愛嬌のあるカルガモ
ペットの魅力は、何と言ってもその愛らしさ、『愛嬌』のある点にあるのだろうが、『愛嬌』のあるなしは何もペットに限ったことではない。自然の生き物、野生動物にも『愛嬌』がある。ペットに見られるような明らかなネオテニー(幼形成熟)こそないかも知れないが、その姿、振る舞いに『愛嬌』を感じることは多々ある。
本稿冒頭に掲げたのは、そんな一例、私が自然の撮影によく訪れる白金台の国立科学博物館附属自然教育園で11月12日に撮影したカルガモだ。カルガモはオス・メスほとんど同色なので定かではないが、さながら、つぶらな黒い瞳の見返り美人、といった趣ではないか。
写真を見て気付いた方もおられるだろうが、このカルガモ、鳥類に特有の行動、片足立ちをしている。我々人間も体を休める時体重を片方の足の方にかけたりするが、この場合はそれよりも寒さ対策、冷たさ対策であると思われる。鳥の脚には羽が生えてないので、そこから体温が逃げ出さないように片脚を羽の中にうずめ、くるむのだ。そのことは、この日観察できた次の一連の写真を見ればよく分かる――
逆に休息を終えて行動開始という時は――
この時よく見えるのが次列風切羽の美しい青紫色で、これがないとカルガモの写真は成立しない、と言っても過言ではない。
そして、今回、最後に紹介するのは羽繕いの様子だ。これがまた愛嬌がある――
カルガモは、かつて大手町の三井物産ビルのプラザ池から皇居のお堀へと移動する、所謂「カルガモのお引越し」でも話題になった、昔から日本人にはなじみ深い、渡りをしない留鳥(ただし本州以南)だ。その名の由来は、古く万葉集にも歌われた「軽ケ池」にあるともいわれる。
野生の生き物の撮影の醍醐味には、熾烈な生存競争、食物連鎖の一場面もあるが、その『愛嬌』にも何かほっとする楽しさがある。今回の撮影は、3メートル足らずの至近距離から撮影できたのでうまくいったのだが、なかなかそのようなシャッターチャンスは巡ってこない。これからもこまめに自然教育園に通うとしよう。
これが科学的な研究であれば、動物の行動、表情を擬人化して捉えることには慎重になる必要があるのかも知れないが、日常にあっては、生き物の行動を人になぞらえてあれこれと想像を膨らましても構わないだろう……
【以上、『随想自然』第24話】
(インスタグラムhttps://www.instagram.com/angelwingsessay2015/で、主に東京都心で見れる自然の写真を紹介しています。)