りんご切る人、食べる人
日曜日、ちょっと遅めの朝ごはん(担当夫)。
デザートの果物が不思議な形をしていた。
りんごだ。
皮付きで薄く切られている。
芯の部分がとられていない。
まるごとそのままを7ミリくらいの幅でカット。
おせんべいのようだ。
しかもお皿への置き方が。
カエルか。
(ミッキーマウスのつもりだったらしい)
薄いので食べやすい。サクサク。子供やお年寄りも食べやすい。皮ごとなので外側と内側で食感が変わる。芯の口当たりが気になったので少しだけ残したが、夫は全部食べていた。
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なぜこんな切り方をしたのか。
夫はNHKの「あさイチ」のりんご特集を見ていた。スターカットと紹介されていた。
スターカット。確かに中心部が星のように見える。1番大きいところだ。
調べてみると、りんごの産地、青森県でも推奨されている食べ方だった。
ゴミも少なく、皮ごと食べられて栄養もあり、しかもかわいい。
ーーー
幼い頃、果物は母が切っていた。
りんご、柿、桃、食べやすい状態になって出てきた。それが当たり前だった。
あるときの台所。わたしは小学校1年で、家事をする母の側に立っていた。
皮をむきおわったばかりのりんごを、母はひと切れ取ると、ささっと自分の口に入れた。
動く母の口を見つめながら、びっくりするわたし。
すると母は
「秘密ね」
といいながら、ひと切れくれたのである。
そのあと、母は何事もなかったような顔をして、食卓にりんごの皿を出していた。
わたしは台所でもらったりんごを食べた。食卓で食べるのはなんだか恥ずかしかった。
ーーー
なぜ母は台所でりんごを食べたのだろう。ちゃんと食卓で食べればいいのに、と幼いわたしは思っていた。
結婚して、誰かのためにりんごをむくようになった。食べる人専門だったのに切る人になったのだ。
食べたいのに、食べる順番が1番最後になってしまう。
食卓では、夫や幼い2人の子供たちがりんごを待っている。出したらわっと食べられて、自分の分は残ったり、残らなかったり。いずれにしろ食べ残しだ。ゆっくりご飯、なんてものではない。
待ちきれない。
だから、1口カプリと食べて味を確かめて自分の心を落ち着ける。そして、果物の用意を続ける。
これは、あの時の母だ。
そうか。
母もすぐに果物を食べたかったのだ。母も子供が3人いて、食べ物はあっという間になくなっていた。なんやかんやで、ゆっくり食べてなんていなかった。
あの時のりんごは大きくて甘くて、特においしい種類だった気がする。。。
そうか、そうか。わかったぞ。
結局、母もわたしも食いしん坊か。
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今は夫と2人の暮らし。静かにりんごが食べられる。切る人であったり、食べる人であったり。
立ち位置も、柔軟に変えられる。
心地いい関係ではある。
娘夫婦を見ていると、妻である娘が切る人であることが多い。が、娘に言われて、夫である義理の息子が切る人になることも。
若い頃から柔軟に立ち位置が変えられる方が、便利な気がする。がんばれ、娘よ。
遊びに来た1歳の孫に、スターカットを出してみた。
小さな手で薄いりんごの両端をもち、サクサクと食べ進める。
そうか。どうやら、この子も食いしん坊らしい。