Googleで文献管理してくれるPaperpileが好き。

研究者は研究を始める前に先行研究をたくさん読み、そして研究を続けながら新しく発表される論文を読んで、逐一知識を更新していきます。論文を書くというアウトプットも一つの仕事ですが、知識を新しくするというインプットも重要な営みの一つです。

毎日新しい論文が発表され、また関連した過去の論文も遡って読み直したりしていると、どんどん自分が読んだ論文が増えていきます。10や20だったら自分でエクセル管理でもすればいいと思うのですが、毎日数本読んでいると数百、そして数千もの論文を読むことになります。その際にどうやって自分が読んだ文献を整理するのか。それも多くの研究者が頭を悩ませている一つの問題だと思います。ダウンロードして読んだはいいけど、自分のパソコンのどこに入ってるかわからないという人もいるのではないでしょうか。

まだ私が博士一年生だからか、はたまた他の人は自分のうまくやる秘策を共有したがらないからか、実は周りの人がどうやって文献管理しているのかあまり知りません。なので、一緒にミーティングなどした際に、「あぁ、そういえばこんな論文があって〜」と探し始めたその隙に、ちらりと盗み見したりします。今まで見た感じだと、

①自力で管理する - 文献用のフォルダを作り、その中に分野ごとのサブフォルダを作る。該当の論文をフォルダごとに振り分ける。人によってはエクセル表を作ってどのフォルダにどの論文があるか管理する。検索の方法は、著者名か論文のキーワードを打ち込み、パソコンの一括検索かエクセル検索を使う。
②文献管理ソフトを使う - 世の中には既にたくさんの文献管理ソフトが開発されている。その中から自分に合うものを探して、使う。具体的な使い方はもちろんソフトによる。アプリ上で管理するもの、クラウド上で管理するもの、アプリとクラウド上を同期させるなど方法は様々。
③管理しない - 自分の記憶を頼りに、その都度Google Scholarなどで検索する。

①は年配の先生とか、パソコンがあまり得意じゃない人の管理方法な気がします。おそらく②が圧倒的多数で効率的です。③は論外かと思いつつ、なんとなく天才肌な人ほどこういう破天荒をやらかしそうな気はします。

文献管理の方法を調べると大体、Zotero, Mendeley, EndNoteあたりの比較をしていて、色々メリット・デメリットはありますが、今日は自分の好きなサービスについて書こうと思います。(※詳しい使い方のページではありません。念のため。)

Paperpileが好き。

Paperpileは2012年に公開されたクラウド上で文献管理をしてくれるサービスです。Google ChromeにPaperpileの拡張機能を追加し、Googleアカウントでログインすると、論文の簡易情報(ジャーナル名、出版年、概要など)と論文PDFをGoogle Driveと同期して保存・管理してくれます。ほとんどの研究者はGoogle Scholarを使って論文検索をすると思うのですが、Paperpileの拡張機能を入れると、各論文の横にPaperpileボタン(Add to Paperpile)が表示され、それをクリックするだけで、自動的にGoogle Drive上に論文PDFを保存し、自分のPaperpileアカウント上に論文情報を登録してくれます。アカウントはChromeブラウザ上で確認でき、そこから論文の簡易情報やPDFにアクセスできます。PDFは自分のGoogle Drive上に保存されているので、著者名か論文名がわかっていれば直接Google Drive上でも検索可能です。

ただし所属している研究機関(大学、学部、研究所)または個人の身分によっては論文閲覧の制約があるので、そもそも自分が手に入れることの出来ない論文のPDFは自動に登録されません(簡易情報は公開されているので、登録されます)。どこからか何とかPDFのみを入手できたら、後から手動で登録は可能です。あと論文情報がPaperpile上に登録された後、分野ごとにフォルダ分けも出来るのですが、振り分け方は手動です。キーワードを入れて自動振り分けしてくれる機能があればいいんですけど、、、私が知らないだけでしょうか。論文一覧はBibTeX、RIS、CSV、JSONで出力可能です(私はCSVとJSONしか意味がわからないんですけど)。

論文中に引いた参考文献のリストも作ってくれる。

一番好きなところといってもいいのが、なんといってもGoogle Docsと同期して論文内で引いた先行研究の参考文献リストを自動作成&文章中の引用様式を自動更新してくれるのです。論文引用の様式も指定可能です(APA, Chicagoなど)。私は最近ほとんどブラウザ上でしか作業しないので、これでとても助かっています。ツボです、大好き!

具体的には、Paperpileの拡張機能を入れると、Google Docs内にPaperpileというメニューが追加され、引用したい論文をPaperpileから引用ボタン(Insert citation)で入力できます。その後、Paperpileメニュー内の参考文献ボタン(Format citation)をクリックするだけで、文献リストを論文の一番最後に自動作成&文章中の引用様式を統一してくれます。

リストは自分が論文内にPaperpile経由で引用したものから自動的に判断して作成されるので、論文内の引用を追加・削除するとそれに伴いリストも勝手に更新してくれます。リスト作成時に、論文中の引用様式も全て統一してくれます。目視で参考文献リストを作成すると、文章中で引用しているのに見落としたり、あるいは文章中で削除したのにリストに残ったままになったりするので、これだと自分が判断する必要がなくなるのでストレスフリーなんです。

あとAPA方式に限って言えば、一回目の引用は(Satou, Suzuki, & Takahashi, 2018)って書くけど、二回目以降は(Satou et al., 2018)になるとか、細かいところ、手動でやると見落としやすいし、間違いやすいので、これをやらなくてもいいだけでとてもありがたいです。

とはいえ本文中の引用様式は万能ではなく、「~と報告されている (Tominaga, 2018)」という形式で全て統一されているので、「Tominaga (2018)によると~」とか「Tominaga (2018)は・・・」と著者が主語に来る際は、最後に手動で直さないとだめです。あと稀に文献リストの引用が変なものが紛れ込んでいたりもするので、最終チェックは必須です。が、手動で全部やるよりは断然楽です。

デメリットといえば、有料(月額2.99ドル(アカデミア価格)・年払い)、Googleアカウントが必須、Google Chrome上じゃないと文献リストさえ見れない(将来的には他のブラウザでも使えるようにするらしい)、Google Scholarに載っていない文献は入らない可能性があることでしょうか。試しにGoogle Scholarに載っていない、日本語のみで書かれた論文をCiNii(日本語の文献検索サイト)で調べて追加してみようと思いましたが、出来ませんでした。

Paperpileを使い始めたのは、私が修士号をとった大学の学部がPaperpileを導入していたのがきっかけでした。今の学部は残念ながらPaperpileと契約していないので私費からお金を払っていますが、それでも大分価値があるサービスです。いや、むしろもっと払ってもいいです。引用文献リストの作成は論文執筆中の重要な過程の一つですが、作業自体は研究と関係ないので、こういう時間をなるべく減らしてもっと違うところに時間を使いたいわけです。

思いついたままにバーっと書いてみたので、ある程度学術論文の引用のこと知ってる方じゃないと意味不明な記事な気もしますが、これが今の私のお気に入りです。とはいえいきなりサービスが終了するかもしれないと思い、ZoteroやMendeleyのアプリも最近インストールしてみました。まだ使ってはいません。

〜追記 2019.9.17〜

自分用のメモのためが予想に反してよく読まれる記事になったので今の状況とか後から思いついたことを少し書いておこうかと思います。

状況からいうと今はもう使ってません。Zoteroというサービスに移行しました。というのも論文を書く媒体を変えたからというのが大きいでしょうか(なのでPaperpileが悪いというわけではないです)。

一番好きなところといってもいいのが、なんといってもGoogle Docsと同期して論文内で引いた先行研究の参考文献リストを自動作成&文章中の引用様式を自動更新してくれるのです。論文引用の様式も指定可能です(APA, Chicagoなど)。私は最近ほとんどブラウザ上でしか作業しないので、これでとても助かっています。ツボです、大好き!

上に書いたように一番私が好きだったのは、Google Docsで論文を書くときに、文章中で引っ張った参考文献のリストを最後に自動生成してくれるのが好きだったのですが、今はGoogle DocsではなくてR Markdownで論文を書くようになったのでこの機能は使わなくなりました。

R MarkdownではBibTeXのファイルがあれば、文章中の引用をちゃんと最後に参考文献リストとして自動生成してくれます。Paperpileの時だと、主語として引用する時(例:Tominaga (2019)は〜)と文末に引用する時(例:〜と言われている (Tominaga, 2019))での引用が異なるが、全て一括で後者になるので前者の場合は手直しが必要と書きましたが、R Markdown + BibTeXの場合だとそれも自動でやってくれます(というか前者の場合は@tominaga_2019、後者の場合は[@tominaga_2019]と書き分けます。tominaga_2019の部分はそれぞれのZoteroの設定によって論文のタグの仕方が異なるので要注意)。

Zoteroに移って思ったPaperpileのいいところ

この記事を書いていたときには当たり前すぎて長所として気づいていなかったのですが、Google ChromeでGoogle Scholarなどで論文一覧を見ていると、既にダウンロードされたものかどうかわかります。ダウンロードしてあるものは重複して保存できないようにわかっているので、「あ〜これ知らないうちに保存してたんだな」と気づきます。

しかしZotero、私が知らないだけかもしれませんが、重複を発見して一つにまとめたりする機能はあるものの、同じ論文を既に持っているかどうか一目ではわからない…(その都度検索すればわかるけど、面倒臭い)。

これが今のところ一番の悩みどころですかね…ZoteroもPaperpileと同様Google Chromeにアドインを追加すれば、ワンクリックで勝手に論文情報(可能であれば論文PDFを含む)を検索して保存してくれるので、最低限の文献検索ソフトとしては機能してます。あとは様々な形式(私ならBibTeX)に出力可能ということはもちろん、保存したPDFの名前を統一した形に書き換えて保存してくれるなどZoteroならではの拡張機能もあります。

何と言っても無料なので、今のところはお金を払ってPaperpileに戻ろうという気はありません。最近はGoogle Docsもバージョン管理が入ってるようですが、頑張ってGitを使うようにしたので、今はもっぱら何でもコードとして管理する方向にしています。あとは論文生成時にちゃんと解析コードを回したいというのも、R Markdownを使う一番の理由でしょうか。

ということで今はもう使ってないPaperpileの記事がよく読まれているのが…何とも微妙な気持ちになりますが、Google Docsで論文を書くとか、文献管理ソフトの導入みたいな意味では使いやすくていいかなと思います。博士課程になるとプロジェクトもファイルの種類も増えて管理することが多くなるので、なかなかGoogleのサービスだけでは厳しいというのが正直なところですが、修士の時はだいたい学期ごとに二、三枚しかエッセイを書かなかったのでGoogle Docsで十分大丈夫でした(※イギリスの修士に行ったので、日本のガチの修士とは状況が異なります)。

Paperpileの事もっと知りたいという人は下記のサイトがかなり詳しいので、見てみると良いと思います。

文献管理するのが研究のメインではないので、あまり手はかけたくないですが、しかしここをあまりないがしろにすると無駄なことに時間を取られそうなので、何かいいサービスがあったらまた使ってみたい今日この頃です。