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モーニング・ムーンは粗雑に

 ツギ(斉藤淳之介)は眠れぬ一夜を過ごした。アメリカ産の自動車・ダッチの納車日だからだ。ディーラーにカネを払い、スタジオへ向かう。スタジオではミオ(高樹澪)がキーボードを弾きながらサザンオールスターズの「恋の女のストーリー」を歌っていた。ミオにとっても特別な日。成田空港に妻子ある恋人が到着するのだから。

 この映画は落ち着きのないツギ(発達障害かもしれない)が「童貞卒業」までを描いたある1日の記録である。だから、冒頭と終盤で(男にとっての)「ハウ・トゥー・セックス」のような演出がある。

 この映画における人間関係は結構複雑である。ツギは横浜のバー『スターダスト』のママ・栞(范文雀)に憧れている。だが、栞にはバーのオーナー・草壁(渡瀬恒彦)というオトコがいた。その草壁の前でツギは堂々と栞とデートに出かけるのだ。ツギと栞が店を出た時にかかるはサザンオールスターズ「栞のテーマ」。しかもCD版とは歌詞が違う。この名曲の「栞」はこの映画の登場人物のテーマソングだったのだ。

 ツギはこの後、栞をダッチに乗せて横浜の港でたった1台のゼロヨン競争をする。だが、ふとしたきっかけで、クルマはスリップ、横転してしまう。二人は迎えに来たミオに助けられる。栞は何処かへと去ってゆく。

 その晩、ツギとミオはバンドホテルに泊まり、結ばれる。タナトス(死への衝動)の後のエロス(性衝動)。死とセックスは映画や小説などでたびたびテーマになる。二人のベッドシーンにおいてはサザンオールスターズの未発表曲が使われている。

 別れの朝、ホテルの前で二人は月を見る。夜の月は暗い夜を照らしてくれるが、朝の月(モーニング・ムーン)は役に立たない。幻想のようである。副業としてバッタモンを商っていた草壁は言った。

 幻想にホンモノもニセモノもない。

 青春もまた、幻想なのではないか?青春にもホンモノもニセモノもない。

 私は明日、モーニング・ムーンを見るだろうか?

(1981年 日本映画)


 

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