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【コラム】私が日商簿記1級に落ちた時の話
自己紹介にも記載していますが、私は、日商簿記1級、中小企業診断士、社会保険労務士の資格を独学により取得しています。(その他、漢検準1級も持ってます。)
なお、診断士試験については、1次、2次と試験があるので、科目合格をしつつ取得し、複数年度には亘っていますが、すべて合格でした。
一方、これらの資格の中で、唯一落ちたことがあるのが、日商簿記1級です。
11月17日に日商簿記の試験が行われましたが、結果が芳しくなかったかたもおられると思いますので、私の不合格から合格までの経験を投稿しますので参考になれば幸いです。
1.1級の洗礼を受ける
私が、落ちた第157回の日商簿記1級試験の商業簿記では、商品売買の推定をメインとした出題でしたが、解き方が全く分からず、時間だけが過ぎ、冷や汗が流れ出るとともに、周囲の電卓を叩く音に混乱し、完全に思考が止まった記憶があります。
受験生であれば共感頂けると思いますが、推定系の問題は、ひらめきも必要な部分もあり、そのひらめきが生まれなかった場合の、フリーズ感は受験生にしか分からない感覚があります。
因みに、私は、上記の3つの資格(日商簿記1級、中小企業診断士、社会保険労務士)の内、合格のしやすさは別として、次の要素から、最も勉強内容が難しいのは、日商簿記1級だと確信しています。(細かい理由は、長くなるのでここでは割愛します。)
・複雑な計算を短い時間で正確に計算する能力が求められる
・3級、2級から積み上げた基礎知識が必要で専門性が高い
・論点が複合的に出題されることがある(例:連結会計+外貨換算)
2.不合格からの逆襲
通常、日商簿記1級は6月と11月の年に2回受験機会がありますが、157回は、コロナで直近の中止があったことを考慮して、2月に実施された異例とも言える回でした。
すなわち、次の受験までは約4ヶ月ほどしか無く、早急に得点力の底上げを図る必要がありました。
取り組んだ内容としては、
(1)工業簿記原価計算の得点力強化
岡本清さんの「原価計算」を購入し、3周読み込みました。この本は、原価計算の学問の分野では非常に有名な本であり、1万円もしましたが、買って良かったと今でも思っています。
実は、157回の工業簿記では、CVP分析において、人件費を変動費として取り扱うか、固定費として取り扱うかの論点が、この本に記載されてある内容が殆どそのまま出題される等、おそらく試験委員の方も大いに参考にしている専門書であると思います。
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(2)連結会計の強化
受験生を悩ませる筆頭の論点である連結会計。私もかなり苦手でした。その為、基本論点である「投資と資本の相殺消去」から「段階取得」、「未実現利益の処理」など、得意と言えるまでは理解が深まりませんでしたが、苦手論点の克服に努めました。
(3)会計基準に対する理解の高度化
インターネットでも公開されている、「リースに関する会計基準」、「資産除去債務に関する会計基準」、「退職給付に関する会計基準」など、の読み込みを行いました。
正直、殆ど出たことが無いような細かい部分も勉強することになるため、オーバースペック感は否めないですが、時間がある方で、体系的に理解を深めたい方には、オススメできると思います。
(4)税理士の簿記論の問題を解く
市販の簿記論の問題集を解くようにしました。一部、税理士試験特有の難しい問題もありましたが、基本的には、同じレベル感の問題なので、幅広い出題形態になれるという意味でもオススメです。
3.再受験の点数
158回の受験結果は、77点(商業簿記17点、会計学21点、工業簿記23点、原価計算16点)でした。
原価計算において、計算をミスしてしまい、おそらく6点~7点はマイナスになり、不合格になりそうなレベルの手答えでしたが、結果は、合格でした。
4.合格した要因
振り返ってみると、工業簿記原価計算の点数の安定化が一番合格できた要因だと考えています。
また、ネットで調べるかぎり、工業簿記と原価計算は、商業簿記と会計学と比較しても論点が少ない為、工業簿記原価計算を強くした方が、合格はしやすいという意見が多いです。
なお、この安定化を生んだ要素は、さきほどご紹介した「原価計算」を読み込むこと、これが一番大きかったです。
私は、この本に出会って、曖昧だった理解が、何故そのように計算するかを背景も含めて解説がされているので、既にあった知識は整理さるとともに、新たな論点の習得など、本当に良かったと思っています。
通常の教科書では、解法の説明はありますが、その背景までは記載されていないので、その深い理解が、長期記憶ともなり、得点の安定化に繋がったと実感しています。
特に、製造間接費における固定費率と固定費の操業度差異の意味、標準原価計算におけるシングルプラン、パーシャルプランの解説など、例を挙げれば切りが無いほど、腑に落ちた論点が多数ありました。
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5.簿記坂~登った先にみえるもの~
私は、3級及び2級を受けずに1級のみを受験した為、投下した時間が1,000時間を超え、最後は意地になっていた部分もありました。
合格への焦りと解けない自分への苛立ちが計算間違を生み、心因性のじんま疹が出るほど、ストレスがたまり、ここまで時間と労力を掛けながら受験する意味はあるのかと、逃げ出しそうな気持ちになったこともありました。
振り返れば、あの時、受験を諦めるのも選択肢だったと思います。何故なら、日商簿記1級に合格しても人生が大きく変わるものでは無いからです。
特に、私のように、その時も今も経理の仕事には就いていないような人であれば尚更です。(「時間や労力がもったいない」、「ただの自己満足」という指摘があるのは承知のうえです。)
ただ、税理士や公認会計士になる!等、その後を見据えている方や、経理業務についている方等、受験時に明確な取得後のビジョンがある方は、自分のスキル向上、素質を試す意味でも、何度かはチャレンジした方が良いと思います。税理士試験や公認会計士試験は、もっと難しいですから。
合格後、どのような道に進むかは色々あると思いますが、今、私が簿記坂を登った先に見えている景色は、「絶景」です。日商簿記1級を持っている自覚が、正確な計算処理をするために妥協をしないマインドを生み、自分を成長させる要素になっていると感じているからです。
なお、日商簿記1級、中小企業診断士、社会保険労務士、3つの資格を持っていますが、一番反応が良いのが日商簿記1級です。国家難関資格といわれる資格と比較しても、それだけ知名度と難易度が認知されている資格だといえます。
皆様が登られている簿記坂。次回受験までは、寒い冬を越え、勉強にも耐え、長く辛い坂を登らなければいけません。今一度、何故、合格したいのか、ビジョンと覚悟を確認頂ければと思います。
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