AI時代のファッション

 インタビュー記事が好きで思わず読み始めた『「天才なら1億円でいいよ」 ゾゾ前沢社長の最終判断』、とても中身が濃いです。インタビューを受けたスタートトゥデイテクノロジーズの金山裕樹氏の言葉には、太い根っこがあって、深くまで伸びている、といった印象でした。あの強烈なインパクトのあったステートメント『7人の天才と50人の逸材』の真意が、素材からAIまで間口の広い多岐にわたる技術にしっかり投資することによって、テクノロジードリブンな新規事業を創造し、ファッション業界にイノベーションを起こすのだという事が、熱っぽくもあり、しかも冷静な語り口で披露されます。そこには、広く知れ渡った『7人の天才と50人の逸材』に応募してきた人材が実際に入社したらどんな気持ちがするのか、事前の配慮を怠らない繊細さから始まって、「車輪の再発明をしない」、「別会社」意識、決済・アクションが後手に回る『確認しますね』現象等々、身につまされるような話が数多く出てきます。

そんな記事の中で一番印象に残ったのは、後半部に出てくる「人間が身につけ続けるものだからこそ、もっとイノベーションがあっていいと思います」という言葉でした。漠然とファッションは第4次産業革命の潮流とは直接関係ない、だってファッションだから、という私の大きな勘違いがこの一節で見事に粉砕され、目から鱗が落ちたのでした。私は、ファッションを第4次産業革命の文脈の中で捉え直してみようと思い立ちました。

 そもそも、第4次産業革命とは、IoTとそれを制御するAIを活用することによって、コモディティ化するモノにサービスをセットして供給する、『コトづくり』が産業のあり方となる時代、製造業のサービス化が進行する時代です。この文脈にファッションというものを置くと、どうなるか?

直ちに気付くのは、ファッションほど一種のコモディティ化を繰り返すモノはない、という事です。

【デザイナー】⇒コレクション⇒トレンド⇒⇒⇒【ユーザー】              ⇓             ブーム⇒⇒⇒【ユーザー】              ⇓           コモディティ化⇒⇒【ユーザー】

モノの流れは、デザイナーからユーザーへと一方的なプロダクトアウトで、ユーザーは、昔のトレンドの中から自分の好みに近いファッションを選ぶか、ブームになっている流行のファッションを選ぶか、全く気にせずコモディティ化したファッションを選ぶか、与えられた選択肢の中からチョイスすることはできても、それが彼、彼女のUX(ユーザー・エクスペリエンス)を最大限満足させている保証はありません。そして、通常の業界における場合とは違って、ファッションのコモディティ化は、ファッション業界自身の積極的な施策であり、流行のサイクルが業績を作っている面は否めません。モノ自体の耐用期限よりはるかに短いサイクルでトレンド・ブームが作られ、UXとは無関係にユーザーの前に提示され続けます(もちろん例外あり)。

 それでは、ファッションのUXを最大化したものとは何なのか?――単純明快に『着たいなと思うモノを着ること』だと思います。現状、ユーザーは、『着たいなと思うモノ』を求めてショップに足を運び(ネットも)、それに最も近いモノで妥協しているのではなかろうか。

だとすれば、UXを最大化するには、まず、『着たいなと思うモノ』=ユーザーのセンスを見える化することです。ユーザーが好みの細目、つまり要求をインプットすれば(サイズはIoTで計測)、クラウド上のAIによるコンピュテーショナルデザインのようなもので 縫製案を生成できるようなアプリがあればベストでしょう。ユーザーは、いくつも生成される縫製案を比較検討し、アプリに再検討させるなどして最適案をチョイスします。その過程で、ユーザーのセンスは磨かれ、明確になり、ユーザーの着たいモノ、センスが見える化されます。

 問題は、この『ファッション・センス・アプリ』を使って、どのようなビジネスモデルを構築するのかです。ユーザーが商品のデザインに関与するコ・クリエーション(価値共創)型のビジネスモデルは、コスト的・価格的な折り合いがつけば、広く需要を喚起出来そうです。例えば、ユーザ一人ひとりのリクエストに自動で対応して商品を作れる縫製ロボットなどですが、いきなりは難しそうです。最初は、アプリ・ユーザーのアイデアの中からコンテストで選抜したデザインを商品化するのか……理想は、100%のカスタマイズ化、オーダーメイドなのですが……。ここまで考えてきて、私は、一つの結論に到達しました――

 第4次産業革命の時代のファッションとは、IoTとAIを活用して、ユーザーの思い描いた通りのファッションを提供するサービスである。ユーザーにとってのファッションは、モノというよりサービスそのもの、自分のセンスを具現化してくれる体験なのだ。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29881850W8A420C1000000/

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