おいしいもの【ショートショート#15】

「ママ、うさぎっておいしいの？」
と小学校2年のけんたくんは質問しました。

「ウサギねぇ。ママは食べたことないわ。昔は食べたみたいだけど」

「きっとおいしいんだよ。だって今日おんがくの時間に習ったもん」

ここでママはピンときました。

「けんた、それはこんな歌じゃない？

ウサギおいし、かのやまー♪」

「すごいねママ」

ママは笑いそうになるのをこらえました。
ーーー

「ぼく、おいしい歌をもうひとつ知ってる。

どんぐりがいたお山はおいしいんだよ」

ママは考えてみましたが、よくわかりませんでした。

けんたくんはニコニコしながら歌います。

「どんぐりころころ　よろこんで

しばらくいっしょにあそんだが

やっぱりお山がおいしいと

ないては　どじょうをこまらせた」

「けんた、それはどんぐりころころの２番？」

「うん、お山のおいしいものってなんだろうね、ママ」

「うーん、なんだろうね」

ママは自分が小学生だった頃のことを思い出していました。

「あかいくつ　はいてた　おんなのこ

いい爺さんに連れられて

行っちゃった」

そう、歴史は繰り返すのね。

ママは、そっとけんたくんを抱きしめました。

ーーー

あるあるなお話。
けんたくん、ぎゅーっ。