『クローン分社』で大企業病を回避する
この記事【こだわりカツ丼、誕生の秘密 現場の提案に金一封】は、お客様の支持を得て店舗数を増やしていく企業が、どうやったら起業当初の初々しさ、お客様に直に向き合う真摯な現場主義を失わずに、健全な成長を持続できるのか、一つの斬新な解を示していると思います。
一般に、店舗数が増えていくと、それを管理運営するために中間管理職が増殖し、本部組織が肥大化していくと考えられます。その結果起こる一番困った現象は、記事にも「そうなると、社長の指示がきちんと現場の隅々まで伝わらなくなります」とあるように、経営と現場の密接なコミュニケーションが寸断されて、経営の意思が末端まで伝わらず曖昧になってしまい、また、現場の課題が上に伝わらず埋もれてしまう事ではないでしょうか。
そもそも、企業の直面する課題とは、即ちお客様と直結した現場課題であり、企業が成長する新しいアイデアの種もそこに潜んでいます。経営と現場が一体となって、迅速に課題を吸い上げ、アイデアを商品化・事業化していく意思決定のスピードの速さが決定的に重要です。にもかかわらず、本部組織が肥大化すると――
▶肥大化した本部組織の弊害=大企業病①『コミュニケーションの寸断』・・・経営と現場が乖離して、密接なコミュニケーションが寸断される。経営と現場の一体感が失われる。②『現場課題の棚上げ』・・・現場課題が埋もれてしまい、経営が現場課題を正しく把握できない。課題の深刻さが伝わらず、課題を共有できない。棚上げになってしまう。ひどくなると、現場に諦めムードが蔓延する。③『経営方針の形骸化』・・・経営方針がぼやけてしまい、現場が経営方針を肌で感じ取れない。方針の熱量が伝わらず、方針を共有できない。形骸化してしまう。ひどくなると、現場を無視した間違った方針が連発されるようになる。④『成長の鈍化・衰退』・・・企業としての意思決定のスピードが遅くなり、成長が鈍化していく。やがて、現場課題が解決されず、斬新なアイデアが浮上してイノベーションが起きるようなこともなくなり、衰退が始まる。
増えていく店舗を管理する本部組織は、ともすれば肥大化し、また、その弊害も無視できなくなってきます。そのような大企業病を回避する手段としては、一つにはIT化、AIの導入などが考えられますが、この記事の事例は、もっと抜本的で、あくまで少人数の超フラット組織にこだわった、「独特な仕組み」です。例えるなら、企業としてのDNAが同じなクローン企業を、店舗数の拡大に応じて作っていく、『クローン分社』とでも呼べるものです。
いくら分社しても、がんじがらめに本社に縛られていては、肥大化した本部組織と何ら変わりありませんが、『クローン分社』では、一つ一つの分社が、①独立して独自性を持って互いに競争しており、しかも、②徹底したフラット組織で現場主義が貫かれ、メニューの多様性や新陳代謝が持続可能となっているのです――
▶『クローン分社』の特徴①『同じ事業内容』・・・新店開発から店舗運営まで、独立採算で手掛ける。②『基本メニューと独自メニュー』・・・基本メニューは同じだが、独自メニューが認められている。③『担当エリア設定せず』(都内にしか店舗がなかった当時)・・・競争を促すため。④『超フラット組織』・・・現場主義の徹底。
企業が大企業化すると、ともすれば、寄らば大樹の陰になってしまったり、いつの間にか自分の所属する部署のために仕事をしていたりするかも知れません。そんな中、『クローン分社』という稀有なケーススタディーは、顧客に直結する現場を最重視し、経営と現場が一体となった迅速な意思決定で変化対応し続ける、大企業病とは無縁な企業の一つのあり方を提示していると思います。
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