と成った。

「徒花に水を」

④第三章 Thinning 〜間引き

絶望の先に僅かに見えた希望を追い求め、アヴェニアスが戻ったのは、かつてネフェシェやテルスウラスと共に生きたルスラの地でした。しかし美しかった聖都アレサンディアにかつての面影は最早なく──。

時間軸としては「土の精霊」エピソード4から描かれている猟奇殺人事件とルスラ国内に蔓延する紛争の時期に合致します。
戦場となってしまった市街地を歩くアヴェニアスに声をかけた女性。アヴェニアスのことを知っていたこの人物は、「テルスウラスの侍女の姿に擬態した土の精霊」──テルスウラス本人でした。
二人は身体を休めるていで間借りした小屋で一夜を明かすことになります。
そこでアヴェニアスはテルスウラスの口から、ルスラの現状や「精霊」についての詳細、そしてテルスウラス自身の胸中を吐露されることになるのです。

「私は、間違ってしまいました。アヴェニアス……あの時たった一度間違ってしまってから、全てが壊れてしまったのです。ルスラも、世界も、私自身さえ……この奇跡の力を使ったとしても、もう取り返しがつかないほどに」

「徒花に水を」

>テルスウラスが新たな神としてルスラ、聖都アレサンディアで祭りあげられるようになってからしばらくの時が経った。荒れたルスラの地を再び踏みしめることになったアヴェニアス。夜のアレサンディアを彷徨っていると、路地裏からふらふらと歩み寄ってくる女(=テルスウラスの侍女のフリをして殺人を繰り返していた土の精霊=テルスウラス本人)と出会う。女はアヴェニアスの顔を見るや否や彼の名を呼び、そのままぱたりと意識を失ってしまった。
粗末な屋根付きの場所で目を覚ました女はかつてのテルスウラスの姿へと戻り、彼女は自らの置かれた環境や、ネフェシェに手をかけた罪の意識で押し潰されそうになっていることをアヴェニアスに吐露する。テルスウラスはかつて平和なアレサンディアで、純粋な心でネフェシェに仕えていた時の事を思い返しながら「どうかあの時の夢をもう一度見たい」とアヴェニアスに懇願した。
一夜の後、憑き物が落ちたかのように背筋を正したテルスウラスは、アヴェニアスに別れを告げてアレサンディアの宮殿へと帰っていった【→土の精霊EP7へ】。
一方アヴェニアスはネフェシェと分たれたアギディスの山嶺へと戻って来る。ここで待っていればきっとネフェシェにもう一度会えると願った瞬間、「原初のうつろ」の方角である北から不可解な音を聞く。ネフェシェがイデアに取って代わられたことで体液の恩恵が消え失せ、アヴェニアスは自らの内に眠る精霊の力を抑えることができなくなり、その姿は「魔人」へと変貌していく。

本作に着手するにあたり、最初に書き始めたのがラストシーン、つまりはアヴェニアスが「炎の魔人」へと変わっていく場面です。
本作は「結末は原作へ回帰する」ことを絶対条件としていたため、アヴェニアスがどのような運命を辿ろうと「炎の魔人」になり、「炎の精霊」のエピソードに登場するイダール、イーリオスの物語へと繋げていくことが必須でした。
それを前提とした上で、本作におけるアヴェニアスに餞を贈るつもりで壮大な「最期」を描きたいと思っておりました。

後書きでちらりと書いた話ですがここで補足も含めて。
イラストを担当してくださったてんいちさんに本作の概要をお伝えさせてもらった際、表紙や扉のカットを含めたくさんのイメージラフをいただきました。
その一部が、口絵として使用させてもらったネフェシェとアヴェニアスのカットです。
この二つを拝見させて貰った時に、本作のラストシーンがふと降りてきました。自分でも驚くほどに鮮明な情景を伴って、です。

切り立った崖の上(アギディスの山嶺をイメージ)。
遠くに見える山の頂に渦巻く雲(「原初のうつろ」空間を外側から見たようなイメージ)。
それは何かを迎え入れるかのように口を開け(UFOのアブダクションのイメージ)。
非常に奇妙な「音」が世界を揺るがす(これはCHUNITHMが「音楽ゲーム」であるところから着想を得ました)。
神を讃えるアヴェニアスと、
そんな彼に振り向くことはなかったネフェシェ。


てんいちさんはこのカットのラフに対して、「寄稿作(「Nutrient」)からのイメージです」と仰ってくださっていました。

ネフェシェは誰に対しても平等に慈悲を与える人物です。
ですがそれは「誰かひとりだけに目を向けることは決してない」と捉えることも出来ます。なぜなら彼女は「世界」を愛しているから。「世界全体」の平和を願っているから。
対してアヴェニアスはネフェシェだけに、その狂信的な愛を向けています。
二人の想いは決して交わることが出来ないという決定的なものが、この口絵に全て描かれているように思えてなりません。

三章の本筋に戻ります。

一つ屋根の下で一夜を共に過ごすことになったアヴェニアスとテルスウラス。
元はと言えば、生誕祭でネフェシェを手にかけたテルスウラスは、アヴェニアスにとって恨んでも恨みきれない宿敵に等しい相手です。あの事件のせいでネフェシェは苦境に陥ることになってしまったのですから。
ですがそんなアヴェニアスの復讐心も、テルスウラスの変わり果てた姿を見て鳴りを潜めました。侍女だった頃の眼の輝きはまだ衰えていなかったものの、すっかり小さく見えてしまうテルスウラス。彼女はネフェシェから精霊の力を託されてしまったばかりに、波乱渦巻くルスラ情勢の渦中の人物として翻弄されていたのです。

テルスウラスの願いはただ一つ、「ネフェシェが幸せに生きてくれれば良い」それだけでした。
二人は、自分たちの身体に宿る「精霊」こそが「ネフェシェが生きている証」なのだと希望に胸を撫で下ろしますが、テルスウラスはその「精霊」こそが自分たちを「人」とはかけ離れた存在へと造り変えてしまったことを憂いていました。

今やテルスウラスは自死を願うほどに心を追い詰められていました。そんな彼女にかける言葉が見つからないアヴェニアス。
そしてテルスウラスはそんな彼に対しこう溢しました。

「どれだけ狭い世界だったとしても、私にとってはあの宮殿での毎日が何よりも尊くかけがえのない日々でした。幸せだった……あの頃に戻りたい、などと願うのは、きっと愚かなのでしょうね」
「お願い──」
「──『あの日』のように、どうか私を抱いて。アヴェニアス。最後にもう一度だけ……思い出してみたいのです」

「徒花に水を」

交わす熱の奥にネフェシェの愛の面影を追い求めた二人。

テルスウラスはその夜、夢を見ました。
「Thinning(間引き)」は、燃え尽きようとする大樹の火の粉を浴びて自らも燃えてしまう──テルスウラスがこの物語の舞台から降りることを指して選んだものです。
最後の彼女の台詞には、テルスウラスからネフェシェに対しての「愛」の形を、全て詰め込んだつもりです。

(幸せに、なってほしかったの)

「徒花に水を」

⑤表紙・扉絵などについて

ここから先は執筆中にてんいちさんとやりとりさせて頂いていた内容を引用しつつお話ししていきたいと思っています。
裏話もりもりするぞ〜楽しんでいきますよ。

⭐︎本作を飾る表紙】

実はイメージラフを頂いた時には、採用したアヴェニアスのイラストに加えて他に二案ありました。
どちらもアヴェニアスがテルスウラスに膝枕されている構図を、更に「引き」で見たものだったのですが、本作の内容が「アヴェニアス×テルスウラスだけのものではない(ネフェシェとの絡みもある)」ことが確定していたため、「アヴェニアス中心である」ことが分かりやすい構図が良いかな、となり、現行のものに確定しました。
テルスウラスは膝回りと手元だけですが、このイラストだけで「アヴェニアスは誰と一緒にいるのか」「手を伸ばした先にいるのは確実にテルスウラスじゃないだろうこれ」という印象操作が出来るかと思っており、それとなく「ネフェシェを思い起こさせるようなモチーフがあるといいかも〜」とお伝えしたら、次の瞬間には見事に瞳の中に神が降臨なされて天を仰ぎました。

⭐︎裏表紙】

こちらにも工夫が凝らされていたのにお気づきになられたでしょうか。
中央に描かれた三種の花は、上から順にそれぞれアヴェニアス、テルスウラス、ネフェシェをイメージしたものになっています。
こちら、本作のタイトルが確定したすぐ後にてんいちさんから「イメージフラワーなどがありましたら教えてもらいたい」といただいて、挙げたものを採用していただきました。
>以下自分のコメントです:

○アヴェニアス:ホトトギス(主題花言葉:永遠にあなたのもの)
ユリ科です。白地に紫の斑点は見た目が少し毒々しく、今回の物語におけるアヴェニアスの歪んだ心情を表しているように見えました。
夏〜秋にかけて比較的長く咲き続けることも、ネフェシェに付き従う彼のひたむきさに似ているように思えます。

○テルスウラス:ハマユウ(主題花言葉:どこか遠くへ)
ヒガンバナ科です。花がユリに似ていることから、学名にユリの由来が入っているそうです。
しかしユリの花というよりは、花弁は細く、白いヒガンバナに近いように見えます。
土の精霊の力を受け継いで以降、聖都にその身を(ほぼ)軟禁され、上層部の言いなりとして生きた彼女の「心の痩せ細り」を表しているように思えました。

○ネフェシェ:スミレ
スミレ科です。キャラクタービジュアルのイメージが強いため、あれを元にスミレを選択しました。
多くの品種をもつ花なので色や形も多く、花言葉も多いのですが、そのどれもがネフェシェの純真無垢な人柄を表していると思います(謙虚、誠実、純潔、希望、慎ましい喜び…など)。特に「小さな幸せ」という言葉は彼女にぴったりだと感じます。

アヴェニアスやテルスウラスの花が「だれかもうひとりの相手に向けられた言葉」を持つとしたら、ネフェシェの花は「自己のみで完結する言葉」を持っているように解釈できます。
これが、ネフェシェの感情が個人に向けられることなく「箱庭の世界、人類」という漠然とした大きなものにしか向けられていないという、今回の物語の根幹部分に近い相関性をもっているかもしれません。

>このコメント、そのままでてんいちさんに送りつけたことを後悔しておりません。

焼け焦げたような跡ですが、
>以下てんいちさんのコメント:
「焼け跡はアヴェニアスの炎と、このお話は誰にも知られてはならないと言う気持ちを込めたつもりです🔥」(原文ママ)

てんいちさんの些細な提案には何度も助けられました。
こういうエピソードまだまだ続きます。

⭐︎装丁の話します!】

【特殊紙:タスヴェラス200SKYクリスタルホワイト】
光を反射して僅かにきらきら輝いてくれます。光る部分を「精霊」の神秘性に準えました。少しざらついた手触りに関しては、ノイズっぽく作品の不穏な雰囲気を醸し出せるかという狙いがありました。
【箔押し:マグマ透明箔】
当初はタイトル・枠・涙部分・周囲の模様部分にエンボスニス加工をする予定だったのですが、エンボスニスと特殊紙の相性が悪かったこともあり、箔押しに変更する形になりました。
箔押しって一種の憧れでもあったので本当にお財布との相談だったのですが、ここでマグマ透明箔の存在を知り。「眼の中のイラストが隠れない透明箔な上、名前もまさにアヴェニアスのための箔押しだ」とてんいちさんと二人で「これだ!!」となった、素敵な出会いでした。
本編のラストシーンでアヴェニアスの身体から炎が溢れた描写と偶然にも合致し、自分でも非常に嬉しくなった記憶があります。

てんいちさんに本作のイラストを依頼したきっかけの一つに、自分がてんいちさんのイラストにおける色の質感がとても好きだったからという理由があります。
印刷の際の色合いの変化をどうしても防ぎたかったので、カラーイラストに関しては表裏表紙・口絵含め全てにRGB印刷のオプションを追加しました。

⭐︎カラー口絵】

「Thinning」の解説項におおよそを記載しておりますので、そちらにて。

⭐︎本文扉絵】

>てんいちさんのコメント:
口絵と同じコマ配置でギスギスな雰囲気のテルスウラスとアヴェニアスを描いたら面白いんじゃないかな〜と勝手に思っています…

薄暗い雰囲気で、互いに互いを見ているようで見ていない、「この本はシリアスですよ」と丁寧に前置きをしてくれている感じがします。

⭐︎キャラクター紹介ページ】

3人それぞれに美しい飾り枠を用意してくださいました。こちらにも先述のイメージフラワーを用いてくださっています。

ここからは自分の憶測に基づく話となりますが、
各々の役割(「火の巫女」「土の巫女」「希望の巫女」)のモチーフを取り入れて貰っていることに加え、キャラクター衣装の一部が飾られているように思います。
見開きの左ページいっぱいにネフェシェのみを配置していただくことにより、彼女がよりこの作品内における重要な人物であることが強調できているのではないでしょうか。
ページの下書きを頂いた際に、まるで宗教画のようだとコメントした記憶があります。

このページに載せた3人を象徴する文章ですが、本編をほぼ書き上げた後に用意しました。 SNSの告知など様々なものへ掲載しています。

「彼は芽吹いてしまった」

──アヴェニアスの、ネフェシェへ対する「情欲」の芽生え

「彼女は注いでしまった」

──テルスウラスが、アヴェニアスの「情欲」を助長させる行いをしたことに対する比喩

「神は        」

──ネフェシェは、

⭐︎各章の扉絵】

イメージラフを頂いた際に載っていたカットでした。もちろん、全て採用させて貰っています。

>てんいちさんのコメント:
①「アヴェニアスの靴と金食器」(「Nutrient」)
金は銀と違い毒に強いので、いくら刺しても黒ずむ事はありません。
②「ティーカップ」(「Improvement」)
これを摂取すると体が軽くなります。
③「テルスウラスの懐中時計」(「Thinning」)
時を刻むほど、彼女の思考は無意識に切り刻まれていきます。
④「本のようなマッチ箱と折れたマッチ棒」(本編最終ページ)
この話は表に出してはいけない!燃やそう!(燃えない)

>自分のコメント:
なぜてんいちさんがシビュラ本を出さないんだろう…

もちろん、こちらのてんいちさんのコメントから、本編も多くの影響を受けています。
①「金」は、彼の服の装飾を連想させると共に、気高き護衛官としてのアヴェニアスの在り方を。ではその「金」が突き刺さったアヴェニアスの靴から溢れ出たものは? 果たしてこれが「毒」なのでしょうか。「毒」をはね除ける「金」、相反する二つの要素は、己の本心と葛藤するアヴェニアスの胸中を思い起こさせます。
②中に飾られているのはネフェシェを象徴する「スミレ」の花です。カップがひび割れているのは、力が一つずつ剥がれ落ちたネフェシェの脆い器でしょうか。落ちた花弁にも同じ意図を感じます。体が軽くなる──まるで麻薬のような多幸感。アヴェニアスを「内から蝕む」ネフェシェの恩恵です。
③摩耗したテルスウラスの心。時が二度と戻らないように、切り刻まれた彼女の心も不可逆です。死にたくても死ねなくなってしまった「絶望」も重なって、やがてテルスウラスはその形を微塵も残すこと無く、消えてしまう運命にあります。
④アヴェニアスの想いは誰にも知られてはいけないものであること。彼が「火」を司どる役割を賜ってしまったこと。そして炎と共にこの物語が葬られていったこと。ですが「シビュラの記憶は受け継がれていく」──燃え尽きてしまうことすら許されなかった、アヴェニアスの記憶。裏表紙の燃えているデザインも相まって、説得力のあるカットに成ったのではないかと思います。
(追記:これは気のせいだったら申し訳ないのですが、マッチ箱に描かれた模様はネフェシェの胸元の飾だったとしたら、ちょっと情緒が…)

⑥イメージソングについて

イメージソングは作品を執筆するにあたり個人的に外せない要素です。
なので、イメソンの紹介は今までのどの同人誌においても必ず設けさせて貰っているページです。

「雨音のワルツ」/シャルロ
(アルバム「Crimson Raincoat」/RaqesQue)
叩き付ける雨の音から始まり、雨の音で終わるインストゥルメンタルです。
本編のラストシーンを彷彿とさせてくれます。

「Memories of You」/Sad Keyboard Guy feat. vally.exe
(アルバム「AD:PIANO Ⅸ “Alt”」/Diverse System)
本作のメインテーマを想定しています。
悲壮感溢れるメロディーとピアノ、サビへ向かって盛り上がっていく構成に加え、歌詞(英語です)も運命に翻弄されるアヴェニアスの内面を映しているように思えてなりませんでした。

「まよいづき」/onoken feat. Misaki
(アルバム「Testimony2」/axsword)
後編におけるテルスウラスをイメージしています。
歌詞に出てくる「あなた」ですが、本作のイメージソングとしては複数の対象がいると仮定しています。
──不安を包んでくれる「あなた」
──なつかしく想う「あなた」
──「あなた」と歩いて行きたい
それぞれが誰を指しているのか、ぜひ考えてみてください。

「Horizon」/Sennzai
(アルバム「Prismtone」/Seardrop)
イメージソングとしては最後に加わったものです。
アヴェニアス、テルスウラスそれぞれからネフェシェに対する目線をイメージしたものになっています。
強いて言えば、エンドロールを思い浮かべていただければ、雰囲気が伝わるかと思います。

「《自戒》  〜Paganelope」──Warak
(音楽ゲーム「CHUNITHM NEW」/SEGA)
アヴェニアスの物語を彩った原曲に、心からの敬意を込めて。

終わりに

お話ししたかったことはあらかた伝えきったかと思います。

既に世界観が完成しきっている「シビュラ精霊記」というストーリー。
そこに自分の想像を練り込むのは非常に難しかったです。これはどんな二次創作活動においても当たり前のことながら、今回は特に、という意味を込めています。
なぜなら、ストーリーに出てくるシビュラたちは、命が既に潰えている者が大半だったからです。
完成された彼・彼女たちの「人生」を自分なりに噛み砕き、解釈し、描きたいものと擦り合わせ、文章として再構築していく。ストーリーの神聖さも相まって、侵してはいけない領域に踏み入っているような感覚すら覚えていました。
ですが、完成した本作をイベント当日に本として手にした時には、途中で筆を投げることなく形にすることが出来て本当に良かったと思えました。

アヴェニアス──まだ14歳だった彼は、
世界の非情な運命に翻弄され、
自身では制御することも難しいほどの強大な感情に揺さぶられ、
彼が心から望む未来にすら辿り着けぬまま、
たった一つ、己の中で大切にしたかったネフェシェとの記憶まで奪われ、
その命を終えることとなりました。

『奪わないでくれ!』
──僕は誓ったんだ。

『僕から、ネ■ ■ ■ ェ様を……』
──貴女を悲しませるすべてから護ると。

『ネ■ ■ ■ ■様との、想い出を……』
──僕だけが救えるんだ! 彼女を、彼女の……。

CHUNITHM SUN ep.Ⅳ「炎の精霊」EPISODE7(一部抜粋)

享受される愛に、魂が溶けていく。
それでもなお、彼女を支配するのは幸福だけだ。
なにもかもが、溶けていく。
とてもとてもきれいな、抜け殻だけを残して。

CHUNITHM SUN ep.Ⅳ「希望の巫女 ネフェシェ」EPISODE8

「ああ、とても──しあわせ」

CHUNITHM SUN ep.Ⅳ「希望の巫女 ネフェシェ」EPISODE8 サブタイトル

アヴェニアスの眼に最期まで映っていたのは、
きっと、敬愛するネフェシェから差し伸べられた、
「あの日」の暖かな掌だったのでしょう。

愛しいひと。美しいひと。
僕にすべてを与えてくれて、僕がすべてを捧げようと誓ったひと。

あなたが、僕の世界のすべて。

「徒花に水を」

「神はあいしてしまった」。
この、箱庭の世界を。

お読みいただきありがとうございました。

2024.9.12
attolyre

いいなと思ったら応援しよう!