愛に乱暴
初瀬(はせ)桃子(江口のりこ)は夫の真守(小泉孝太郎)と彼の実家の敷地内にある離れに二人で暮らしていた。母屋には義母である照子(風吹ジュン)が住んでいた。夫とのすれちがい、義母から受ける魚の骨のようなストレス、カラスによって散らかったゴミ捨て場、そして、いなくなったぴーちゃん。そんな彼女に追い討ちをかけるように真守が不倫を告白(しかも愛人は妊娠している!)し、生きがいだった手作り石鹸教室も終了となる。実家にも居場所がない彼女の行動は常軌を逸しはじめる。
桃子と真守・照子の間にはある一線が引かれている。それは血のライン。真守と照子は親子であり、血のつながりはあるが、桃子と真守・桃子と照子の間にそれはない。夫婦といえども他人である。義理の親子なら尚更だ。実家にも戻れず、桃子は血のラインから締め出されてしまう。そして彼女は狂気のラインをも飛び越える。
ラストで見せる桃子のすがすがしい顔は、血のラインからは外れたが、彼女の人生が別のライン内に入り始めたことを意味する。あるラインから外れたら、別のラインに入ればいいし、ラインがなければ、自分でラインを引けばいい。
野球では一塁線と三塁線の間に打球が飛べば、ヒットになるかもしれない。だが、人生には一塁線も三塁線もない。自分で決めたライン内に打球を飛ばせばいい。野球と違って3回アウト(失敗)になったからってチェンジにはならないのだから。
江口のりこのリミッターを振り切った演技が凄まじい。世界で一番チェーンソーが似合う女優である。彼女のエポックメイキングとなる作品である。