サンドバッグとカットフルーツとハンモック
6/5の記事【グローバル化の将来は】に、ジュネーブ国際高等問題研究所のリチャード・ボールドウィン教授が、グローバル化の進展について述べているくだりがあります。そこで描かれる、第1次に始まり第3次に至るグローバル化の説明は極めて明快で、示唆に富んだものでした。
●第1次グローバル化・・・モノが移動するコストの低下・・・1820年頃~蒸気機関の普及●第2次グローバル化・・・アイデアが移動するコストの低下・・・1990年頃~情報通信技術革命の進展●第3次グローバル化・・・人が移動するコストの低下・・・2016年頃~遠隔操作によるバーチャルな人の移動
グローバル化は、移動コストの低下とともに進展し、その時々の技術によって、まずモノが、次にアイデアが、そして人のバーチャルな移動が拡がっていくとするものです。
遠隔操作やネット上でできる仕事、特にIT企業などにあっては、この特質を生かした『働き方』をいかに提案していくかが、優秀な人材を引き寄せ、生産性を向上させる、働く人と企業の双方にとってWin-Winの関係を築き上げるための試金石となってきています。そのことを、グローバル化という外向きの世界ではなく、地方再生という国内の問題として捉えたのが、今回の「働き方探検隊」の記事【仕事はゲレンデで、リラックスが人呼ぶ】です。
企業の提案する『働き方』が、変化する環境の中でポジティブな心理状態を持続可能とする『心理資本』に大きな影響を与えることは想像に難くありません。『心理資本』は、個人にとっては、自身の生き方、生きがいに向かって前進するため、自分の能力を最大限に発揮するために必要な心理状態であり、企業にとっては、競争力を最大化するために、どうやってそのような心理状態を引き出すかという課題です。この重要な課題を前進させる一つの手段が『働き方』なのです。
「働き方探検隊」の6/5の記事【出社は不要、デキる会社は縛らない】では、『完全リモートワーク』のシステムによって実現可能となる、『フリーランスと会社勤めのハイブリッド』的働き方が紹介されており、そこでのキーワードは『自由』と『平等』でした(その記事と私の感想を末尾に添付しておきます)。それに対して、今回の記事で紹介される事例は、同じように相当程度自由度の高い『働き方』ですが、キーワードは『集中のためのリラックスとリフレッシュ』、そして『地元資産活用』です。リラックスとリフレッシュのための数々の仕掛けの中で、地元の資産を有効活用したものが大きな位置を占めています。前回の事例が卓越した『システム』だったとするなら、今回の事例は、システムというよりは、働く者への『気配り』そのものと言えそうです。記事から拾えるだけでも――
【集中のためのリラックスとリフレッシュの仕掛け】●「スキーリゾートオフィス」・・・来客がなく静かで、リラックスして集中できる。社員は誰でも利用でき、締め切り間際で集中したい時などに最適。●「温泉地のオフィス」・・・思う存分議論した後など、温泉でリフレッシュ。●「アイスを食べながらなど、リラックスした意見交換の場」・・・アルバイトも参加。●「本社のハンモック」・・・根を詰めて集中力が欠けてきたと感じたら、15分ほどの昼寝で頭と体をリフレッシュ。昼寝や散歩はいつでもOK。●「出退勤時間は社員に裁量」・・・1日の業務時間をオーバーした次の日などに。●「フリービタミン」・・・地元農家から購入して社員に無料で提供するカットフルーツ。朝食を食べてこない若い社員の脳の活性化などに。●「サンドバッグ」・・・社長のイラストをはったサンドバッグで社員がストレスを解消する遊び心。●「プログラマーにとってキーボードやマウスは侍の刀のようなもの」・・・どれだけ高価でも社員の使いたいものを提供。
これらの仕掛けは、まさに働く者のポジティブな心理状態を持続可能とする仕掛けであり、このような『働きやすさ』と地方の職住接近が可能にする『充実のオフ』が、優秀な人材を引き寄せ、企業にとっては生産性の向上を生み出すという、文字通り『働き方改革』のケーススタディとなっています。
▶ビジネスパーソンの仕事満足度=仕事の内容+給料+働き方+充実したオフを送れるか
ビジネスパーソンが仕事のどこに満足を感じるか、内容か給料か働き方かは、当然人によって違ってくるでしょうが、上に挙げた『ビジネスパーソンの仕事満足度方程式』の全項目をバランスよく満たしたいと感じる若い人、いや、若い人に限らずビジネスパーソンは、今後ますます増えてくると考えられます。そんな時代に、バーチャルな人の移動が可能な、遠隔操作やネット上でできる仕事、特にIT企業が地方に本拠を構えることは、一つの有力な答えのように思えます。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31546730Y8A600C1X13000/
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO31338680U8A600C1TCR000/
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31358100U8A600C1X11000/
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