グチから生まれる「絆」

 最初の育休時、私は頭の中がビジネスモード全開なまま、いきなり地域社会に突入した。たいていそういう男性は失敗をやらかすのだが、私も大失敗した。

 ある時、公園でママたちと輪になって話していると、あるママが延々と愚痴った。「夫は仕事、仕事で毎日、深夜にならないと帰ってこない。ほんとうに仕事をしているのかしら。もしかしたら女を作ったんじゃないかしら…。あぁ、私は一体、どうしたらいいんでしょう?」今になれば、最後の言葉は別に誰かに投げかけたというよりは、つぶやきみたいなもんだろう、と思う。

 だが、その場で男性は私一人だけ。みなが私の言葉を待っている(気がした)。しかも、ワークライフバランスがテーマ。しめた、俺の出番だ!肩をそびやかせて「いまおっしゃったお悩みには、課題が3つあって。一つ目の課題には、たぶん対応策が2つあって…」とコンサルモード全開でまくしたてる私に、みなさんドン引きになる。「なんなの、この人は…」と皆の目が語っている。

 はっと我にかえり、「まずい、このままでは浮いてしまう」と慌てて言いつくろう。「まぁ、そういうのは置いといて、大変ですよね。」と傾聴作戦に切り替えた。しばらくは大人しく、女性たちの会話を聞いているうちに、「なるほど、そういうことか!」と気づいた。どうやら「愚痴を言われたら、愚痴で返す」のが礼儀らしい。

 そこで試しに私も、育休初日に、オッパイを飲みたがる息子にペチペチと叩かれて切なかった話を披露すると、みなさんキャッキャッと喜ぶ。まさしく「他人の不幸は蜜の味♡」という感じだ。

 不思議なことに、みんなで愚痴を交換してるうちに、強い連帯感が生まれた。4ケ月の育休が終わる頃には、公園のママ友たちと、どこどこのスーパーの大根は3円安いというような話で、思いっきり盛り上がる自分がいた。女性たちはGUCCIのハンドバッグに負けず劣らず、愚痴のサンドバッグを叩くのが好きだと学んだ。

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