イノベーションのエンジン~『VRIO分析』と『オーバーエクステンション戦略』~
日経電子版の記事には、個別の企業に関する情報はもちろんですが、それを越えて、広く応用の利く経営や経済の学びを与えてくれるものが少なくありません。【ソニーの「背伸び戦略」 画像センサーでライバル圧倒】などは、さしずめその好例ではないでしょうか。
記事では、5Gを見据えたソニーが、スマートフォンなどで使うCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーの新工場を建設する件に触れ、これを『VRIO分析』と『オーバーエクステンション戦略』の観点から解説しています。個別の企業についてはさておき、この2つの観点は、企業の持つリソースの強みを評価することで、投資判断の指標として、また、イノベーションのポテンシャルの物差しとしてなど、様々な場面で使えるツールとなりそうです。
はじめに、『VRIO分析』については、詳細は記事に譲るとして、下記の4項目を通して組織のリソースを確認する、と述べられます。
▶『VRIO分析』
① 経済価値(Value)・・・マージン・シェア・コストなど
② 希少性(Rarity)・・・社内で独自に蓄積された稀少性の高いノウハウ
③ 模倣困難性(Imitability)・・・ノウハウのブラックボックス化など
④ 組織(Organization)・・・ハードウェア設計⇔プロセス設計⇔生産現場
間でのすり合わせ、など
――確かに、企業の持つ技術リソースなどに①『経済価値』があることは最低条件に過ぎず、そのリソースに②『稀少性』がないと差別化には繋がりません。さらに、②『稀少性』があっても、すぐに真似されてしまうようではたちまち優位性が崩れてしまうのであって、③『模倣困難性』が重要です。そして、ここが肝心と思われるのが、そのようなリソースを進化(カイゼン・ブラッシュアップ・ブレークスルーなど)させ続けなくてはならない④『組織』の体制が健全・適切であることなのです。
次の『オーバーエクステンション戦略』については、①あえて組織能力の限界を一部オーバーするような挑戦的な目標を掲げることで⇨②組織に緊張をもたらし⇨③なすべきコトの見える化⇨④努力の原動力⇨⑤学習による新たな経営リソースの蓄積へと繋げていく戦略です。
▶『オーバーエクステンション戦略』
① 組織能力の限界を一部オーバーするような挑戦的な目標
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② 組織に創造的な緊張感
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③ 課題の見える化
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④ 努力のベクトル化(方向性が定まり原動力となる)
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⑤ 学習(=努力の過程)による新たな経営リソースの獲得
――確かに、企業の開示する情報、発表される中長期計画などに、この『オーバーエクステンション戦略』が読み取れるかどうかという視点は、その企業の活力、成長のポテンシャルを推し測る上で非常に重要な事であると考えられます。
これら2つの観点、『VRIO分析』と『オーバーエクステンション戦略』は、例えば『コト消費の時代の商品開発』を考察するような際にも有効ではないでしょうか。
そもそも、消費者・ユーザー一人ひとりが各々の体験価値を追求するコト消費の時代に、細分化されるスモールマスな市場を見極め、消費者・ユーザーのインサイトに肉薄したイノベーティブなプロダクトを作ろうとすれば、①プロダクトの入口である消費者のインサイトと、出口であるフィードバックにおいて、消費者との密接な関係性のあるコ・クリエーションのエコシステムを構築して、②スピーディーな決裁プロセスのもと、③アジャイルな手法で開発を推し進める必要がある、と考えられます。
その際、この『イノベーション=コ・クリエーション+スピーディーな決裁プロセス+アジャイル開発』というフレーム(枠組み)に実際に血肉を通わせ、実効性のあるものとするには、『VRIO分析』と『オーバーエクステンション戦略』の視点からの検討が有効となりそうです。