「乗数」財政の波及効果
乗数とは総支出の自律的変化に対する実質GDPの変化のことだ。
乗数の概念はもともと、史上最大の経済破綻を理解しようとした経済学者たちによって考案されたものだ。その経済破たんとは、1929年から1933年にかけて生産と雇用が崩壊し、大恐慌につながった破綻のことだ。
「表11-2 大恐慌時の投資支出、消費支出、実質GDP(2005年ドル、10億ドル)」
1929年 1933年 変化分
投資支出 101.4 18.9 -82.6
消費支出 736.3 600.8 -135.5
実質GDP 976.1 715.8 -260.3
(出所)アメリカ経済分析局
表11-2の数字によってわかることは、大恐慌の時の乗数はおおよそ3(小原追記:260.3/82.6=3.15)だったということだ。現代の乗数の推計値はこれよりもかなり小さいことが多いが、それには理由がある。1929年時点では、アメリカ政府は現代の基準からみるとかなり小さかった。税金は少なく、社会保障やメディケアといった大きな政府のプログラムは存在しなかった。現代のアメリカ経済では、税金はかなり多く、政府支出もそうだ。どうしてそのことが関係するのかって?それは税やいくつかの政府プログラムには自動安定化装置の機能があり、乗数が小さくなるからだ。
『クルーグマンマクロ経済学[第2版]』東洋経済新報社、2019年、pp.411-412。
ケインズ『一般理論』は、経済学だけでなく財政学の分野に対しても革命的衝撃を与えずにはおかなかった。それは、政府は原則として公債を発行せず、支出は税収の範囲内でうやりくりをし、したがって均衡財政主義を維持し、できるだけ「小さな政府」をめざす、という古典派財政原則からの根本的転換である。そして、そのための理論的根拠を提供したのが、乗数理論であった。
菊池裕幸(2016)「第20章財政思想」植田和弘・諸富徹『テキストブック現代財政学』有斐閣、p.343。
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