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デング熱とポテトチップス

デング熱を患ってしまい1週間ほど、地獄の日々を過ごしていた。

デング熱は、熱帯地域特有の風土病である。デングウィルスを持つ蚊に刺されることによって発症する。

40度ちかい高熱と、頭がわれそうになる頭痛、そして、骨がひんまがりそうな関節痛が容赦なく襲いかかってくる。

あとで、デング熱のニックネームが、Break bone fever だと聞いて、言い得て妙だなと納得した。

効果的な治療法はないらしく、とにかく、解熱剤をのんで、水をのみまくって、ウィルスを外にだすしかないのである。

なんしか、体力と気力をすべて持ち去ってしまうおそろしいウィルスなのである。

発症してから、3日くらいは、高熱と関節痛に侵されいたので、兎にも角にも、何かを口にする余裕はいっさいなかった。

いっそうのこと、このまま楽にしてくれないかな、などと不穏なこともまで考えてしまう始末。

ウィルスというのは、思考回路までおかしくしてしまうのだなと、うなされながら我にかえる。

あまりにも、体力の消耗がはげしく、このままではほんとうに、三途の川をわたるとこになってしまう。

何か栄養となるものを口にしなければと、急にあせる。

セオリーどおり、消化によいものをまずは試みる。冷蔵庫にあったドラゴンフルーツや、妻が作ってくれたおかゆを口にする。

たしかに、からだには良さそうなのだが、三口たべるとそれ以上、受け付けなくなってしまった。

胸いっぱい。

ほかに、食べれそうなものは、ないかとキッチンを物色していると、ポテトチップスを発見した。

いや、これはいかん。

からだに悪い代名詞とでもいえよう、ポテトチップスを口にするなんて、アタマがわいている。きっと、消化不良をおこして、苦しみに悶えるはずだ。

そう言い聞かせて、ポテチの袋を戸棚にしまおうとする。

いや、一枚だけなら、いいだろう。汗かいたから、塩分が足りないのもよくないだろうからね。

そうやって、ポテチを食べる理由を積み重ねてゆく。ジャンキーなものを食べる時は、いつもそう。

こうなればどうでもいいやと自暴自棄になり、ついにポテチの封をあけてしまった。ひとくち、口に運んでみる。

なんだこれは。
濃い塩味が染み渡る。うますぎる。

油と炭水化物。そして塩気。
うまみの要素が凝縮されている。

わたしは、そのまま
食べ尽くしそうになった。

おいしくたべることの喜び。
生きているという実感。

ポテチのつまみぐいを境に少しずつ、体調は徐々に回復し、他の食事も食べられるようになってきた。

病人食のセオリーとしては完全にアウトなポテチ。
しかし、そういうものに救われることもあるのだ。

人間の身体は、謎多き物体だ。

病院に向かうタクシーの窓から見える
木漏れ日がキラキラと光っている。

灰色だった景色が
鮮やかに目に映る。

ああ、健康って大事だな。

年寄りじみたことを思いながら、
回復してゆく心身を祝うのであった。

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