完全リモートワーク~フリーランスと会社勤めのハイブリッド~

 この記事【出社は不要、デキる会社は縛らない】を一読して、先ずは、入社式もオンラインで実施する、そのリモートワークの徹底振りに驚かされました。「入社式は、オフラインだよな……」というのが、正直な第一印象だったのです。

でも、まあ丁度いい機会だからと、リモートワークのメリットとデメリット、実際にリモートワークをしたらどんなストレスがあるのかなど、いろいろと調べてみました。そして、もう一度この記事を読み返していくうちに、あること、つまり、完全リモートワークの本質のようなものが見えてきたのです。

それは、ともすれば完全リモートワークという話題性のある言葉に目が向きがちですが、実は『完全リモートワーク』は手段としてのシステムに過ぎないのであって、『完全リモートワークの体現する働き方』こそがイノベーションだ、ということです。『完全リモートワークシステム』によって実現可能となる、『フリーランスと会社勤めのハイブリッド』的働き方こそが、この記事の教えてくれる本質だと思います。

そのように考えれば、入社式をオンラインでやってしまうのも、あながち不自然なことではありません。そもそも、記事を子細に読めば分かる事ですが、「入社希望者は多いが、信頼関係を構築するまで採用しない。複数回面接をしたり、作品作りを通じてプログラミングのセンスなどを見極めたりして、採用までに半年から1年かける。」とあり、その間に多くの先輩社員とは知り合っていたのかも知れません。とは言え、ソニックガーデンについては詳しく知らないので、あくまで一般論として、以下の考察を進めてみたいと思います。

 まず、ソニックガーデンの事例を参考に、『完全リモートワークシステム』を構成する要素を列挙してみると――

① 本社オフィスはない。② 自由に使えるワークプレイスを全国に数ヵ所設置。③ バーチャルオフィスシステムを採用。 ●チャット・・・雑談・相談 ●掲示板・・・業務報告 ●TV会議・・・取引先などとの打ち合わせ ●一人ひとりが働いている姿を撮影して(数分おきなど)定期的に更新。 ●労働時間はPCのログイン時間で管理。④ 社長方針はスマホで配信(社長ラジオ)。⑤ 皆が平等で、自由な働き方を優先し、管理は最低限に。⑥ 人事考課なし、給与一律、賞与山分け。⑦ 困った時、分からない時は助け合う。⑧ 楽しく居心地の良い環境を重視する。⑨ 採用は時間をかけ、仕事のセンスを見極め、信頼関係が築かれるまで採用しない。⑩ リモートワーク化の過程で発生する課題はITで解決する。⑪ 仕事の割り振りは偏りが出ないようにし、やるべき仕事が終わったら残りの時間は自由に使える。

このような要素が相互作用することによって実現される『働き方』が、倉貫社長の言葉を借りると「利益だけを追い求めたり、急成長して株式公開を目指したりするより、好きなことを楽しく仲間とやったほうがいい」という働き方であり、完全リモートワーク型の組織には、その様な働き方を求める人材が集まっている、とも言えます。

 つまり、完全リモートワーク型組織で働くという事は、仕事の内容それ自体だけでなく、仕事の仕方、働き方にも重きを置いて働く、という事なのです。今後、このように、就職に当たって、仕事の内容と、働き方の両方を必須条件とする傾向、逆に言うと、いろいろな働き方のバージョンを整えて、採用活動を行う傾向はますます強くなっていくと思われます。

そして、この完全リモートワーク型組織の体現している働き方は、フリーランスの働き方の良い所と会社勤めの働き方の良い所をミックスした、自由度と安心度を兼ね備えた、ハイブリッドな働き方だと考えられるのです。

フリーランスには、自由の代償としての、個人事業者としての苦労、確定申告などの手間や、案件、仕事を獲得する苦労が付き物ですが、完全リモートワークであれば、ほぼ管理されない自由な働き方を確保した上で、税や年金、保険などの手間は会社が、仕事の獲得も会社がやってくれる(自身の信用で顧客を獲得する場合ももちろんある)、記事にもあるように相当に自由な働き方です。これは、余計なことに煩わされず、好きな仕事に没頭したい、と言う人には願ってもない働き方ではないでしょうか。

また、このように自由であればこそ、自由さにかまけることのない、本当に仕事好きな、好きな仕事に没頭する人材を確保するため、「採用には気を遣う」というのも頷けるところです。

 このような完全リモートワークのスキームは、企業にとっては、優秀な人材をもたらし、人的資本Human Capitalを豊かにするものであり、そこで働く者にとっては、自身の能力を最大限発揮するための、社会資本Social Capitalと心理資本Psychological Capitalをもたらします。

●財務資本Financial Capital・・・いわゆる資本。資本主義社会における投資。●人的資本Human Capital・・・財務資本を生み出す人の能力。●社会資本Social Capital・・・人が学習し、その人を支援する場としての、社会的ネットワークにおける人間関係。人的資本を生み出す人間関係。●心理資本Psychological Capital(PsyCap)・・・変転する環境の中で、ポジティブな心理状態を持続可能とする要素。財務資本・人的資本・社会資本など、全てを生み出す源。個人にとっては、自身の生き方、生きがいに向かって前進するため、自分の能力を最大限に発揮するために必要な心理状態。企業にとっては、競争力を最大化するために、どうやってそのような心理状態を引き出すかという課題。

 『完全リモートワーク』の体現する働き方は、フリーランスに憧れながらも踏み切れずにいる人にとって、一つの解を示していると言えるでしょう。逆に、企業にとっては、先に掲げた『完全リモートワークシステム』を構成する諸要素をいろいろにアレンジすることによって、リモートワークを軸とした多彩な働き方のバリエーションをデザインすることが出来そうです。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31358100U8A600C1X11000/

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