テクノロジーの流れ(47)

私たちの産業は新しいテクノロジー(コンセプト、製品、サービス)が出現することで有名ですが、その栄枯盛衰でも有名です。
注目されながらも陽の目を見なかったり、あまり注目されていないのにいつの間にかみんなが使うテクノロジーになっていたり、勢いがあってもM&Aされたとたんに勢いがなくなったり、見通しが暗いと思われているテクノロジーが何10年も使われていたり、と個別テクノロジー(コンセプト、製品、サービス)に着目して先を見通すのは極めて困難です。IT業界の百科事典とも言える、ガートナーさんのハイプサイクル(個別テクノロジーの登場からメインストリームに至るイノベーションの成熟度、妥当性、採用率を図示したもの)はその登場プレイヤーの位置が頻繁に変わるのはもちろん、新興分野ではハイプサイクルの枚数自体が増減します。(これは個別テクノロジーの定義が変わるということです)

長期トレンド

その中でも比較的安定していると感じているのが10年くらいの長期トレンドです。例えば、この10年で言えば、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、データ分析・AIは後半に普及したテクノロジー分野です。おそらく、IT産業にいる方やIT産業に興味を持っている方であれば、10年前、これらのテクノロジー分野が勃興することは、皆さん予測されていたと思います。このようにみんなが同じように長期トレンドを見ていたとしても、うまく波に取れる人・会社があれば、乗り損なうこともあります。その原因は、長期トレンドがわかっていながらも、実際の普及は短期的で個別のテクノロジーの取り組みの結果となるからであり、個別テクノロジーのどれが波に乗るのか、いつその波がくるのかを見極めることが難しく、これがそのまま投資判断の難しさにつながっています。 

人材育成への影響

ITエンジニアは、個別のテクノロジーのスキルが要求される局面も多く、適切なタイミングで適切なサービスを提供するための人材育成は簡単ではありません。
伝統的に、この産業における人材育成は個別テクノロジーとITエンジニアリングの2つが大きな柱です。ITエンジニアリングとは、ITプロジェクトの企画、計画、要件定義、設計、開発、テストというITプロジェクトの目的を達成するための工程の知識・スキルで、方法論・メソドロジーとも呼称されます。20年前は、個別テクノロジーも今ほど短期ではなく、テクノロジーについての知識の蓄積は今よりも有効性が格段に高い状態でした。当時、技術の安定したテクノロジーは「枯れたテクノロジー」と表現されました。不具合は切っても切ってもあとから生えてくる新葉として比喩されていて、新葉(不具合)が出ないのは枯れたからだ、という意味です。多くのエンジニアが長く使うことで、不具合が解消され、または不具合を回避するようなノウハウが確立できている状況を言います。
最近の個別テクノロジーはネット上で多くのエンジニアが触れることと、そのフィードバックを得る仕組みを積極的に活用することで、以前と比較するととても早く枯れます。その分、バージョアンアップも早くなり、また、他の個別テクノロジーとも激しく競合するため、安定バージョン(枯れたテクノロジー)の重要性は以前より下がっています。
このような状況下でテクノロジーのスキル習得はメタスキルに注目しています。一般的に、個別テクノロジーの習得とは、そのテクノロジー仕様の理解と実践を通じて行われますが、メタスキルは個別テクノロジーの習得方法自体をスキルとして習得することを指しています。つまり、個別テクノロジーの仕様や実践に特化することなく、複数の個別テクノロジーに適用可能な考え方、仕様、習得方法を身に着けることこそが重要で効果的であり、人材育成ではここに力点を置きたいと考えています。

超長期トレンド

50年、30年という超長期でトレンドを見ると、コンピューターのテクノロジーは、以下のように進化しています。
1 高性能化(大容量化、高速化)
2 価格低下
3 人間化
1、2はイメージが容易です。3は「人にとってとっつきやすくなる」ということです。プログラミング構文を見てみると、コンピューターの出現当初はコンピューターが理解できる機械語(言葉というよりも、0と1で表現された命令セットとデータ)を人間(主に研究者)が習得する必要があり、次に命令セットを記号化したアセンブラが生まれ、その後、自然言語(英語)に近い、C、Fortlan、Basicなどが普及し、複雑なプログラム間の連携がとりやすいオブジェクト指向言語のJavaなどが登場しました。
また、毎回使う機能は汎用的なものとしてOSとして提供され、次いでDBMS、通信、プログラムの実行環境などが提供されました。その後は、それぞれが進化を続けており、超長期で見ると同じ処理をコンピューターにさせるために必要なエンジニアの手間は削減され続けています。高性能化と製品価格の低下と相まって、IT産業内部はもちろん、様々な産業に適用されることで全産業の生産性向上を下支えしています。
という流れを考えると、ITエンジニアが最も長く使えるであろうスキルはコンピューターの個別テクノロジーではなく、テクノロジーのメタスキル、更には、コンピューターを業務に適用する時に必要な業務の理解、データモデルの理解と、それを含むITエンジニアリングスキルだと考えています。

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