味噌汁さえあれば、世界のどこにいても生きていけると確信した日
「味噌汁って、なんでこんなに、胃腸が落ち着いて、心にしみわたるんやろうか」
その日、わたしは身も心も、ずたぼろだった。10月は出張が多くて疲労困憊。大阪にはじまり、バンコク、ホーチミン、そして、ジャカルタと目が廻る
ジャカルタから、クアラルンプール市内にある自宅に到着した瞬間、肩から力抜けた。すぐにでもベッドに倒れこみそうになった。しかし、おなかもすいた。 なにか、体と心が落ちくつものを口にしたい
冷蔵庫をあけてみると豆腐がある。日本のものとは少し違うけれど、中華系がよく食べる豆腐。それに、妻が冷凍してくれたキノコもある。なぜか最近、ホクトのぶなしめじがスーパーに大量にならんでいるのでよく買うのだ
そうだ、これで、味噌汁でもつくろう
味噌汁なら簡単につくれるし、疲れ果てた胃腸にも、心にもやさしい。特別ではなく、普通においしいものがたべたい
とにかく、出張中は、食生活が大いに乱れる。その原因のひとつが、ホテルの朝食ビュッフェ。普段は、スズメの涙ほどの量しか食べないモーニング。ビュッフェになると食べ過ぎてしまう欲の沼
ランチは、出張先のローカル料理。タイ料理も、ベトナム料理も、インドネシア料理も、大好きだけれど、異なる国の料理を、とっかえひっかえ食べていると胃腸が混乱しはじめる。夜は、会食でビールやらなんやらをながしこみ、多国籍になってしまった胃腸はさらに大混乱
さらに、飛行機の移動による気圧の変化で腸内のガスが膨張し、わたしの胃腸は、瀕死寸前
胃腸だけではない。会議や市場調査で、ありとあらゆる情報をつめこみすぎた脳みそはノックダウン
そんな時の味噌汁である
おだしのやさしい香り、温かい汁が身に染みる。 そして、狂った胃腸と脳みそをそっと元にもどしてくれる
味噌汁がもつ癒しの効果
味噌汁が体によいのはなんとなくわかる。しかし、なぜこんなにも私を癒してくれるのだろうか?
ついついいつもの癖で、その根拠をしらべてみると、味噌の癒しの理由がわかってきた
30年以上、味噌汁を口にしてきたのにそんな効果があったとは。しかし、納得である
味噌汁の懐のふかさと自由度の高さ
味噌と出汁さえあれば、マレーシアの食材でちゃっちゃと作れるのもまたいい
小松菜に似た青菜(名前はわからない)、キノコ類、 豆腐、オクラやナスビなどの夏野菜はいつだって手に入る。あと、イポー産のもやしも、お味噌汁には、抜群に合う
最近、発見したのは、トマトも味噌汁に合うということ。そこに、卵を入れてしまっても、これまたまろやかになり相性がよろしい
次にためしてみたいのは、サバの缶詰をつかった味噌汁。東南アジアでは、サバはよく食されているので、どこにでも売っていて手に入りやすい
調理だって適当でいい。豆腐も切るのは、めんどくさいので、スプーンですくってそのまま、鍋にいれてしまえばいい。味噌汁の色で豆腐がぐちゃぐちゃになってもわかるまい
とにかく、身近に手に入る材料をぶつ切りにして、いれてしまえばいい。多少、煮えてしまってもかまわない。どんなに雑であっても、すべてを受け止めてくれる味噌汁よ。あなたはえらい
味噌汁さえあれば生きられる
唐辛子やスパイス、ココナッツミルクがたっぷりのマレーシア料理やタイ料理も大好きだけれど、やっぱり、しんどい時は、普通においしい味噌汁がいい
どんなに忙しくても、10分あればいい。どんなに料理下手でも、具材をきって、放り込めばいい。現地の材料でも、いとも簡単にできてしまう
疲れ果てた時、わたしを救ってくれるのは、味噌汁さん、あなたしかいない。そして、あなたがいれば、この先、どんな場所でも暮らしているいける
崩れた豆腐をすすりながら、私はそう確信したのであった