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東アジアの人口減少問題と、第二の自治体「Local Coop」が描く未来

少し前になるが、Funding the Commons Tokyoでプレゼンをさせてもらった。このイベントは、そのタイトルにもあるように、公共財(Commons)に対する資金循環の新たな可能性について、世界的な議論を展開する場であり、日本の文脈を世界に発信することを意図していたと思う。この機会を作ってくれた友人たちに、改めて感謝したい。ここでは記録として、会場である国連大学でのプレゼンテーションの映像(English)を共有し、日本語で簡単に説明を加える。

以下が使用したスライド

これまでのスピーカーたちはラディカルなメカニズムについて言及していましたが、もしその実践をどこから始めるべきかと尋ねられたら、私は「人口が急激に減少している日本の地方から」と答えるだろう。
日本の人口は2018年にピークを迎え、その後減少し続けており、日本は世界で最も人口減少と高齢化が進んでいる国の一つと言っても過言ではない。
そして、これは日本だけでなく、東アジア全体にとっても深刻な問題となるだろう。
これは、この夏に訪れた、10年前に廃村となった集落の写真である。道路は崩れ、空き家は放置されている。
日本地図は、2050年までに「消滅の可能性が高い」と予測される自治体によって赤く染まっている。1,700を超える基礎自治体のうち、約40%が消滅の危機にある。このように人口が減少し続ける中で、私たちのチームの役割は、公の役割をさらに縮小することである。まさにこのタイミングだからこそ、これまで国家や地方自治体が担ってきた「自治」を、元来の「自らによる統治」にリデザインすることができるのである。
では、どのように始めるのか? 私たちは、日本の地域社会と地方自治体に注目し、新しい共同体OS「Local Coop」の開発と実装を行うことにした。これまで行政機関に任せていた役割を自らの手に取り戻し、より柔軟で豊かな暮らしの基盤を構築する。小さな共同体が無数に生まれ、それらを自由に行き来する人々が、共創と互助によって課題解決を行い、新たな価値を生み出していく。その第一歩として、地方自治体のサブシステム(第二の自治体)を作ることから着手するというのが戦略だ。地方自治の在り方をリデザインすることで、Local Coopが目指す小さな世界の分散モデルが見えてくるだろう。
Local Coopは、まさに「Funding the Local Commons」を実現する機構であり、地域が抱える空き家や広大な森林などのローカルアセットをアクセス可能な状態にし、資金や外部リソースを調達しながら、コモンズとして育むことができる。ガバナンスには旧来の行政や議会が関与することなく、コモンズやコモンファンドを最適に再分配・投資することを目指す。
では、具体的な事例を説明しよう。
一つ目は、日本の典型的な過疎地域である山古志村の事例である。現在、山古志村の人口は770名を切り、暮らしに必要不可欠なインフラの維持も今後は難しい状況に直面している。「このままでは村が消えてしまう」という危機感を抱き、約3年前に村の方から連絡をいただいた私たちは、以下のような提案を行った。
「とにかく、山古志村の現状を世界中の人々に知ってもらい、仲間を集めましょう。」
そして、錦鯉発祥の地である山古志の象徴として、錦鯉をモチーフにしたジェネレーティブアートを制作し、世界で初めてデジタル住民票NFTを発行することになった。そして、デジタル住民票NFTを購入した人を、私たちは「デジタル村民」と呼ぶことにした。
NishikigoiNFTコミュニティは、錦鯉や牛の角突きといった自然資源や独自の文化を守る現実世界と、物理的制約を超えて無限に広がるデジタル空間を組み合わせることで構築されている。NFTをツールとして活用することで、複数のユーティリティを提供しながら、新しい関係性をデザインすることが可能である。
現在、デジタル村民は国内外合わせて1,700名を超え、リアル村民の2倍以上となっている。物理的に人口が減り続ける地域において、山古志というアイデンティティをデジタル空間上でNFTを介して誰もが取得できる状態を作ったことで、村の運営方法や自治のあり方に大きな変化が生まれつつある。
二つ目は、持続的に再生される自然と持続可能な地域コミュニティの関係についてである。私たちは、日本にある豊かな自然に着目した。国土の7割は森林であり、列島は海に囲まれている。一方で、林業などの産業が衰退した結果、人工林は荒れ果て、生き物が減少し、魚も取れなくなり、土砂災害などのリスクも高まっている。自然の循環を取り戻しつつ、経済性を担保することが重要である。
SINRAは、創出されるカーボンクレジットの事前保有権(名義書換え権)をブロックチェーン上で取引できるようにすることで、日本の地域が抱える森や海のメンテナンスに必要な資金を調達することを可能にした。調達した資金を活用して自然資源を維持・管理することで、カーボンクレジットを創出することができる。また、企業だけでなく、国内外の個人も取引に参画できるよう、「排出権取引の民主化」を進めているプロジェクトでもある。
私たちは、カーボンクレジットを創出する最初のサイトとして、三重県尾鷲市と提携している。一方で、森のメンテナンスから生み出されるのはカーボンクレジットだけではない。私たちは、生物多様性の森づくりを行い、人間が破壊してしまった自然を回復させることで、多様な生き物が戻り、災害が起きにくい流域づくりを進めている。これから流す映像は、流域に住む地域住民や尾鷲に興味関心がある地域外の人々が協力しながら、山に入って共に作業をしている様子である。私たちはカーボンクレジットの創出だけでなく、人々の暮らしと自然との関係を取り戻すことを重視している。

この6か月間で、これらの共同作業に参加した人々の総数は700名を超え、森林は年間30万USD相当のカーボンクレジットを生み出すことができる状況になった。地域の自然をケアしながら資金を調達できるこのモデルは、他の地域にも展開され始めている。
三つ目の事例は、パブリックサービスの移管である。パブリックサービスの運営者を行政からローカルコープへシフトし、地域住民の協力を得ながら、公共交通や資源ごみ回収などのエッセンシャルなサービスの運営を実施している。今後、行政はパブリックサービスの運営を手放し、ローカルコープが大手企業やスタートアップ、地域住民と連携しながら、代替サービスのデザインを進めていくことになるだろう。
例えば、ごみの回収について、将来的に行政が直接収集を続けられるかどうかはわからない。月ヶ瀬というエリアでは、資源ごみの回収スポットを6分の1に減らし、住民が自ら持ち込む形に変更した。新たな回収スポットはコミュニティスペースとなり、住民がこれまで以上に細かく分別することで、資源が増えるサイクルが生まれている。さらに、これらのごみステーションはコミュニティスペースとしても機能しており、住民同士のコミュニケーションが増えている。これにより、高齢者が要介護状態になるリスクが減少するというエビデンスもある。また、資源の売却益を自分たちの予算として使えるようになった。持続可能ではない行政サービスを最適化しつつ、住民自らが貢献することで、活用できるリソースを増やすことが可能となる。
こちらは、ローカルコープの説明と地域課題の検討にあたって行われた実際の住民協議会(自分ごと化会議)である。多様な意見を集めるため、住民票からランダムに選ばれた人々が参加する権利を与えられた。4ヶ月にわたる集中的な議論を経て、地域の未来と共助・地域コミュニティのあり方について話し合い、ローカルコープに向けて第一歩を踏み出した。
ローカルコープの実践はまだプロセスの途中にあるが、ここまで具体例を交えて述べた通り、複数のチャネルを通じて資金やリソースを安定的に調達し、コモンファンドを形成していくことを目指す。コモンファンドは、QF(クアドラティックファンディング)などの手法を用いてマッチングされ、フィジカルな地域の存続と発展に必要な領域に再分配される、世界初の事例となる。
日本国内では4つのエリアで実証を進めており、近い将来、国外での実証も進める予定である。
Local Coopは、急激な人口減少に直面している日本において、戦略的に「地方自治体のサブシステム(第二の自治体)をつくることから着手する」べきであり、本来のラディカルな自治をデザインする絶好の機会である。自己主権的でありながら、生き残るために共同体をつくり、人々が複数の共同体を自由に行き来し、助け合うpluralな世界を実装するメインシステムとして、Local Coopを開発していきたいと考えている。
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以上です。ありがとう。

スライド全体はこちら

といった感じで話してきた。日本の思想やその文脈を少なからず受け継いだ国内の実践を世界に共有するという運営者側の熱意を感じ、多くのフィードバックと出会いを得ることができ、本当に刺激的な2日間を過ごすことができた。
一方で、こういった場に日本のローカルプレイヤーが依然として皆無であることが残念に思う。なぜ地域で活動しているのか、なぜ日本なのかを考え、自分たちの立ち位置を改めて確認し、仕掛けることが重要であり、もはや「地方創生」や「課題先進国(地域)」といったフワッとした言葉を並べている場合ではないと思う。


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