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<第27話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~

月曜日~金曜日更新
 この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

<第27話>

事故物件の隣、倉庫として借りている漆黒の部屋の中でなされた息子との会話から数カ月がたった。
大輔の話しによると、陽子は今、「乗り越えたから大丈夫」だと言っていた。

平日の昼間から俺は市役所前の歩道で船盛とビラ配りをしている。
「巨大風車建設反対!」のビラだ。
船盛の腕まくりした姿がまた誠実さを演出し、叫ぶ様が好青年な風貌とミスマッチして人目を引く。


「オーストラリアのウオータールーという町ではー、風車から3Km圏の地域に人がー、住めなくなっていまーす!」
久々のフレキシブルなネタに先生はいつも以上にイキイキしている。
案の条、群がってくるのはタニマチ気分の高齢者ばかりだ。
孫には相手にされなくとも県議会議員は笑顔で接してくれる。
これは最早、豊田商事の被害者と同じだなと苦笑する。
急部電力の風力発電事業が計画されていた。
しかも地域住民への最終説明会は既に終わっているという。
人一倍、政治や健康に関心のある高齢者が知らぬ2年も前にである。
さびるの温泉の裏山に巨大な風車が新たに28基も建設されるというのだから政治にも健康にもさして興味を持っていなかった地域住民にとっては寝耳に水である。
既に91基もあるのに。
自然破壊、土砂崩れを引き起こし、現状回復、安全の担保もないまま計画が遂行されるのであれば、左翼でなくとも、子育て中の母親たちが立ち上がるのも無理はない。


この反対運動においては、軍用地の売買には全く関心を示さない沖縄左翼と違って、甚大な被害をもろに受ける地域住民に正当性があると思っている。
市長と急電とのメシウマ蜜月癒着のために生活を生贄にされたのではたまらない。
来年一月には移転する市役所の新庁舎建設で土地の取得に関して市長の親戚が私腹を肥やしたという噂もあるのに、巨大風車建設でも更にどれだけの金が動いているのか?
ドラム式の洗濯機を回してナンボのビジネスとは桁外れな事業だ。
闇の深さは計り知れない。


「世界中、巨大風車による低周波音で不眠、めまい、吐き気、耳鳴り、自律神経失調症などの健康被害がー、出ていまーす!」
叫んではいるが、有権者とのわきあいあいとした雰囲気から船盛が真剣にこの問題を解決しようしていない事が伺い知れる。
それにしても、風車から3km圏がゴーストタウン化していると顕在化しているのに、さびるの温泉の裏山から一番近い民家まで850mしかなく、住宅団地全域が風車から4kmしか離れていない。
「土砂崩れになりまーす!」
船盛が声を枯らしている。


「なぜ自分で阻止しようとしないのだろうか?座り込みでもマスコミを伴っての知事への申し入れでも何でも出来るだろうに」
ここ数年、船盛の支持者として行動を手伝ってはいるが、この疑念が消えた事はない。
県議会議員の船盛は他府県の活動も含めて、人の活動にタダ乗りしては地元で得票数を稼いできた。
こんな男が上位当選する現状に、これも民意なら仕方ないと思いつつ、肩を落としながら自分でもビラを配る。


山村がビラを配っていた時もこんな感じだっただろうか?
今は亡き国会議員の秘書としていろんな市民活動に参加しているようだが、今日は来てないようだ。

その日、原付バイクに乗ってバイトに行く途中、大輔はビラを配る山村を見かけた。
船盛ほどではないものの数人の暇人たちに囲まれ立ち話する山村に酒に酔った井戸がワーワーと絡んでいたという。
「ウンコ! マンコ!」
きっと周りの人々には何の事だかさっぱり解らなかっただろう。
蜘蛛の子を散らすように暇人たちはその場から去って行くも、尚、井戸が執拗絡み「ウンコ!マンコ!オメー知ってんろかー!」
無視する山村に掴みかからんとする勢いで怒鳴る井戸。
口の臭い山村でさえもアル中・DVの下品な口臭にはさぞかし辟易しただろう。


大輔とて、2車線の国道が交差する雑踏の中にいて、ヘルメットで外側と遮断された大輔の耳にはバカな酔っ払いの言葉など届くはずもなかった。
相手にされずふて腐れて呟いた井戸の最後の言葉が状況を一変させた。
「ライルケ・・・」
聞える筈もないのに、無意識に耳が捉えたか、唇の動きで察知したか、大輔は自分の体に戦慄が走るのを感じた。


「陽子、マルコ、大輔、お前は知ってるのか?」
この地球上で唯一、大輔だけがハッキリと聞き取れるワードだった。
否、正しくは大輔と陽子の二人だけが。
そして、これは質問じゃない。
井戸は山村に暴露していたのだ。
美賀忍者城の足元で大輔だけが、状況の全てを理解していた。

つづく。


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