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パチンと留めた【ショートショート#8】

赤いホチキスが、自宅の前で俺を待っていた。
職場の机にいたはずなのに。
「あなたに惚れたの」

ちょうど赤い夕焼けの時刻。
「きれいだなぁ、ずっと見ていたいなぁ」と、
思わず口に出た。
パチンと音がして、俺と夕焼けは一緒に留められた。
それから俺の周りはいつも夕焼けの紅に染まった。
とても仕事にならない。

「なあ、ホチキス。これ、外してくれないか。
どうせなら、ハルカちゃんとくっつけてくれよ」と俺は頼んだ。
大好きな彼女となら、ずっと一緒にいたい。

ホチキスは恨みがましい目をしながら、ハルカちゃんと俺をパチンと留めた。

ご飯も一緒、
寝るのも一緒、
会社も一緒、
お風呂も一緒、
トイレも一緒。

下痢をしたときには参った。

「ホチキス、はずしてくれ」
ハルカちゃんはヨロヨロしながら去っていった。

ホチキスはその後ろ姿を見送ると、
俺に接吻してきた。

くちびるがパチンと留められた。
「フガフガ、フゴフゴ」
俺は叫んだが、話ができない。

ホチキスは、怪しい微笑を浮かべた。
「これで命令できないわ。
私たち、ずっと一緒にいられるわね」

ーーーーー

あつこのつぶやき

「ホチキスがキス」と最初書いたのですが
「布団が吹っ飛んだ」みたいだと思って変えました。

皆さんは「ホチキス」と呼んでいますか?
うちの理科系オットは
「正式にはステープラーだ」
と言って譲りません。
何が違うんだろう…。
ま、別にいいか。

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