企業化とは一線を画す個店の魅力

 この記事【メニュー3品だけで大繁盛 光る個店の作り方】は、企業化した飲食店にはない個店の魅力、馴染み客にとっての街角の隠れ家のようなホッと一息つける個店の本質に迫っています。

記事では、その本質を語るのに、「電子メールよりも手書きの手紙をもらった方が感動するでしょ。それと一緒だよね」という表現が使われています。徹底したアナログ的経営、『人間性』・『個性』といったキーワードが頭に浮かんできます。

 いい機会なので、この記事や、自分が過去に通ったことのある個店の印象などを思い起こしながら、『個店の本質』というものを考えてみました――

▶個店の本質とは何だろうか?

(1)『店主・店スタッフとお客の人間関係』~他人でなく知人である~

企業型飲食店と個店の違いの最大のものの一つは、店主(店長)・店スタッフとお客との人間関係が、単なる売る人と買う人という域を超えて、程度の差こそあれより濃い人間関係、『知人』同士へと育っていく事ではないでしょうか。作る側と食べる側という違いはあっても、お互いに知人同士、もっと言えば地域(近所)の仲間同士であるという事は、そこに、お店を核とした『コミュニティ』の存在を感じさせます。

 そこから、個店のサービスには、『商売だけではない』人間関係に根差した『ぬくもり』が生まれてくるのだと思われます。

(2)『サービス』~流儀はあってもマニュアルはない~

個店における店側とお客の人間関係は『知人』に近いものとなりますから、そこに杓子定規なマニュアルが介在してはむしろ滑稽です。マニュアルの必要性がない、と言った方が正しく、店主・店スタッフは、「自分の店をこんな店にしたい」という純粋な流儀に従ってサービス、接客や料理を提供することになります。

 つまり、マニュアル経営に最も不足していると言われる『臨機応変』の対応こそが、一人ひとりのお客に寄り添ったきめ細やかな対応こそが、個店のサービスの本質だと思われます。個店においては、店主・店スタッフの心遣いがダイレクトに表現されるのです。逆に言うと、お客は、そんな店の流儀に惚れ込んで、お店の流儀が居心地よくてお店に通うのではないでしょうか。

(3)『経営』~効率ではなく手間をかける~

流儀はあってもマニュアルはない個店のいい所は、お客に喜んでもらうための自由度が極めて高いことです。調理一つとっても、一人ひとりのお客の好みに合った味付けにアレンジしたり、場合によっては、メニューにない料理のリクエストにだって応じることが出来ます。そんなお客とのコラボレーションの中から、裏メニュー、新たな人気メニューが生まれるかも知れません。

 個店の経営ほど顧客接点が濃密で、課題も含めた気付きの多い業態はないのではないでしょうか。少なくともネットには無理で、個店という存在はリアルの中のリアルだ、と言って良さそうです。個店の経営にも無論、無駄遣いをしないといった『効率』はあるでしょうが、最も重要なことは、『手間を惜しまず』お客の喜びを追求する姿勢だと思います。

その象徴が、個店の人気料理ではないでしょうか。そのお店の人気料理はお店の歴史であり、本物の『自家製』・『手作り』の風格があると思います。何故なら、その料理を『考案し』、『磨き上げ』、今日も作ってくれた人が、目の前にいる『知人』だからです。

 個店とは、お客との人間関係を大切にし、店主が「こんな店にしたい」という流儀を手間を惜しまず追求した姿だと思います。個店が地域に根差して静かに育っていく、個店の成長には、いつの時代にもお客を引き付ける抜群の魅力がありそうです。その成長は、例外はあるにしても規模の拡大を前提にしたものではありませんが、記事の事例のように、そのお店で育ったスタッフが独立して新しく個性的なお店が誕生するなどして、企業型の飲食店にはないポテンシャルを秘めた個店、その全体としてのシェアは伸びていくかも知れません。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34743370Z20C18A8000000/

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