3月17日(日)ツルノヒトコエ vol.3(鈴座 Lisa Cafe)
つる子 味噌豆
高座に上がるなりいきなり感極まって涙をこぼす泣き虫つる子さん。鈴座 Lisa Cafeでの二ツ目時代最後の独演会である。はじめて覚えた一席を披露する。
「隣の空き地に囲いができたってねえ」
「へえ」
つる子さんはこの他たくさんの小咄を師匠・林家正蔵に教えてもらったと言う。
本題の『味噌豆』はつる子さんの横浜にぎわい座における初高座でかけられた。寄席の初席など持ち時間が短い時にかけられるネタだ。
味噌豆の香りの誘惑につる子さんの表情がとろける。それを見た私もとろける。
つる子 やかん
つる子さんがよくかける鉄板ネタ。無学な八五郎と学がある風を装うご隠居の会話をリズミカルに描く。
後半にはニセ講釈が入る。つる子さん、講談師としてもイケたんじゃないか? というくらいの堂々たるニセ講釈だ。さぞかし膝が痛かったろう。
ー仲入りー
つる子 子別れ 〜お徳〜
大工の熊五郎が吉原から帰って来て、女房のお徳とひと悶着ある。お徳と息子の亀が出ていき、熊は吉原の遊女を後添いとして引き入れる。ここまでをつる子さん、ダイジェストで語る。
熊五郎のもとを去ったお徳と亀はとある長屋でつましく暮らしていた。亀が友達と遊んでいる「お湯屋ごっこ」や「花魁ごっこ」の話をきいて笑い合ったりする貧しいが楽しい日々。だが、嫌な事もある。亀が小林さんの倅からケガをさせられたが、親から内職の仕事を貰っている手前、怒鳴り込むこともできない。屈辱に耐えるのみ。ある日、亀が五十銭を持って帰ってくる。聞いても「知らないおじさんにもらった」と答える。不審に思った母が問い詰めてもはぐらかす。しびれを切らした彼女は熊五郎の道具箱から持ち出した玄翁を振り上げる。
私は林家つる子の涙に弱い。玄翁を片手に問い詰めるお徳に亀は泣きながら抗弁するが、つる子さん自身も泣くのだ。その清らかな涙を見ると私の心は千々に乱れる。彼女がただ落語を演じているのではなく、熊五郎やお徳や亀の人生を「生きている」事の証明だ。
鰻屋の前で逡巡するお徳を呼び止める魚屋の女房が面白い。別れた亭主を「許さなくていい」と言う。このアドヴァイスは後に生かされる。このおばあさんの亭主は若き日に芝の浜で財布を拾ったらしい。この噺はいつかまたの機会に聴けるであろう。
終演後、席亭からつる子さんに花束が贈られた。そして、全員につる子さんの地元・群馬の地酒が配られ、乾杯。賑々しくお開きとなった。