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インドで使ったサービスのビジネスを分析してみる(旅行業界)



インドではグローバルアプリに加えて、旅行者にとっても使える独自のサービスがたくさんあります。

アプリ自体の紹介は旅行者のブログでよく見かけますが、それらのビジネス面について日本語で紹介している情報も少ないと思うので、できるだけ整理してみたいと思います。深堀りしていくと永遠に完成しないので、勢いで書きます。

まずは旅行者がよく使うであろう、旅行業界のサービスを見てみます。

市場規模

インドの旅行マーケットの市場規模は、3.8兆ルピー(約6.5兆円)で、2028年には、オンラインだけで2.8兆ルピー(約4.9兆円)が見込まれている。

日本の旅行業界の市場規模が2.9兆円(2022年度の主要旅行業者の総取扱額)らしいので、既に日本の2倍くらいの市場規模だろうか。

参考:業界レポート 旅行業 株式会社CCイノベーション
https://www.ccinnovation.co.jp/wpdir/wp-content/uploads/2024/04/20240404_ryoko.pdf

ixigo

IITカーンプルの卒業生が2007年に立ち上げたアプリ。列車の予約で46%のシェア
を持つ。インドで2番目に大きなOTAである。2024年6月に上場している。

ユーザー目線では、インドの番号なし&日本のクレジットカードで、飛行機、ホテル、電車、バスの予約ができるので、とても便利。他のアプリは、インドの番号がないと使えなかったり、日本のクレジットカードが使えなかったりする。

インドのOTA市場では、makemytripなどの大手OTAがいる中、ixigoはこれらの競合との差別化戦略を取っている。

具体的には、Tier II以下の地方都市を中心とする、Next billion users(NBUs)(次の10億人)をターゲットセグメントとしている。

Next billion users(NBUs)とは、Tier II、IIIなどの地方やTier I都市の中・低所得層のインターネット初心者のユーザーである。

※インドのTier Iの都市とは、バンガロール、デリー、チェンナイ、ハイデラバード、ムンバイ、プネ、コルカタ、アフマダーバードを指す(参考)。

ターゲットセグメントに合わせたプロダクトとして、

  • 8言語で利用可能なアプリをローカライズされたコンテンツや機能に合わせてカスタマイズ(インドでは地域によって言語が異なる)

  • 他のOTAが飛行機やホテルを中心にしているのに対して、ixigoは鉄道に力を入れている(地方都市では鉄道が主軸)。このため、インドの国営のB2C鉄道チケッティング会社であるIRCTCとパートナーシップを締結している。

インドの旅行の市場規模と今後の成長セグメント(おそらくNBUs)を踏まえれば、makemytripなどと異なるセグメントを選択し、明確に差別化された価値を提供しているといえる。

参考:ixigoの戦略


redBus

ixigo同様に、インドの番号なし&日本のクレジットカードでバスのチケットを予約できる。2006年に創業し、インド最大のバスのOTAになっている。15以上の州でサービスを展開し、80,000以上の路線を持つ。

2013年にgoibiboグループに買収され、goibiboがmakemytripの傘下に入ったため、現在はmakemytripグループの一員である。

基本的な収益モデルは、プラットフォームを通じて予約されたチケット代金の一定割合を手数料として徴収するモデルである。

二面市場(two-sided platform)のプラットフォームビジネスであるので、バスオペレーターと一般顧客の両方を揃えなくてはならないが、ネットワーク外部性が生まれれば、プラットフォームとして高い競争力を持てる。

さらに、BOSS(Bus Operators Software System)とSeat Sellerという2つのクラウドベースのソフトウェアサービスを開発し、バス運行業者(運営管理のため)と旅行代理店(複数の運行業者のチケットを集約して販売するため)に提供しており、バス業界の予約プラットフォームとしての地位を確立している。

redBusはバスに特化しているからこそ、既に抱え込んだ多くのバスオペレーターに向けに新しいプロダクトを提供できている。運行管理やチケッティングなどのコア業務を支援するものであり、粘着性も高いと思うので、安定的な収益源になると考えられる。

オンライン予約のバス旅行の市場規模は880億ルピー(約1500億円)で、旅行マーケット全体からすると大きくはないが、redBusのバス旅行での市場シェアはなんと70%らしい。

競争戦略の観点では、特定のセグメント(バス旅行というニッチ市場)での「集中」戦略をとっていると考えられる。

redBusのターゲットセグメントは、インターネットを頻繁に利用し、バスで頻繁に旅行するミドルクラスである。

ターゲットセグメントに対して、カスタマイズされた体験の提供を重視し、カスタマイズされたオファーやプロモーションを提供することで、顧客エンゲージメントを高める戦略をとっている。

顧客体験を振り返ると、特に優れていると感じたのが、Live Trackingの仕組みである。インドの場合、定刻どおりにバスが来ないのが普通なので、特に土地に慣れていない旅行者にとっては、いつバスが来るのか、ピックアップポイントは正しいのかが不安である。

さらに、夜行バスの場合、自分が降りる場所(チケット購入時に設定)の5km前になったら、Wake up callを受けれる機能がある。バスは遅延するため、事前に到着時間を予測して目覚ましを設定するのが難しい。近くになったら自動的に起こしてくれる機能はありがたい。

こうした機能は、技術的にすごいものではない(バスをGPSでトラックキングしているだけ)が、明確の顧客のペインの解決につながっている機能であり、枯れた技術でも工夫しだいで顧客価値を提供できている。

参考:redBusの戦略