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鍵はどこに行った?
スーパー温泉の脱衣所で。
白髪でダウンコートまで羽織ったおばあちゃんが、ロッカーをひとつひとつ開けている。
歳の頃80歳くらいだろうか。
なんだか口の中でぶつぶつ言いながら。
見かねたのだろう。そばにいたおばさんが声をかけた。
「どうされました」
おばあちゃん「鍵がないんです」
ここのロッカーキーは、伸縮性のあるぐるぐる巻いた輪っかの紐が付いている。
スポーツクラブにもよくある、あれだ。
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おばあちゃん、身支度を終えて帰ろうとしたら鍵がなかったらしい。
2人でロッカーの周りを手分けして探したが見つからない。
どこに鍵をつけていました?と聞かれたおばあちゃん。
「お風呂に入るときには、足首につけているんです」
聞きながらあつこも考える。
足首につけて抜けてしまったのだろうか。
でも着替えができてるんだから。
さっきまであったんだよなぁ。
おばさん、つと立ち上がると部屋を出て行った。
「今、受付の人に話してきました。見に来るそうですよ」
すぐにお店の人がやってきた。30代と40代くらいの女性2人である。
店員「鍵がないんですね」
おばあちゃん「ええ、そうなんです。申し訳ない、見つからなければ弁償します」
店員「もう一度探してみましょう。ちょっとお体に触ってもいいですか?」
そう言って、2人がかりで、おばあちゃんの洋服のポケットなどを探し出した。上着。ズボン。ダウンコート。
ない。
次は、手首。
ない。
袖をまくり上げて手首のちょっと上まで、、、。
「あった!」
鍵はおばあちゃんの肘の下あたりにちゃんとくくりつけられていた。
「あらあら」と言ったまま
言葉が続かないおばあちゃん。
鍵はちゃんと腕についていたのだった。
お店の人も、おばさんも、にっこり笑顔。
「あってよかったですね」
ーーーー
あつこは脱衣所を出た。
帰りのバスがもう来てしまう。
なので、その後の光景は見ていない。
バスに乗り込みながら考える。
お店の人が手慣れていた。
優しく声をかけながら、洋服のポケットを探す。
そして、体も探す。
スーパー温泉は、年齢が高いお客さんも多い。
鍵をなくすお客さんもよくいるのだろう。
たいていの場合、洋服や体を探せば出てくる。
まるでそう知ってるみたいな接し方だった。
従業員にも、高齢者にどう対応するかスキルが必要な時代なのた。
いや、スーパー温泉の従業員だけではなく
社会全体が高齢者にどう対応するか、スキルが必要なのだ。
困っている高齢者を前にして、ちょっとしたコツを知っていれば。
どのように声をかけるかとか、どのように行動するかとか。
社会全体がもっと優しくなるに違いない。
そんなコツを知っている人がいたら、ぜひ発信してほしい。
自分がわかったら発信したい。
そして、、、、
自分も鍵をなくさないように気をつけよう!
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