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星野リゾートの「教科書」!プレイングマネジャーから脱却するヒントが詰まった1冊『1分間エンパワーメント』

前回の記事では、主にマネジャーに求められる能力について解説しました。

例えば、その一つが言葉にする力です。自らの組織の果たしたい目的や、なぜその目的を果たす必要があるのか、目的達成のためのプロセスや手段、組織体制や仕組みが適切である設計を行い、それらの実行可能性があることを明らかにすること。その他、限られたリソースをいかに有効に投資して最大限のリターンを得るかという、収益管理の重要性にも触れ、組織の向くべき方向を定めるための「ピン留め」能力にも触れました。

ピン留めの能力を高めるために必要なことがなことは思考を積み上げること。一方で日本企業は、1分間エンパワーメントとして現場業務に追われるマネジャーが多いことで知られています。そんな中で、本来マネジャーが行うべき業務の一つである「考え抜く」という時間をいかに割けるか。この点に関して参考になる書籍を、今回は紹介します。初秋に読む書籍としてもおすすめの1冊です。


星野リゾートが参考にした、チーム作りの「教科書」

今回ご紹介するのは『社員の力で最高のチームをつくる――〈新版〉1分間エンパワーメント 』(著:ケン・ブランチャード、監訳:星野佳路、ダイヤモンド社、2017年刊行)です。

書籍のキャッチコピー的な言葉である「エンパワーメント(empowerment)」とは、直訳すれば「力を与える」「自信を与える」といった意味であり、特にビジネスでは、各メンバーや組織が持つ力を最大限に引き出す環境を整える、といった意味合いを持ちます。書籍の内容を理解して実践すれば、これまで以上に自立的な組織が実現でき、上述したようなマネジャーが陥りがちな課題を解決し、考える時間を捻出できるようになるはずです。

その意味で、おそらくこのnoteの読者層に多いマネジャーの方々にとってぜひ読んで欲しいとともに、自身の能力をこれまで以上に発揮したり、組織をアップデートしたりできるという観点から、現場で活躍している方々にも読んでいただきたい1冊です。

私がこの書籍を知ったきっかけは、講演でご一緒した星野リゾートの星野代表がおすすめされていたことでした。星野リゾートでは、本書を教科書のように活用して組織を生まれ変わらせたそうです。

書籍はストーリー仕立てで、自社でエンパワーメントに取り組みたいと考えながら、なかなかうまくいかない企業の社長が、反対にうまくいっている企業へ成功のコツを聞きに行く――といった形で進行していきます。

自立的な組織を実現するための3箇条とは?


本書でまとまっている、エンパワーメントにおけるポイントは大きく3つに分けられます。「正確な情報を全社員と共有する」「境界線を明確にして、自立的な働き方を促す」「階層組織をセルフマネジメント・チームで置き換える」です。

中でも重要だと感じるのが、1点目の情報共有です。これはRevOps(Revenue Operations)にも通じる考え方といえるでしょう。実際にタイトルからはイメージできないほど、本書のそこかしこに数値やデータの重要性が取り上げられています。特に印象深いのが「エンパワーメントとは、人にパワーを与えるものではない。人はもともとパワーを持っている」という1文です。

考えてみると、私たちが自立的に動けないシチュエーションというのは、何も情報を与えられていないような状況ではないでしょうか。例えば、何も聞かされずにただバスに乗せられてどこかに連れていかれたら、事前の準備はできませんし、バスをおろされた後も戸惑うだけです。

一方で、事前に「サッカーをやる」と教えられていれば、着いたらグラウンド整備をしたり、事前にボールを持って行ったりできるでしょう。つまり、私たちは目的地ややるべきことをしっかりと事前に理解できていれば、自立的に行動できるのです。

これをビジネスに置き換えてみましょう。自身が営業メンバーだとして、実際は部署の売上目標達成に向けて数千万円のギャップがあるにもかかわらず、データを可視化できていなかったり、営業部長が情報を共有してくれなかったりすれば、自らアクションを行うことは困難です。

反対に組織のギャップが明確になっていれば、各メンバーが危機を乗り越えようと工夫できるはずですよね。少なくとも数名はそのように動きます。私自身、パイプラインの可視化を行い組織の状況を共有したところ、チームのメンバーから「こんなことができるかもしれないので、やっても良いですか」「このアクションでギャップが縮められるかもしれません」といった意見が出やすくなったことから、情報の可視化や共有は非常に重要なものだという実感があります。実際、私の口癖は「みんなに共有しなよ」ですから(笑)。とにかく日本企業は「部外秘」の情報が多い傾向にありますが、これが組織の自律性を損なっている部分もあるのではないかと感じています。

そうではなく、情報はとにかく共有してみてはいかがでしょう。本書には「正確な情報を持っていなければ責任ある仕事はできない。正確な情報を持っていれば、責任ある仕事をせざるを得なくなる」という言葉もあり、各メンバーや組織の底上げにもつながるはずです。

星野リゾートでは、この考えを応用して、全ての施設で稼働状況を可視化しているそうです。それにより、通常であれば稼働率が下がるような時期に高い稼働率を維持できる施設が分かり、問い合わせからナレッジの共有が生まれるなど、良い効果が生まれているといいます。

「ベクトル合わせ」も欠かせない

本書では第1のポイントとして情報の共有を挙げていますが、個人的には、その前段階として「ベクトル合わせ」も重要だと考えています。というのも、企業の草創期は創業者のマンパワーだけでも何とかなりがちですが、規模が大きくなれば方向性を統一するのは容易ではありません。そこで、創業者の考えているビジョンなどを明文化して、向くべき方向性を合わせることが必要になるのです。

そもそも、このベクトル合わせがしっかりできていないと、情報を共有する仕組みがあってもうまく機能しません。情報をどのようにつなぎ合わせるか、どんなアクションへと昇華させるかが不明瞭になってしまうからです。

例えば、このnoteで何度も触れているRevOpsの取り組みでは、収益性と顧客満足度をともに向上させる必要があります。このベクトル合わせができていない場合、顧客満足度は高まるがコストが大きく、収益につながらない施策、あるいは逆に収益性は高まるが顧客満足度には悪影響、といった施策が生まれるリスクがあるでしょう。収益性が損なわれるということは顧客提供価値を生み出すプロダクトやサービスに投資が出来なくなります。最悪の場合、事業が存続できず顧客はサービス利用を断念することになります。顧客提供価値と収益性は両立させることが大前提です。

マネジャーは孤独 だからこそ、頼れる仲間が必要

さて、今回はエンパワーメントをテーマにした書籍を基に、マネジャーがマネジメントに集中できる環境を構築するためのヒントをお届けしてきました。エンパワーメントに成功できれば、自立的なメンバーと組織が育ち、困ったときに力を借りられるようになるはずです。

マネジャーという役割は、組織がデータを活用する体制を整備し、課題解決のための情報を把握するだけでなく、ゴールに向かって各メンバーがしっかりアクションできているかをモニタリングしたり、あるいはそのデータ活用やアクションが組織のカルチャーやコンプライアンスにマッチしているかを確認したりと、業務内容が非常に多岐にわたるものです。

加えて、最後の最後で行う決断は、自分自身の責任においてなさねばならず、その点では非常に孤独なものともいえます。だからこそ、困ったときに頼れる、自立的なメンバーや組織、そして組織の状態や組織マネジメントに必要なデータをいつでも活用できる状況をいかに整備できるかがパフォーマンスに直結します。ぜひ、今回の内容を参考にしてみてください。


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