<第44話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~
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この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
<第44話>
アホの鳥好きのオマワリなんかに惑わされている場合ではない。
今日は参議院議員の立候補届出書類の事前審査だ。
これだってミスる訳には行かない。
早朝から三重県選挙区選出議員選挙候補者届け出書、宣誓書、所属党派証明書、政見放送申し込み書などを何度も確認する。
ツバをつけて捲る指が摩擦で指紋がなくなってそうだ。
写真も筋肉が引き攣った無理くり作り笑顔の奴を数枚ファイルに入れる。
これまで政治とはまったく違う畑にいた外国党のスタッフたちが睡眠返上でシッチャカメッチャカで作ってくれた書類の重みを感じて部屋を出た。
ダイサギの生息地帯である農道を避け、繁華街の間を通って県庁に向かう。
「何回も確かめて間違いなんかないんだから、もうコレ正式に受理してよ!」
と一生分ほど遜って職員に懇願するも聞き入れてはくれなかった。
逆に「なぜ、そんなに早く受理させたいのか?」と聞かれても「猟奇殺人犯で逮捕間近だからです」とは言えない。
否、私はやってない!
免許証も見せて、いっぱいハンコも押して、住民票に戸籍謄本まで取り寄せて同封して、それでも尚、役所は「替え玉出馬があってはならないから」と確認した書類を大きな封筒に入れて、シュッとした職員2人掛かりで厳重に封をした。
「告示日に届けを出して受理される前に開封すると最初からやり直しになります」と中間管理職っぽい方の職員に言われた。。
ったく、同一人物であっても野党の癖に無所属で出たり、顔を整形してたり、大学院に在学して学歴ロンダリングしてる人だっているのに、そっちの方がよっぽど問題じゃないのか?!
終始負けっぱなし感ハンパない思いで、わきの下にびっしょり汗をかいた。
咽喉カラカラで県庁の出口をトボトボ出る。
遠く前方にヘリポートまである三重県警本部の屋上を仰ぎ見て、すべからく役所と相性の合わない自分に惨めな感情が押し寄せてきた。
「まだだ!外務省をぶっ壊す!まで」と一瞬沸いた劣等感を胸に押し殺す。
名倉市駅裏に出来たスポーツジムの搬入車入口前の道路に停車して張る。
ここで大輔を待ち伏せするためだ。
私はついに本丸に飛び込む事にした。
大輔は取引先の理美容店を回った後、定休日のジムの廊下に出してある足拭きマットが入ったメッシュコンテナを回収するのだ。
中山クリーニングの仕事のルーティーンはたかゑから得た細かな情報を繋ぎ合わせるとだいたい把握出来ていた。
こんな大胆な事は政見放送がほぼ完成して少しだけ心が晴れやかになるのを許している今しか出来ない。
パフォーマンスの中身としては「ツカミでNHK批判から入り、外務省の問題点を手短に説明し、政見放送中にある大国の大統領から生電話が掛かって来るというコミカルな寸劇風」に仕上げる事にした。
披露するのがちょっと楽しみになってきてもいた。
同時に「この件はやっつけておかないといけない!」と不思議なパワーに背中を押された。
しかし、どう切り出せば良いのか?
親にとって好青年でも見知らぬオバハンにはどうなのかは分らない。
いきなり殴られたりしないかと緊張で体が強張るが中高年の図々しさで乗り切ろうと丹田に力を込める。
そして質問を考えた。
「私の売れないネット内のTシャツショップに1907個もの『イイネ』がついていたのですが、その理由をご存知ですか?」
変だ!変すぎる!
「あなたのお父さんは私の債務3000万円を気にかけてくれてたのでしょうか?」
これも変だ!
イメトレの甲斐なく、もうさっきからワゴンにコンテナを積む大輔と何度も目が合っている。
スゴスゴと小走りし「大輔君ですか?」と恐る恐る声を掛けた。
「あ、あの~、中山さんはもう帰って来られましたか?」顔を上げた大輔は、目に涙をいっぱい溜ていた。
つづく。
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