「起業ってぶっちゃけどうなの?」という質問について答えます

 普段の学習塾の経営以外に、大学でキャリアについての講師もしているのですが、その際に、大学生たちから「起業ってどうなの??」という漠然とした質問を受けることも多いです。その漠然とした質問について、私の思うところを書きたいと思います。

「起業って儲かるの?」

 儲かる人もいるし、儲からない人もいます。どんな仕事でも同じことが言えるかと思います。起業してもつぶれることが多い、借金なんてできないという人も多いかもしれません。私の感覚で言えば、世の中で言われているほど、つぶれてしまうわけではないように思います。世の中で言われるというのは、10年後の生存率が10%以下といったような情報です。
 それだけ低く出ているのは、ペーパーカンパニーではないですが、起業はしたものの、やはり始めなかったとか、そういうことも含んでいるように思います。
 ただ、業種による部分も大きいと思います。飲食業のように、ブームの影響を受けやすいものや、固定費の大きい仕事の場合はうまく当たれば良いですが、うまくいかないと半年などでつぶれてしまうこともあると思います。実際、街を見ていても、新しく開店したな、と思ったらもうつぶれている、というお店を見ることも多いのではないでしょうか。
 もともと、ブーム狙いの業種もあると思います。今はまだ、タピオカブームはとりあえず続いているように見えます。タピオカ店などは、非常に狭いところでも良いわけですから、初期費用もかなり抑えることができます。物件取得費とタピオカ用の簡単な調理機器であれば、200万もあればはじめられそうです。詳しくはわかりませんが、少し計算してみたいと思います。税金を入れるとややこしくなりますので、そこは今回無視します(無視できる金額ではないのですが・・)。1杯500円として、原価率は20%くらいでしょうか。一般的な飲食業ではよく30%と言われますから、だいぶ低いことが予想されます。仮にそうだとすると、1日150杯売れたとすると、原価だけ引いた利益の場合、400円×150杯で、6万円になります。午前11時~午後8時まで開いたとすると9時間。二人常駐したとして、時給1000円で計算しても1.8万円です。ざっくりですが、6万円ー1.8万円で、人件費、減価を除いた分として、1日約4万円の利益が出たとすれば、30日で約120万円の利益になります。そこから、家賃25万、光熱費等5万を引いたとしても、90万円の利益になります。
 実際は、ここまで利益は出ないかもしれませんが、非常に収益が大きくなる可能性の高いビジネスだと思います。たった、200万円の投資で、毎月90万円回収できる店舗ビジネスはなかなかないのではないでしょうか。であれば、1年でつぶしても収益としては悪くなさそうです。ただ、この手のビジネスの場合、ブームが来ているときには、同じ駅に何店舗も同じタピオカ屋ができたりして、案外儲からないということもあるでしょうし、ブームが去れば、下火になることは容易に予想できます。ただ、1年限りのビジネスとしてもそんなに悪いビジネスではないように思います。その代わり、ブームが去る前に次の手を打ち続けるという必要があります。
 学習塾などの教室ビジネスであれば、これはブーム性が低いものですので、軌道に乗るまでは時間がかかりますが、軌道に乗ってきたらなかなかつぶれにくいビジネスだと思います。つまり、地元の信用を勝ち取っていく系の仕事ですので、ある程度認知度が上がってくれば、特に広告などを打たなくても、お客様が見つけてくれたり、紹介をしてくれるということも起きてきます。ここで、また学習塾についてのモデルを考えてみたいと思います。学習塾は、時期による費用なども変動するので、ざっくりで考えてみます。在籍生徒数が50人、平均単価が3万円だとします。そうすると、毎月の売り上げは150万円になります。また、個別指導か、集団指導かなどによって、人件費は異なりますが、ここでは、売上の40%だとします。そうすると、150万円×0.4で、60万円になります。家賃が20万円、電話代、光熱費、コピー代等が10万円、広告費が5万円とすれば、55万円が収益ということになります。
 ここでは簡単にするために、売上からかかる費用を引いただけのことを収益と言っておりますが、実際、法人を立てて、社員に対し給与として支払うと、それに対してまた所得税や、社会保険なども取られます。

「投資と回収、そして手間を考える」

 私が伝えたいことは、いくらを投資すると、毎月いくら回収できるのか、ということを数値化すると良いということです。先のタピオカであれば、200万円投資で、仮に90万円毎月回収できるのであれば、”290ビジネス”と私は勝手に名付けています。塾だとすると、1000万円投資すると、月55万円返ってくるとするならば、”1055”ビジネスだということになります。
 それだけみると、塾ビジネスは、タピオカ屋に比べると非常に収益の悪いものに見えます。ところが、他にもやっかいな点があります。それは、学習塾というものは、手間がかかるということです。タピオカ屋であれば、1か月もすれば、仕事に慣れてくれると思います。そして、特に店長がいなくてもアルバイトの店員が2人常駐して、在籍として数名いてくれればそれで回せると思います。つまり、管理者が何かつきっきりで何かをしなくてはいけない、ということはあまりなく、トラブルになったときだけ出ていけば良いように思います。学習塾であれば、生徒さんは、年単位で通います。そうすると、その子が何が得意で、どういう勉強をして、どういう進路に進むのかを考える必要もありますし、地域の学校の情報、進学先の学校の情報、入試情報など、常にアンテナを張る必要があります。アルバイトの講師たちだけで、管理者何もしなくても良いということはあまりありません。つまり、管理者が割と張り付いていないとならないですし、管理者自身も、保護者対応など管理者としての仕事があるということです。

どこまでの売上、規模にするのかを考える

 次にどこまでの売上、企業規模にするのかを考える必要があります。先に述べたように、投資、回収まではある程度計算ができますが、手間がどの程度そのビジネスがかかるのか、これを考えないと規模を大きくはできません。先のタピオカ屋であれば、管理者の手間はたぶん少ないですので、拡大はしやすいと思います。その代わり、ブームの影響を大きく受けると思いますので、拡大したとしても、ブームがされば、それらを撤収する必要があります。撤収するといっても、物件によっては、スケルトン返しでなければいけないなど、いろいろと条件があったり、賃貸契約によっては期間が定められておりますので、前もって解約の手続きをしないとならないこともありますし、他にも調理器具の処分などありますので、売れないからといって、すぐに0円で撤収できるということはありません。
 学習塾は、管理者の手間がかかる分、簡単に店を増やせないということもあります。また、同時に先ほどの収益しか出ないのであれば、そう簡単に人を雇うこともできないということです。管理者一人が、複数店舗を見ている場合もあるかと思いますが、なかなか簡単なことではありません。
 そのため、自分が始めようとしているビジネスをどの程度まで広げたいのかを考える際に、手間がどの程度かかる仕事なのかを考えていないと広げたいと思っても広げることができないということになります。
 自分の目標とする売上が〇〇億円というのであれば、〇〇のビジネスで、〇店舗必要、など具体的な数値に落とし込んでいくことになります。逆に言えば、拡大を目指すのであれば手間のあまりかからないビジネスを選んだ方が良いということになります。もしくは、オペレーションをシステム化して誰でもが対応できるようにすることになります。ハンバーガーチェーン店などはアルバイトの人がすぐにオペレーションを覚えることができるようにその作業を動画にしていたり、簡単にテストを行うなどしてなるべく短い時間で覚えられるようにシステム化していたりします。

結局のところ起業って儲かるの?結論

 結論になりますが、その人の目指すところ次第ということになります。1店舗だけで独自性を出していくということであればそれはそれで儲けることももちろんできると思います。他にない分、単価を高くできます。その代わり1店舗あたりの収益は物理的上限によって限られるということと、自分が管理者として入ることで自分も一緒になって働くということが求められるかもしれません。逆に言えば自分が倒れたらその店舗の運営は難しくなってしまいます。
 企業を作っていきたい、ということであれば一人ではできないですから手間があまりかからないもので売り上げをあげていきながら、独自性を出しつつもそれを他の店舗でもできるようにするなどの仕組化をしていくことで、1店舗だけの収益よりもずっと大きな収益を得ることができる可能性はあります。また、自分以外にも多く人を雇う必要もありますので自分が倒れたとしても組織を回すことができるかもしれません。
 起業ではなく、組織の中で雇われているときには、1年後や10年後について大企業であれば比較的保障してくれるかもしれません。ところが自分でやっていくとなれば、明日すらの保障もありません。ただし、組織の中で働くのとは異なり収益をあげることができれば自分の収益を増やすこともできる可能性はもっています。
 私はサラリーマンも、起業も経験していますがサラリーマンは非常に守られていると感じます。大企業だってつぶれることがあるんだ、という人もいますが、それでも自分で立ち上げてやっていく人に比べればよほど守られています。そして、多くの場合は起業してしまったらなかなか、組織には戻ることは難しいでしょう。
 どちらが良いということはないです。人によって、タイプがあるということです。組織に雇われず、自分で立ち上げていく人もいれば、組織の中で力を発揮できる人もいます。組織に雇われるということは、安心の代わりに自分の取り分を組織にコントロールされざる得ないですし、それがイヤならば、自分で社長を目指すか、起業をするしかありません。
 起業したから儲かるかどうか、ではないです。起業しても儲からない人もたくさんいます。そのかわり自由を得ることができます。守られることは全くありません。そのバクチを打つ覚悟があるならば、起業というのも一つの選択肢だとは思います。
  私の感想としては、こんなに大変だとは思わなかったというのが偽らざる感想です。でも、またサラリーマンに戻りたいかと言えば、それはノーです。自分で道を開きたいからです。
 儲かるかどうかだけで考えるのであれば、起業はおすすめはしないです。もっと、広い視野を持たないと儲けることはできないでしょう。

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