「103万円の壁」の次に待つ「壁」(130万円編)
被扶養者から外れる「130万円の壁」について、社会保険労務士試験に合格した知識を用いて説明します。
なお、今回は、長くなるので、最初に結論をまとめておきます。
・厚生年金及び健康保険の適用されていな事業所に勤務する方は、「103万円の壁」を超えて働いても、「130万円の壁」を超えることによる社会保険料の負担が大きく、前者の利益よりも後者の不利益の方が大きい。
・当該不利益は「106万円の壁」よりも、働く会社の規模等によっては、「130万円の壁」の方が、大きい。その主な要因は、年金額が増えないにも関わらず、新たに負担しなければいけない国民年金の保険料である。
1.「130万円の壁」とは
ご存じの方も多いかと思いますが、健康保険や国民年金には、扶養の考え方があります。
モデルケースとしては、サラリーマンの配偶者がパートやアルバイト等で、「収入が低い*」場合であれば、被保険者(サラリーマン)に扶養される者として、保険料を納めず、保険給付等を受けることができます。
この「収入が低い」に該当するかのラインが年収130万円未満となっており、「130万円の壁」と表現されます。
(130万円以上の収入がある場合は、扶養から外れ、ご自身で社会保険料を負担することになります。)
なお、被扶養者ですが、健康保険では、直系尊属、子、孫、兄弟姉妹、3親等内の親族等、幅広く対象となりうる一方で、国民年金については、被扶養配偶者のみが対象となり、範囲が異なることには注意が必要です。
*法律上は、「被保険者に生計を維持される者」と表現されます。
2.「106万円の壁」との関係
まず、混同しやすい「106万円の壁」との関係について整理します。
前回にご紹介しましたが、「106万円の壁」は、被保険者に該当するかのラインです。一方、「130万円の壁」は、被扶養者から外れるかのラインです。
表現が違いますが、ご自身が新たに被保険者になるという意味では結論、同じです。整理しますと、
「106万円の壁=被保険者になる壁」
「130万円の壁=被扶養者から外れる為、被保険者になる壁」
これだけ見ると、「130万円の壁」の前にある「106万円の壁」に該当しないことの意味が理解しにくいですが、「106万円の壁」とは、パートやアルバイト等で、従業員数が多い会社で一定の要件を満たす人でなければいけないことから、すべての労働者が該当する訳ではないというのがポイントです。
なお、「130万円の壁」を意識して働く方のモデルケースとしては、次の3つのパターンがあります。
①従業員数が少ない会社に勤めていて、正社員等の従業員と比較して、勤務時間や勤務日数が短い
②従業員数が多い会社に勤めているが、正社員等の従業員と比較して、勤務時間や勤務日数が短く、かつ、下記【補足】(ア)~(エ)のいずれかの要件を満たす人
③そもそも、勤め先が厚生年金や健康保険の適用事業所や任意適用事業所に該当しない場合
https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/kounenseido/jigyonushi/20140902-01.htm
【補足】
・従業員数が多い会社
特定被保険者の数が51人以上(*)の特定適用事業所等に該当する会社
・勤務時間や日数が短い(短時間勤務労働者)
1週の所定労働時間や1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の3/4未満となる者
・被保険者除外の要件
(ア)週の所定労働時間が20時間未満であること
(イ)所定内賃金が月額8.8万円未満であること
(ウ)学生であること
(エ)2ヶ月を超える雇用見込みがないこと
この(イ)の要件が、年収に換算(8.8万円×12ヶ月≑106万円)すると約106万円になり、これが年収の壁と言われているものです。
*令和6年10月1日から51人以上に改正(改正前101以上)
3.130万円の壁を越えると
先ほど説明しましたとおり、社会保険の被保険者となりますので保険料が掛かります。
なお、以前の投稿で、106万円の壁を超えた場合には、保険料を労使折半で負担すると説明しましたが、130万円の壁については、会社の従業員規模等によっては労働者が全額負担することになります。これは、非常に大きな違いですのでしっかりと押さえておくべきポイントです。
詳しく説明しますと、厚生年金や健康保険の適用事業所又は任意適用事業所に該当しない場合(上記③)は、ご自身で、国民健康保険と国民年金に加入することになります。一方で、上記①、②に該当し、会社が厚生年金や健康保険の適用事業所又は任意適用事業所の場合は、原則、労使折半となります。
ここで、保険料の負担が最も高額になる上記③のケースで、「178万円の壁」ギリギリまで働いた場合の保険料を概算します。
・国民健康保険
国民健康保険の保険料は、医療分+支援分+介護分の合計で計算されますが、計算がややこしいので、新宿区が出している下記データを参考に試算します。
https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000363720.pdf
103万円の壁を超えて178万円まで働いたケースでは、
1,780,000円-1,092,000円(基礎控除48万+給与所得控除61.2万)=688,000円
となりますので、データに当てはめてみると、大体9,000円/月ぐらいなることが予想されます。
・国民年金
16,980円/月
以上のように、国民健康保険と国民年金により、年間約31万円の保険料負担が生じることが分かります。
一方で、以前の投稿でご紹介した「103万円の壁」が「178万円の壁」になった場合の利益を再掲します。
・所得税が掛からない利益(本来支払う必要があった所得税の金額)
(1,780,000円-1,092,000円(基礎控除48万+給与所得控除61.2万))×5%=34,400円(約2,866円/月)
※所得税率:1,949,000円までは5%
つまり、上記③に該当するケースにおいては、「178万円の壁」になったとしても、依然として、「130万円の壁」を超えることによる社会保険料の負担が重く、所得税が掛からない利益はそれを打ち消すほどではないと考えます。
4.「106万円の壁」と「130万円の壁」の重要な違い
ここで、上記③に該当する方が「130万円の壁」を超えた場合と、「106万円の壁」を超えた場合を比較します。一部、既に説明した内容と重複しますがご容赦ください。
(1)保険料が全額自己負担となる。
リマインドになりますが、「106万円の壁」は、厚生年金又は健康保険の被保険者になるかの壁であり、適用事業所又は任意適用事業所が前提となりますので、原則、労使折半(※)です。
一方で、上記③に該当する方で「130万円の壁」を超えた場合は、国民年金、国民健康保険に独自に加入することになるので、全額自己負担です。
なお、上記①②の方は、厚生年金又は健康保険の被保険者になりますので、「106万円の壁」を超えた時と同様に、労使折半(※)となります。
※保険者が健康保険組合の場合、労働者の負担割合が半分以下となることがあります。
(2)年金は増えない。
「106万円の壁」越え及び上記①②の場合は、厚生年金を掛けることになりますので、その分、将来もらえる年金が増えます。一方で、上記③に該当する方で、「130万円の壁」を越えた場合は、それまで被扶養配偶者(国民年金第3号被保険者)として保険料を納めず保険料納付済期間を得ていたのが、国民年金第1号被保険者になることで保険料を自分で納付しなければ保険料納付済期間となりません。つまり納める保険料だけが発生し、年金の金額は増えません。この違いは非常に重要ですので、しっかり押さえておきましょう。
5.まとめ
以上のことから分かるように、「130万円の壁」を越えることで大きな負担となるのは、上記③に該当する方の国民年金の保険料といえます。
ただ、本件は、上記③に該当する場合でも、すべての方に当てはまる訳ではなく、国民年金の被扶養配偶者(第3号被保険者)が第1号被保険者に該当することによる、保険料負担であるということに注意が必要です。
その為、大学生等の学生は、20歳に達すると国民年金の被保険者(第1号被保険者)になりますので、学生かつ既婚者で無い限りは、「130万円の壁」を越えて新たに国民年金の被保険者になる訳ではありません。
つまり、学生の場合は、国民健康保険料をどう考えるかという点がポイントになりますが、個人的には、約1日の給料分が保険料に消えても多く稼ぎたいと思うのであれば、「130万円の壁」を越えて働いても良いのではと思います。ただ、これも、親が国民健康保険の被保険者の場合は、既に学生でも被保険者の扱いになりますので、「130万円の壁」を越えることで、国民健康保険料が発生するとはなりませんのでご注意ください。
なお、上記①②に該当する場合は、新たに健康保険と厚生年金に該当することになりますので、下記投稿を確認のうえ、参考にして頂ければと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?