パラリンピック~こぼれ話~まんまと騙された話
9年前のロンドンパラリンピックのとき、Wi-Fiを借りようと街に出たら、
スーツを着た紳士風の男性に道を聞かれた。
「知らん」と一言いうと
突如、警官が2人現れ警察手帳を見せながら「今、この男から覚せい剤かったやろ。お前、財布に隠し持ってるやろ。財布見せろ」と職務質問された。
ええーーーーっ。覚せい剤買ったと思われてる。
なんで?こんな清純派な私に、薬物所持の疑い?
これは、無実を証明しな牢屋にぶち込まれるやん。
まだ取材始まってないのに、えらいこっちゃと焦る。
声をかけてきた男に「ちゃうやんな?私、道聞かれただけやんな!」と泣きそうになりながら聞くと、
「道を聞いただけで、彼女は何もしてない」と必死にかばってくれた。
普通なら、恋に落ちるパターン。
でも、警官は聞く耳を持たず「二人とも、パスポート見せろ」と、威圧的。
だんだん怖くなってきたけど、道を聞いてきた男の人が
「ごめんね。俺のせいで」という。
ほんまやで。なんで私に声かけてきてん。現地の人にきいてくれ。
「大体、薬物は財布に隠すんもんや」という警官。
そうなん?パンツの中ちゃうの?警察24時で見た!と思いながらも、疑惑を晴らすべく財布を提出。
警官二人は財布から中身を出して、チェックしている。
カバンの中も全部見られて、早く無実を証明したいと思っていたら
「お前は無実や。行け」と、これまた横柄な態度で無罪放免。
もう一人の紳士も「ごめんね、俺のせいで」などというから、この人も被害者やしと同情。
Wi-Fiを借りる店に着き、店のお兄ちゃんに、職質されたことを説明したら
「やばいでそれ。イギリスでは、職務質問は交番にかえってしなあかんねん。財布見てみろ」と言われて、体が震えだした。
ついでに右耳の辺りからザーザーとさざ波が聞こえてきた。なにこれ、初めての感覚。ご先祖様からの知らせか。ちょっと遅いけど。
財布をみると、小額紙幣が数枚しか残ってない。カバンの中に入れてた現金も全部、持っていかれた!(帰りに旅行して帰ろうと思ってユーロも入れてた)
当時はまだ現金とカードの時代。
とりあえず、現場近くのカフェに入り、警察に電話してほしいと店員さんに頼んだ。
店員さんが「可哀想に」とコーヒーを持ってきてくれた。
しばらくすると、本物の警察が2人やってきて、どんな顔やったか、人種を聞いてきたけど、そんなん分らんやん。
「五輪があると、世界から犯罪者が集まって、アジア人を狙ってだます。特に日本人は優しいから騙されやすくて、偽警官詐欺がはやってるんや」という。
えー!そんな詐欺しらんし!
「私服警官は、信用したらあかん」と話す二人が、私服の警官やったけど、その矛盾を突っ込む余裕はなく、涙がこぼれ落ちた。
パラリンピックは翌日から始まるというのに、お金が日本円で数千円ぐらいしか残ってなかった。
「お金は戻ってこないし、カードも止めて。スキミングされてるやろうから」という。
「この2週間、どうやって生活せーっていうの」と泣きながら訴えたら(警察官も、しらんがなやろうけど)「日本の大使館に助けてもらえ」という。
そして、警官(本物)は、なんと最初に声をかけてきた紳士風な男も、グルやと断定した。
あれ、気付いてなかったの私だけー。
なーにー。なんやあの猿芝居は。
「俺のせいでごめん」いうとったやん。
この人も可哀そうやと同情した私のウブすぎる感情を返してくれ。
それから、「犯人おるかもしれんから、見たら教えてくれ」とパトカーに乗せられ、現場をぐるっと一周した。
この警察官も、偽警察官やったら(私服やし)、私はどこに連れていかれるんやろと怖くなった(もう誰も信じない)
結局、そんな悪党は、あたりをぶらついてるわけもなく、またカフェで降ろされた。
カフェの店員さんにお礼を言おうと思ったら、年甲斐もなく泣いてたし可哀そうと思ったのか、「ごめんね。イギリスを嫌いにならないでね」と、コーヒーとサンドイッチをご馳走してくれた。その気持ちがとても温かくてうれしくてまた泣いた。
悪党どもは財布からお金を出したけど、ちゃんと入れ直してたのを確認した。高額紙幣だけ抜き取るって、すごすぎるテクニックやないか。ちゃんと技術をいかして働きなさい。
某新聞社の方からたまたまが連絡があり、ことの顛末を話すと、パラの取材陣で集まってるから合流するように言われた。
近くまで迎えに来てもらい、落ち込みながら食事会に行くと約20人ぐらいの取材人たちに、「だまされちゃった子」として、半笑いで拍手で迎えられた。もう、すでに悲しい話ではなく、ネタになってた。さすが、記者たち。
でも、そのおかげで、会場であえば「騙された子」として、ランチをおごってもらえたりしたから助かった。誰もカンパはしてくれなかった(求めすぎる女)
知り合いに少しだけお金を借り、2週間の極貧生活がスタート。パラ後は旅行しようと思っていたけどお金もないし急遽、予定を変更した。
最後、2日間は、ベッドに虫がおりそうな激安のホステルにしか泊まれず・・・。共同トイレも酷い有り様で、いろんなトラウマができ、たまにそのトイレを思い出す。自分のせいやないかい。
騙されたときカフェの店員さんの優しさに救われたので、もう一度お礼を言いに行こうとカフェに向かうも、方向音痴すぎてたどり着かず。私の悪いところは、そういうとこや。
そして、東京パラリンピック。
すっかり、ロンドンの出来事は忘れていたというのに、詐欺にあったことを知るカメラマンと記者から「彼女、ロンドンパラで詐欺にあったんだよ」と数人に紹介された・・・。
何、その紹介の仕方。オシャンな話もっとないの。それに、いつまでいうねん。一生、ネタにされ続けるに違いない。
今大会で、海外のメディアから、日本は安全やねと言われるけど、分からんで。五輪になると、悪党がやってくると人づてに聞いた。
思いもよらぬ紹介のされ方で、ロンドンのことを思い出したので、今更ながら書いてみました。海外に行かれる際は、偽警官詐欺にお気をつけください。
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