新人研修は『楽しい』があるべき姿

 この記事【マック、ゲームで人材育成 楽しい研修で定着図る】は、新人研修などのあり方について、改めて考えさせてくれます。新人研修は『楽しい』べきか、『厳しい』べきか?

 この問題を検討するに当たって、何よりもまず考えなくてはならないのは、新人の『心の内』だと思います。新人の『心の内』が分かっていない状態で無闇に研修を推し進めても、効果は期待できません。新人の心の内に分け入ってみると、そこには、自分の入社した会社への夢と不安、ポジティブなものとネガティブなものが渦巻いているはずです。


そもそも、人が働く、特定の会社を選択するとはどういう事なのか、最近の日経電子版の記事【働くなんて「余暇活動」でいい ボーナスは同じ】を読んで考察した結論は次のようなものでした――

……会社で働くことの本来の目的は、人のために役に立つこと、具体的にはUX(ユーザーエクスペリエンス)の最大化であり、そのためには、何よりも働く者自身が、そのモノ・コトが好きで、楽しんで働くことが肝心である……

――人が働くことの本質をこのように捉えるなら、新人の心の内に渦巻くポジティブなものやネガティブなものは全て、『好きなコトで楽しんで働きながら、人のために役に立てるか』という根本的な問いかけに対する『情報の不足』であることが分かります。希望を持って就職したものの、まだ実態は分からない、思い違いだったかも知れない……。新人の一番求めているものは、『情報』であり、その『情報』とは、その会社の真の姿、『社員たちがどのように働いて何を成し遂げているか』という『情報』だと考えられるのです。

新人の心の内をこのように捉えるなら、当然、新人研修は、『社員たちがどのように働いて何を成し遂げているか』という情報を中心に据えたものであるべきです。例えば、過去の具体的なプロジェクトをケーススタディーにした新人研修のプログラムなどが考えられます。このような研修で、実際にプロジェクトに携わったメンバーの体験談などの生々しい情報に触れることで、新人の抱える根本的な問いかけ、『好きなコトで楽しんで働きながら、人のために役に立てるか』という問いかけに対する答えが見い出せれば、新人の意気は大いに上がって、その会社への親近感が醸成され、自ずと定着率は高まるのではないでしょうか。

このように考えるなら、新人研修のあるべき姿は――

(1) 新人研修は『働くことの楽しさ』が分かるものでなくてはならない。

仕事の厳しさを伝えることも大切ですが、まずは、新人の『好きなコトで楽しんで働きながら、人のために役に立てるか』という根本的な問いかけに対して明快な答えを示して、新人の気持ちを盛り上げ、強い意志が育つのを助けてあげる事こそ新人研修の目的だと思います。

(2) 実務研修は後から実施する。

したがって、仕事の厳しさ、対人関係で注意しなくてはならない点など、そして、実務的な研修は、(1)の根本的な研修で新人の士気が上がって、ネガティブな事にも対処できる心の準備が整ってから実施した方が良いし、身にも付くはずです。

(3) 研修は新人と共創するもの。

研修を通して、その実効性が上がるためには、研修が一方通行の『お話』で終わってしまわないよう、常に『リアルさ』、臨場感、現実感が担保されている必要があると思います。そのような研修の『リアルさ』を担保するには、新人が研修に具体的な行動を通して参加して、自由に試行錯誤しながら体験をする、参加体験型の研修が必要ではないでしょうか。つまり、研修とは、会社側と新人とで共創するものなのです。新人が「この研修の体験価値は、自分で作り上げ獲得したものだ」と振り返れたなら、研修は成功だと思います。

 新人研修をこのように捉える事は、企業にとっての『心理資本』という観点からも、きわめて重要だと考えられます。新人研修のあるべき姿を見誤って、新人のやる気を引き出せなかった、などという事があってはなりません。新人研修は『心理資本』を蓄える第一歩なのです。


▶4つの資本
●財務資本Financial Capital・・・いわゆる資本。資本主義社会における投資。
●人的資本Human Capital・・・財務資本を生み出す人の能力。
●社会資本Social Capital・・・人が学習し、その人を支援する場としての、社会的ネットワークにおける人間関係。人的資本を生み出す人間関係。
●心理資本Psychological Capital(PsyCap)・・・変転する環境の中で、ポジティブな心理状態を持続可能とする要素。財務資本・人的資本・社会資本など、全てを生み出す源。個人にとっては、自身の生き方、生きがいに向かって前進するため、自分の能力を最大限に発揮するために必要な心理状態。企業にとっては、競争力を最大化するために、どうやってそのような心理状態を引き出すかという課題。 
▶最後に挙げた、心理資本の、ポジティブな心理状態を持続可能にする要素とは――
●自信・効力感Efficacy
●楽観性Optimism
●希望Hope・・・成功のイメージと、そのための具体的なプロセスのイメージ。
●粘り強さ・再起力Resilience




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