<第33話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~
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この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
<第33話>
三重県警のアホに要らぬ容疑を掛けられて逮捕はおろか立候補も出来なくなっては元も子もないので、策を練る事にした。
沈んだ気持ちに反して初夏の爽やかな風が築30年の未来荘を吹き抜ける。
さて、頭上の五月蠅いハエを追い払うには権力者の圧力が一番効きそうだ。
美賀忍者城を建てた地元の名士で国会議員の妾に産ませた息子の嫁で自治相談員をしている辻崎に電話相談してみる事にした。
どうせ今日もレオナールのサマーニットを着て市役所にしれーっと鎮座しているのである。
「トゥルルートルゥルー・・」
「ありがとうございます。中山クリーニング店です。」
中山の妻の実都子が出た。
「ふぁっ!間違えた!」
ケータイの連絡先リストで、美賀市内の人には全部、頭に「美賀」と付けているのが災いした。
中山クリーニング店をタッチしてしまったようだ。
「え、え~っと、あの外務省から国民を守る党の門田マチルダです。お変わりございませんか?」
シドロモドロながら挨拶でごまかす。
「あー、マチルダさん?お久しぶり」
「んーーー・・何かお預かりしてたかな?」
「いえ、あの・・・・。ないです。あの・・・。またポスティングしに行っていいでしょうか?」
先週も同じ地域にポスティングをしたが、続ける。
「新しく第5弾のチラシも出来たので・・・あ、ポストかどこかに入れておきます。では、失礼しま・・」
「あ、ちょっと待って!」
間髪入れずに実都子が言ってきた。
主に法人客が相手なのもあって、実都子は店番くらいしかする事もなく暇なのだ。
そしてフレンドリーなのが美賀市民の良いところだ。
「大輔がよういう事聞くねんかー。」
「?」
どう聞いても大輔を咎めているイントネーションなのだが、内容は褒めて自慢しているのである。
最近は息子の大輔が店を手伝ってくれるようになって助かるという話しに始まって、ばっちり彼女までいるという事も話しだした。
長くなりそうなので、靴下を脱ぎ始める。
「息子が言うねんかぁ。大学に行った同級生はみんなヘンタイばっかりやて」
「はぁー。」と相槌を打つ。
「みーんな、彼女もいてへんって」
なぜ、大学に進学した同級生たちに彼女がいないとヘンタイになるのかさっぱり解らないが、この親子の間ではそういう認識になるらしい。
「25にもなって彼女もいてへんヘンタイばっかりやして。うちの息子はおるけど」
得意気に言うこのセリフはもうリバースして4、5回目くらいだ。
店でバイトに精を出すJKがパタパタと足ふきマットを畳んでいる気配がする。
今までバイトのJKと付き合わなかった方が変ではないか?
と思いつつ「ほう、そうなんですね。」とパターンを微妙に変えて同調する。
「ご主人さんもお変わりないですか?」
「ああ~、ありがとう。うちの旦那もチラシ見てマチルダさん頑張ってるなぁ~って言うてたわ。」
いつも辻崎さんに恫喝し、強面のクセに、電気の点かない倉庫には恐くて行けない中山の顔を思い浮かべる。
「え、え、そうなんですか?ありがとうございます。お代わりなく・・。」
「せやに。今、研修行ってて、あ、帰ってきてへんわして!」
暢気にコロコロ笑っている。
息子の大輔が子供の頃、体が弱かった事は大家さんから聞いていた。
そんな息子が夫の不在中に母親を助けてバリバリ働いてくれる事が嬉しくて目を細めていたところへ私からの電話だ。
「一昨日帰ってくる予定やったのに。何してんねやろww」
それにしても、夫の帰宅する日まで忘れてるとは、何とも暢気な事である。
「ご心配ですねぇ。あ!私そろそろ出かけなきゃいけないので・・。」
上手い事テンポがあって、切る事が出来た。
それにしても研修の日程が急に伸びる事なんてあるのだろうか?お客さん商売なのに。
予定より3日も帰宅が遅れるなんて。
家族に連絡もなく・・・・。
つづく。
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