<第41話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~
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この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
<第41話>
頭が混乱してきた。
混乱してる場合じゃない、着々と時は過ぎ、告示日が迫ってる。政見放送も収録までに完成させて暗記しなきゃ!その前に逮捕されたらどうなる?
3000万円払える?
「で、選対委員長!、私どうしたらいいの?」
「誰が選対委員長やねん!」
「まずは警察の誤解を解くべき?参議院選挙に邁進するべき?それとも美賀市議選に向けて一点集中するべき?3000万貯めるべき?」
「全部、無理」冷たく卓谷が言う。
「いやいやいや、警察はそこまでアホじゃない。動機がない!」
私に井戸をバラバラ猟奇殺人する動機なんて存在しないのである。
「動機はあれよ『井戸が自分の選挙に邪魔だった!』これで決まり!」
「やめてよ!」
「やめない。警察はアホなのだ」
恩知らずという点ではアホかもしれない。
「私は街宣の度にパトロール中の警官の労を労い、『おまわりさんありがとう!』Tシャツまで販売してるんだから!」
当然に少なからず美賀市に住んでいる警察官票というものを獲得したいという下心はあったにせよである。
「私の誠実さは警察こそが一番、理解してるはずなのよ!」
「その、Tシャツ売れてんのかよ」笑いをこらえながら卓谷が言う。
スマホ画面をタッチして自分のショップを確認する。
「売れてませんけど!」
「ギャハッハハハ」と大の男の癖にドタバタして卓谷が笑い転げた。
こんな男でも従業員を2人も雇い、一人親方として成功しているのだから悔しくて仕方ない。
「あんた、たかゑからパンツなんか買ってないで、私のTシャツ買いなさいよぉ~。マグカップもあるんだからぁ~」
もう半泣きになっていた。
本当にどいつもこいつも私には冷たい。
殆ど建設的な話しもせずに卓谷が帰った後「私が国会議員になったら自分の事を『国壊議員』と自称する宇治元ミキヨと組んでムカつく奴全員死刑にしてる!!死刑に反対してる日弁連の弁護士どももひっくるめて全員死刑にしてやる!」という気持ちを込めて、「地上の星」を熱唱したのだった。
私もさっさと未来荘に帰らねば「居住実態がない云々」と言われかねない。
ただでさえ、たかゑのせいで警察に追われている身なのだ。
左右、前後ろと警察につけられていないか、たかゑがアパートの近くに潜んでんいないか、ビクビクする。
すれ違うパトカー内に「野鳥の会会員オマワリ」が乗ってないか身を乗り出さんばかりに凝視する。その仕草そのもので返って不審者だと思われそうだ。
全てがマイナス方向へベクトルが進んでいる気がする。「運命には抗えない」とはこの事か・・・。
「何も売れてないなんてあり得ない!」
晩ご飯のグリーンカレーを飲み物として食し、PCで自分のショップのULRを入れてキーを叩く。
明るい画面にアイテムがバーッと広がっている。
卓谷でさえ買わないだろうが「測量さん ありがとう!」の文字が入ったTシャツを新アイテムとして追加する。
本来は「測量士さん ありがとう!」とする所だが、奴は無資格者だからこうしておく。
しかし、それにしても全然売れてない。
「設定」を見直すと、「イイネ」ボタンを見つけた。
いくら放置していたとはいえ、無反応というのはおかしいと思っていた。
「イイネ」が表示されるように設定し直すと、誰も購入はしていないが「イイネ」はチラホラ入っている。
「おお~!」
思わず歓喜の声を上げた。
そりゃそうでしょう。
これでも人の心の琴線に触れるフレーズをチョイスして入れているのだ。
「肉体言語」、「愛国無罪」、「推定無罪」、「おまわりさんありがとう!」には
には一つずつ、「急げ、核武装!」、「自衛隊さんありがとう!」にも二つずつイイネが押されていた。
肝心の「外務省をぶっ壊す!」には誰もイイネを押してくれてないのにはガッカリしたが、「えんとつ町のプペル」シリーズには2,3個のイイネが満遍なく入っていた。
コップに入った水道水を飲む。
塩素の消毒味が良いアクセントになっている。
気をよくして目を横に滑らせると驚異の数字を見つけた。
「え?!」
体が一瞬硬直した。
「1907」ものイイネが押されている。
驚いて二度三度と数字を見る。
消し・表示、消し・表示をカチャカチャと何度もクリックしてみた。
やっぱり「1907」イイネが入っている。
咄嗟に設定を非表示に戻し、PCを閉じる。
それは「DV男をぶっ壊す!」というTシャツに付いていた。
つづく。
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