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せかいのおきく@シネ·リーブル池袋

 世の中には「見たいもの」と「見たくないもの」がある。だが、かつては「見たくないもの」が可視化されていた。「便利さ」の陰に隠れて今では見ずに済んでいるものが、昔は見えていた。
 家々や長屋を回って、便所から糞尿を汲み取り、それを農家に売る。それを生業にしている矢亮(池松壮亮)と紙屑屋の中次(寛一郎)が雨宿りしていると、とある寺で読み書きの師匠をしているおきく(黒木華)がやってくる。やがて、中次も汚穢屋となり、おきくの住む長屋に頻繁に来るようになる。
 ある陰惨な事件から声を失ったおきくと学がないがゆえに文字を知らない中次は次第に惹かれあってゆく。手話がない時代に身振り手振りで愛を伝えるおきくに、その必要がないのに身振り手振りで応える中次。やがて二人は抱き合い、愛を伝え合う。
 後に中次は寺に通い、おきくから文字を習い出す。それはまさに「せかい」を獲得する事であった。


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