「103万の壁」の次に待つ「壁」(106万円編)
今、所得税の課税されるライン(103万の壁)における基礎控除額を、48万円から123万円に増やして、103万円の壁を178万円にするという政策が話題となっています。
※現行:103万円=基礎控除48万円+給与所得控除55万円
実はこの「●●万円の壁」については、「103万円の壁」の他、「106万円の壁」、「130万円の壁」、「150万円の壁」等があり、これらの壁は、103万の壁が178万円の壁になろうとも、影響を受けることなく、立ちはだかる点について、社会保険労務士試験の中で得た知識を用いて説明します。
1.106万の壁とは
まず、社会保険の被保険者の壁とも云われる106万円の壁について説明します。
「106万円の壁」とは、扶養から外れ、ご自身が厚生年金や健康保険の被保険者になるラインを意味します。
被保険者になると、保険料が発生し、その分手取りが減ってしまうことから、この壁を越えないよう、収入を調整する方もいるのが現状です。
なお、パートやアルバイトの方が、厚生年金や健康保険の被保険者に該当しないための要件には3つのパターンがあります。
(細かい説明まで含むとややこしいので、ざっくりと説明します。)
・従業員数が少ない会社に勤めていて、正社員等の従業員と比較して、勤務時間や勤務日数が短い
・従業員数が多い会社に勤めているが、正社員等の従業員と比較して、勤務時間や勤務日数が短く、かつ、下記【補足】(ア)~(エ)のいずれかの要件を満たす人
・そもそも、勤め先が厚生年金や健康保険の適用事業所や任意適用事業所に該当しない場合(該当するかは、下記サイトを参考に!)
【参考(日本年金機構サイト】 https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/kounenseido/jigyonushi/20140902-01.htm
つまり、従業員数が多い会社に勤務する社会人の方で、雇用期間が2ヶ月以下で無い場合は、(ア)又は(イ)のいずれかを満たす必要がありますが、よほど時給が高く無ければ、通常は、(イ)の要件(所謂、106万の壁)を満たすことを意識することになります。
以上のことから、106万円の壁を意識してる人は、従業員数が多い会社に勤めている短時間勤務労働者の方です。
一方、従業員数が少ない会社に勤めている方であれば、短時間勤務労働者に該当するだけで、被保険者にならないため、106万の壁は意識する必要はありません。
【補足】
・従業員数が多い会社
特定被保険者の数が51人以上(*)の特定適用事業所等に該当する会社
・勤務時間や日数が短い(短時間勤務労働者)
1週の所定労働時間や1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の3/4未満となる者
・被保険者除外の要件
(ア)週の所定労働時間が20時間未満であること
(イ)所定内賃金が月額8.8万円未満であること
(ウ)学生であること
(エ)2ヶ月を超える雇用見込みがないこと
この(イ)の要件が、年収に換算(8.8万円×12ヶ月≑106万円)すると約106万円になり、これが年収の壁と言われているものです。
*令和6年10月1日から51人以上に改正(改正前101以上)
2.106万円の壁を越えると
先ほども触れましたが、厚生年金や健康保険の被保険者となりますので、保険料が掛かります。なお、当該保険料は労使折半(健康保険組合等例外あり)となり、使用者側にも負担が生じるので、被保険者になることを嫌う経営者も多いです。
具体的な毎月の被保険者が負担すべき保険料額は、標準報酬や健康保険の保険者によるので個別に計算する必要がありますが、目安としては、次のとおりです。
・厚生年金(標準報酬月額等級1級、厚生年金第1号被保険者の場合)
{88,000円(標準報酬月額)×18.3%(保険料率)}÷2=8,052円/月
※賞与がある場合は賞与分にも保険料が掛かります
・健康保険(標準報酬月額等級4級、全国健康保険協会被保険者の場合)
{88,000円(標準報酬月額)×11.6%(保険料率)}÷2=5,104円/月
※介護保険第2号被保険者(40歳以上の方)と仮定
※保険料率:健康保険率+介護保険料率
※保険料率:令和6年度和歌山県の保険料率を採用
※賞与がある場合は、賞与分にも保険料が掛かります
保険料が掛かるとネガティブなイメージを持たれる方も多いと思いますが、厚生年金については、納めた分、将来年金として支給されるので、必ずしも損になるとは言えません。
一方、健康保険料は、被保険者であろうが、被扶養者であろうが、保険サービスに違いは無いので、納める分、損になるという考え方は一理あると思います。
いずれにしても、これらの保険料は、手取り収入が減る要素になりますので、冒頭の「103万円の壁」が「178万円の壁」なったとしても、106万円以上の収入を得ることで厚生年金や健康保険の被保険者になる方は、次の要素を考慮する必要がある考えます。
・プラス要素
「所得税が掛からない利益」
「将来受け取る年金の増加」
・マイナス要素
「新たに必要となる保険料」
3.「所得税が掛からない利益」と「新たに必要となる保険料」を比較してみる
所得税が掛からない恩恵を受けられるギリギリラインの178万円の収入があると仮定して計算します。
なお、厚生年金の保険料は、年金の増加に繋がる点をどう捉えるかにもよるので、ここでは計算の対象とはしません。
・所得税が掛からない利益(本来支払う必要があった所得税の金額)
(1,780,000円-1,092,000円(基礎控除48万+給与所得控除61.2万))×5%=34,400円(約2,866円/月)
※所得税率:1,949,000円までは5%
・新たに必要となる保険料(健康保険料のみ)
{142,000円(標準報酬月額)×11.6%(保険料率)}÷2=8,236円/月
※標準報酬月額等級11級、全国健康保険協会被保険者の場合
※介護保険第2号被保険者(40歳以上の方)と仮定
※保険料率:健康保険率+介護保険料率
※保険料率:令和6年度和歌山県の保険料率を採用
※賞与がある場合は、賞与分にも保険料が掛かります
以上のように、所得税が掛からない利益よりも、新たに必要となる健康保険料の方が大きいことが分かります。
4.「将来受け取る年金の増加」の保険料回収期間を分析
この点については、純粋に厚生年金に加入することで増えた年金(所謂、老齢厚生年金の報酬比例部分)をベースに計算する必要があります。
なお、「106万円の壁」を越えることで、国民年金の被保険者の取扱いが、第3号被保険者から、第2号被保険者に該当するようになり、第3号被保険者であれば、保険料を払わずに年金を受け取れたはずが、ご自身で保険料を納め、年金を受け取るという考え方になります。
ここでも、所得税が掛からない恩恵を受けられるギリギリラインである178万円の収入が40年間続いたと仮定して計算します。
・保険料額
{142,000円(標準報酬月額)×18.3%(保険料率)}÷2=12,993円/月
※標準報酬月額等級8級、厚生年金第1号被保険者の場合
⇒12,993円×12ヶ月×40年=6,236,640円(A)
・増える年金額
144,000円(平均標準報酬額)×5.481/1,000×480ヶ月(加入月数)=378,846円/年(B)
・回収期間
(A)÷(B)=16.4..年
5.まとめ
健康保険料の負担増加をどう考えるかはありますが、上記仮定の範囲でみると、81歳を超えて生きる自信がある方で、手取りを少しでも増やしたい方にとっては、良い政策なのかもしれません。
なお、厚生年金については、上記のとおり計算した年金(老齢厚生年金)の他、遺族厚生年金やなどもあり、国民年金よりも手厚い保険になっているので、その点も考慮したいところです。
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