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52ヘルツのクジラたち

 あるクジラは52ヘルツの周波数で鳴く。その声は他のクジラには届かない。

 三島貴瑚(杉咲花)は少なくとも二人の人間に必要とされていた。それもかなり切実に。
 ひとりは彼女の母・由紀(真飛聖)。もう一人ははじめての恋人・新名主税(宮沢氷魚)。
 由紀は貴瑚が幼い頃、義理の父に虐待されるのを放置していたばかりか、自らも娘に暴力を振るっていた。だがその後決まって母は娘を抱きしめ、「愛している」と言うのだった。
 新名は貴瑚の勤め先の上司であった。ある事がきっかけとなり、二人は親密になる。だが、のちに新名は別の女と婚約してしまう。婚約者がいながら貴瑚との関係を続けている事をバラした怪文書が会社に届いてから、新名は貴瑚に暴力をふるい始める。

 母も恋人も貴瑚に「愛している」と言い、彼女を「必要」としていた。だがその愛し方は貴瑚にとっては全
く不適切で迷惑なものでしかなかった。彼らの「愛」は自らの欲望・価値観・支配欲を彼女に押し付けているだけであった。

 塾講師の岡田安吾(志尊淳)は貴瑚にこう言う。

 家族が「呪い」になる事があるんだよ。

 
愛は人を支配し、絆は人を縛り、家族は人を呪う。
 愛だの絆だの家族だのから自由になるにはどうすればいいのか? 世捨て人になるしかないのか?
 杉咲花の演技には打ちのめされた。志尊淳は難役を見事に演じ切った。

 

 


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